第69話 王都露店祭・北大通り②
「はい、ギルドカードの提示をお願いしますね」
露店祭に向けて俺は大鷲寮へ品卸した時と同じ量を用意した。
開露店の後ろにはトレカが入った大量の箱が積み重なっており、まだ一時間程度しか経過していないが、既に用意した量の三分の一を消化していた。
このままの売れ行きだと、正午を迎える前に売り切れてしまいそうだった。
「よかった・・・・・・これで怒られずに済みそうです」
「大変ですね・・・・・・」
購入制限を課すに辺り、俺は今回購入者に対してギルドカードの提示を求めていた。
個人であれば冒険者カードもしくは学生証を提示してもらい、商人であれば所属する商会のギルドカードを提示してもらっている。
数は一人あたり10パックまで、商会であれば1boxまで販売する予定だ。
わざわざ早朝に並ぶだけあってか、客の殆どが購入制限いっぱいまで注文しており、トレカを入手して喜ぶ客もいれば依頼を無事に達成できると安堵する客も居る。
客の殆どが贔屓にして貰っている貴族からの依頼を受けた商会の人間で、ディエロのように生徒自ら足を運ぶ人間は少ない、それでも全く居ないわけじゃないが少数だ。
「ルール本なども今回売りに出されているんでしょうか?もしあればこちらも確保してくれと上に言われているのですが・・・・・・」
「あーすいません、今回はパックのみの販売なんですよ」
そして驚いたのはトレカを購入しに来た商人の殆どが内情をかなり知っているという事だった。
今、大鷲寮で主流となっているクロスワールドについてはルールは勿論、それら関連書籍やゲームをするためのプレイマットの存在などをパックを購入する際に聞かれたのだ。
(付属商品を販売したい、という申し出がある当たりトレカの存在も結構広まっているのかな?)
カインリーゼ王国に関しては商品に関して版権や特許の様な制度は存在しないが、許可なく模造品を作る事はご法度とまでは言わないにしても、周囲からあまり良く思われない事が多い。
それでもやる人間は躊躇いなくやるらしいのだが、良識のある商会の殆どはオリジナル元から許諾を得ることが多いと言う。
(正直、俺一人じゃ供給は難しいから付属品に関しては他の商会に任せるのが一番なのかもしれない・・・・・・)
トレカ事業の柱であるパック及びカード販売に関しては俺しか出来ないのでこれを任せる事は出来ない、けれども今後のことを考えればそれ以外の部分は他に任せるのが良いと思っていた。
第一にトレカがどれだけ流行るのかが不明なのだが、今の状況を見る限り爆死という事は無いだろう。であれば他の商会との関係を作る為にもトレカ事業の一部を他へ委託するのは悪くないと感じた。
「つかぬことを伺いますが、こちらで販売されている商品は何に使うのでしょうか?」
「これですか?」
午前中、まるで嵐のように押し寄せてくる客を捌き切ってなんとか昼休憩を迎えた。
だがしかし、まだ残っているトレカをなんとか購入しようと虎視眈々と狙っている客は未だ多く、広場の端からじっとコチラを監視している人間が何人か存在した。
ふぅ、と一息ついて東京の自宅で作って持ってきたおにぎりを食べながら涼んでいると、同じエリアで露店を開いていた商人から声を掛けられた。
「えぇ、エンファイブの関係者が挙って買いに来ていたのを見て少し興味を持ちましたので・・・・・・」
「これはトレカといいまして、いろんな効果が書かれた絵札を使い駆け引きを行う対戦型の遊戯ですね」
「絵札の駆け引きというと、賭場で行われているような物ですか?」
「もっと複雑ですね、既に用意されている物を使うのではなく、自分で色々ある絵札を取捨選択をして山札を用意するので戦略的で奥深い駆け引きが出来ますよ。他にも収集活動をしたり楽しみ方は様々あります」
ここら辺で露店を構えているという事は、話しかけてきた相手は多分エンファイブ魔法学園以外の関係者だろう。
向こうもトレカという存在が気になっているようで、束の間の休憩の時間に少し偵察してみよう、という感じだろうか?
「なるほど・・・・・・こうやって熱心に買い求めに来ている辺り、相当面白い遊びなのでしょうね」
俺が喋った内容を頭に染み込ませるように、何度か小さく頷くと軽い挨拶を済ませてその場を立ち去った。
・・・・・・これは布教が成功したと判断していいのだろうか?
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