第71話 日本の権力と異世界の権力

「うわ、凄い人混みですね」


 俺と晶さんが目的地へ近づくと、幅の広い歩道を遮るように多くの人達がビルの目の前に集結していた。

 その多くが男性であり、全員が少し大きめなカバンやメンズショルダーバッグを肩からぶら下げており、全員が近くの友人と会話をしたりスマホを弄ったりしていた。


 スマホの地図で確認しても、この人集りが起こっているビルでクロスワールドのコミュニティ大会が開催されるという、昨日の時点で既に予選は終了しており、今日は本戦が行われるはずだ。


「一応、俺は事前に許可を貰いましたけど・・・・・・晶さんはどうしますか?」

「大丈夫ですよ、会社の方で事前に話は通しておりますので」


 もしかしたら参加者以外は会場に入れない、という可能性もあったので事前に運営の方に連絡すれば、一般観戦枠なるものが存在するらしく、料金を支払えば大会に参加していなくても見学が出来るそうだ。


 その為、俺は事前に観戦チケットをネットで予約して席を確保していたが、急遽晶さんも同行するということもあって晶さんの分は入手出来なかった。


 なので大会の見学中はどうするのか?と聞いてみた所、晶さんは別のルートで用意していたらしく、手に持っていたビジネスバッグからネームホルダーを取り出した。


 そのネームホルダーにはSPECIAL GUESTと派手な色合いで書かれており、その文字の下には晶さんの名前に加えて【株式会社ゲームロード】とクロスワールドを販売している会社の名前が書かれていた。


 そのネームホルダーは晶さんだけでなく、俺の分も用意されていた。


「今回の大会は西王寺グループの子会社であるゲームロードの公認大会なので、すんなりと話が通って助かりましたよ」

「・・・・・・そういえば、クロスワールドって元を辿れば西王寺グループが販売していたんですよね」


 トレカの仕入れは晶さんを通じて行っていたのであまり実感が無かったが、西王寺グループはクロスワールドを販売している会社を傘下に収めている。


「そうですね、ゲームロードの役員は全員顔を知っていますので、最初こそ驚かれましたが快く引き受けてくれました」

「・・・・・・」


 クロスワールドを販売しているゲームロードという会社は、トレカ以外にもゲームやアニメと言ったエンタメ事業を中心に活躍している企業だ。

 その規模も業界の中では上位に位置するものの、その親会社は世界的な大企業だ。


 そんな大企業のトップである龍幻会長に近しい人物である晶さんが突如として仕事場にやって来れば、対応したゲームロードの役員の人達の心労は計り知れない。


「一般観戦席よりも、企業席の方が詳しく見れていいと思いますよ?」

「・・・・・・そうですね」


 予約したチケットは勿体ないが、折角、晶さんが気を利かせてくれて用意してくれたのだ。俺はその厚意に甘えさせてもらう事にした。







「凄い、カメラが何台も設置されているんですね」

「今回の大会はコミュニティ大会だとかなり大きな部類になりますから、SNSでもトレンドに入っているそうですよ?」


 混雑していた建物の出入口を抜けて、大会関係者のみが通れる通路を歩いて会場となる場所を見てみると、そこにはコミュニティ大会とは思えない程、充実した設備が揃っていた。


 綺麗に印刷された大会用のポスターに加え、旗や段幕も掲げられており、真っ白なカラーの横長テーブルの上には専用で用意されたと思われるフルカラーのプレイマットが置かれていた。


 決勝戦は予選と違い対戦席が減らされているようで会場はかなり開放感がある。会場はライブステージの様に壇上に実況席や対戦席があり、その周辺に観客席があるようだった。


(・・・・・・凄いな、状況が落ち着いたら向こうでも大会を開こうと安易に考えていたけど、この力の入れ具合だと個人で出来る範疇に収まらないな)


 会場設営には多くのスタッフが働いており、照明の調整から器材の確認といった素人では出来ない部分も沢山あるように感じる。


 今回、見学する大会がコミュニティ大会でも特別に大規模なイベントというのは十分承知ではあるが、いざ自分で開催するとなれば個人でどうこう出来るレベルではないと思った。


(しかも大会に参加するのは貴族の学生たちだ・・・・・・これは考え直さないとな)


 大鷲寮に寄宿している学生は大体200人前後だと言う、もちろん、その全員がトレカをやっている訳じゃないだろうが、今の熱の入れ具合を見れば結構な人数が集まる可能性がある。


 しかも子供とは言え、貴族と貴族の間で行われる対戦だ。それ相応のメンツというものが存在し、中には運営サイドに圧力を掛けてトーナメント表を操作したりする・・・・・・なんて事もあり得るかもしれない。


 日本じゃありえないだろ・・・・・・と思うかもしれないが、アスフィアル世界は貴族社会であり、大会運営であろうと参加者である貴族の学生たちよりも立場は下なのだ。


(・・・・・・よくよく考えてみると、不可能じゃないか?俺じゃなくても一般の商会が貴族向けに大会を開催するなんて)


 異世界にトレカを普及させるためにイベントや大会を開こう・・・・・・と考えてみたものの、いざ深く考えてみたら貴族向けの教育機関であるエンファイブ魔法学園で大会を開催するという事がどれだけ難しいというのが想像できた。


(これは、一度白紙に戻して要検討・・・・・・って感じだな)


 少なくとも、エンファイブ魔法学園でトレカの大会を開こうと考えたら、ただの学生向けの大会では済まないというのは間違いなかった。










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