第72話 大会見学

「いやいや、今回まさかゲームロード様から見学したいと言う申し出を頂いた時は驚きましたよ」


 まるで狐を思い浮かばせる糸目が特徴的な背の小さな男性、縦縞模様の入ったYシャツを着た男性の右胸にはSTAFFの文字が書かれた名札プレートが付けられている。


 名前は遠藤隼人と書かれている。俺の記憶が正しければ今回開かれている大会の主催者に名を連ねていたはずだ。


「今回は急なお願いを聞いて頂きありがとうございます。私は神木晶といいます。こちらの御方はアレン・ウィリアムズさん・・・・・・西王寺グループから見学に来られています」

「本日はよろしくお願いします。アレンです」


 晶さんが言ったウィリアムズという名字はこの世界で登録してある名前だ。向こうではただのアレンではあるが名前だけというのも妙なので、ウィリアムズという名字は特に理由もなく適当に決めたものだ。


「ほぉ、西王寺グループの方ですか」


 晶さんに紹介されて挨拶した所、遠藤さんは下から覗き込むように細めを少し開いて俺の方を覗いてくる。

 じぃと見透かすように値踏みする様子は何処か好奇心がにじみ出ている。


「海外の人にしては日本語が大変上手ですねぇ・・・・・・住まいはコチラで?」

「はい、生まれも日本です」


 俺は見た目こそ外国人っぽいが、外国語は喋れないし文化だって日本人と変わらない。

 むしろ日本語が通じるアスフィアル世界がおかしいだけであって、俺が住んでいるカインリーゼ王国以外にもエルフであるエウルアやアリアすら日本語で聞こえるぐらいだ。


 カインリーゼ王国で深く浸透しているハマ多神教の教えでは、アスフィアル世界に言葉や文字を司る精霊が存在しており、一定以上の位階に存在する生命体は例え種族が違ったとしても言葉を司る精霊を介して不自由なく意思疎通が出来る・・・・・・ということらしい。


 正しくは想いの精霊というらしく、聖書では生命としてレベルが上がる・・・・・・つまり位階が上がると世界の真理を知ることが出来るそうだ。


 なので俺は今まで無意識の内に日本語を喋っていた訳なのだが、事情を知らない遠藤さんにとって俺が流暢に日本語を喋ることは驚くことだったらしい。







『さぁ、昨日の予選をくぐり抜けた猛者達が決戦の舞台へと立ち上がります』


 遠藤さんと挨拶を済ませた後、晶さんと一緒に案内された場所は壇上の隅にある特別席だった。

 本来であればゲーム雑誌の記者やカメラマンが観戦する場所なのだが、その席でも一番最前列に案内され大会を見守っている。


『本選では5Gamesを始めとした各ゲーム雑誌の方々から、今大会ではなんとゲームロード株式会社からも観戦に来ていただいております!!』


 明らかに場馴れした・・・・・・それも喋り方からして本職の方であろう司会の人が壇上の反対側で喋っており、手を差し出して記者席の方を紹介する。


 するとほぼ満席となった観客席からはおぉ、と感嘆の声が漏れており、壇上に立っていた本選出場者の人達も一斉にコチラを向いて驚いた表情で見ていた。


『・・・・・・軽くお辞儀をして貰えたらそれで大丈夫です』

『わかりました』


 俺の横に座っていた晶さんがボソリと小声でそう教えてくれる。俺はその通りに会釈をした所で司会を担当する男性が進行を続ける。観客もそれに合わせて視線を動かし俺への意識は外れた。


(・・・・・・いや、見られているなまだ)


 会場を埋め尽くす観客の殆どは司会実況席に向いているが、一部の人達はまだ俺の方を見ている気がした。

 だからといって観客席をジロジロと見るのも怪しいので気づいていないふりをする。


 ただ無断で写真を撮るのはどうなんだろうか・・・・・・







(・・・・・・駄目だ、全然分かんねぇ)


 大会本選では、壇上に一つの対戦席が用意され幾つものカメラに囲まれる形で試合が始まる。

 ステージの奥と、会場の横に対戦席を映した巨大なスクリーンが設置され遠い観客席の人でもちゃんと対戦状況が確認できる様になっていた。


 大会は既に決勝戦に突入し、話し好きの記者の人から話を聞けば対戦している二人はその道の人達には有名なプレイヤーのようで、片方は昔から様々なコミュニティ大会で優勝を経験している一般人、そしてもう片方は新進気鋭のストリーマーだという。


 ストリーマー?と聞けば、どうやらインターネットでリアルタイムでゲームや雑談を実況配信している人達のようで、近年になって急激に伸び始めた業界だそうだ。


 観客の中にもそのストリーマーのファンが多く居るようで、彼が壇上に現れるとキャーキャーと黄色い声援が飛び交う辺り、記者の人の話は本当のようだった。


 まるで男性アイドルグループの熱狂的なファンのようだったが、試合が白熱すると他の観客と同じ様に歓声が入る辺り、俺よりもクロスワールドについて詳しそうだった。







 ・・・・・・試合内容が全然理解できないまま、大会は無事に終了し、一応クロスワールドの販売元であるゲームロードの関係者ということもあって、俺は上位入賞者と軽く挨拶をして写真を撮ることになった。


 そこで詳しい感想を求められなかったのは、隣りにいた晶さんが俺の前に細かく感想を述べてくれたおかげだろう。


 なんとか大会見学を乗り切って、関係者の人たちに挨拶を済ませると俺はそのまま足早に会場を去った。昨日は露店祭、今日は大会見学とスケジュールが詰まっていたが、明日も旅団の方で新人歓迎会がある予定だ。


 その為、夕方頃までにはチームハウスの方に足を運ばなければならず。東京の自宅に着いたらそのまま俺はアスフィアル世界へ渡った。


 ・・・・・・ちなみに、この大会で写真を撮ったことが後々に大きな話題を呼ぶことになる。





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