第74話 新たな仲間

「私はライネっていいます。年齢は18でランクはブロンズで、槍が得意です!まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします!!」

「「ライネちゃん(さん)よろしくねぇ~」」


 薄い茶色の木のコップを両手で持ち、何処か緊張した面持ちで自己紹介を始めるのは、今回暁月の旅団へ入団する三人の新たな団員の内の一人だ。

 ライネと名乗った女性は、ボブ・ショートヘアの短めの茶髪をしており、冒険者らしく革製の防具の上に金属製の胸当てを装着していた。


 彼女のたどたどしい自己紹介に合わせて他の団員達が一斉に返しの挨拶をする。パチパチと軽く拍手が会場を包んで止んだ後、そう長い間を置かずにライネの隣に立つもう一人の女性の自己紹介が始まる。


「・・・・・・セナです。事務方希望で来ました」

「「おぉ~」」


 無邪気で明るい気質のライネとは真逆の陰気な性格をした女性のようだった。

 セナは黒髪に近い暗めの髪色をしており、パッと見は西王寺のように日本人の様な顔立ちをしており、年齢は20歳だそうで俺と同い年になる。以前は王都周辺に存在する村で実家の手伝いをしていたそうで、冒険の帰りに村に立ち寄った旅団のメンバーが彼女を直接勧誘したらしく、俺が使っていた部屋が空いた事もあってチームハウスで住み込みと言う形で入団するそうだ。


 そんなセナの紹介に対して、団員の人達は喜ぶというより感心した様な声を上げていた。


「やっと・・・・・・やっと二人目の事務担当の人が」


 驚いた様子の声を上げている他団員と違い、俺の隣に居た事務や補給関係の担当であるアイナは、小さく拳を握りしめて感動を噛み締めていた。


「・・・・・・やっと正式な事務希望の団員ですね」


 俺も一応事務方の人間ではあるが俺は半分商人としての活動もあるので、アイナが正社員とすれば俺は派遣もしくはパートのような扱いに近い。


 普段であればアイナ一人でも充分余裕を持って仕事を回せるのだが、時折、大型の契約や旅団内で何かしらの出費が重なるとグラフの線がピンと跳ね上がる様に仕事量が急激に増えて対処が難しくなる事があった。


 他の団員に任せようにしても単純に計算が出来なかったり、性に合わなかったりと一癖も二癖もある者達ばかりだ。


 副団長であるラフィンも事務仕事は出来るが、彼女は西王寺ほどではないにしろ、副団長という事もあって普段から多忙を極めている。

 書類関係は全部俺が出来るにしても、アスフィアル世界では何かしらの契約や重要な商談をする際は当事者同士で直接顔を合わせるのが基本だ。そうなればアイナが分身でも出来ない限り、対応できない状況は必然的に生まれてくる。


(・・・・・・単純に俺が男だから旅団関係者として疑われるのが問題なんだよなぁ)


 王都でも暁月の旅団という冒険者チームはそれなりに名が知られ始めている。

 先月から本格的に冒険者稼業が再開され、先日には副団長であるラフィンのパーティーがかなり強力なモンスターを討伐したことで更に名は広がっている様に感じる。


 しかも王国では非常に珍しい(俺以外)女性チームであり、その団員の多くが平均的に顔立ちの良い異世界人の中でも更に上位ということもあって、巷ではアイドル的な人気を博しつつあるらしい?


 その世にも珍しい女性チームという情報が世に出回った弊害で、男である俺が旅団の人間として商談に行くと真っ先に疑われるといった事件が発生し、俺はアイナに代わって役割を担えないでいた。直接旅団のチームハウスに招いた商談でも、お互いの内部事情を詳しく知らない初の顔合わせとかだと、俺が出席すれば必ずと言っていいほど疑われるので、俺が商談の場に出ることは上司であるアイナも諦めていた。


「でも万全を喫するならもう一人欲しい、居ないかなぁ・・・・・・事務希望の女の子」

「難しいんじゃないですかね、計算できるとなれば多くは商人希望でしょうし」


 簡単な足し算引き算ならまだしも、掛け算や割り算といった部分になるとこの世界で計算出来る人はそう多くない。


 正しくはそれら計算出来るような人材が残っていないというのが正しく、在野でそれら人材が見つかれば、すぐに商会やギルドが囲んで雇ってしまうのが現状だった。


 奴隷であっても一日経たずに売れてしまうほど価値は高い。


 少なくとも、これら計算を覚えている人間は商人を志している者が多く、独立志向が高い傾向にあった。


 そんな中で計算が出来て尚且つ事務作業希望となれば、アイナにとって魔法使いの冒険者がチームへ加入するよりも嬉しい事だろう。


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