第68話 王都露店祭・北大通り
以前の王都露店祭と違い、今回俺が許可を貰った場所は北区の3番エリアだった。
王都の北大通りは北区の特殊な性質も相まって、他の大通りと雰囲気が全然違う。まず始めに他の大通りと違って北区に露店を出店させるには、商人ギルドと北区行政の審査が必要になってくる。
露店祭には古今東西から遠路はるばる王都へやって来た行商人達が、各地で入手した商品を王都で売るために開かれる催しではあるが、前提として北区は中央区と同様に厳しい入場制限が存在しているので、北区という場所は露店祭の理念から反しているのだ。
なので王都露店祭でも北大通りの露店は特殊なシステムとなっており、出店する露店の数が圧倒的に少なくそれに比例して北大通りに訪れる客も少ない。
北大通りの露店祭に訪れる客の殆どが、北区に存在する教育機構のどれかに在籍する学生かその親族、もしくは卒業生が多い。なので顔なじみが多く雰囲気も何処か学生祭に近い気がした。
(西大通りに比べて露店が少ないせいか、一店舗ごとの規模が大きいな)
エンファイブ魔法学園の関係者になったおかげか北区の入場も圧倒的に楽になり、早朝の段階でスムーズに北区大通へ入る事が出来た。
例えるなら、北区はピザの一切れのように三角形の様な形をしており、隣接する東西地区の境界線を沿うように幅の広い水路が広がっている。
王都の中心に近い北区の先端部分には巨大な関所が存在し、その関所を貫く形で王都外壁に向けて一本の大きな通りが存在していた。
エンファイブ魔法学園は、貴族向けの学校という事もあって比較的中央区から近い場所に存在するが、今回俺が割り振られた場所は外壁寄りの第3エリアだ。
場所的にはキャミルの母校であるライオサール魔法学園が近く、平民向けの露店が多い。
「アレン殿でよろしいでしょうか?」
「はい、そうですが?」
以前の王都露店祭で使っていたのと同じ器材を持ってきて、一人設営していた所、急に話しかけられた。
誰だ?と思い振り返って顔を確認してみても見覚えの無い人物だったが、相手の話し方からして向こうは俺のことを知っている様子だった。
「アーリ商会の使いの者です」
「あぁ、なるほど・・・・・・」
一瞬の間をおいて、相手側からその素性を明かしてくれたので目的がすぐに分かった。
「もちろん、今日の露店祭でトレカを販売させて貰いますよ、ただ購入制限はありますが」
「問題ありません、こちらとしては依頼主の要望に応えられれば充分ですので」
アーリ商会は、ディエロや先日俺を脅してきた商人と同じ様に、エンファイブ魔法学園に在籍する貴族の生徒の御用商人をやっている商会の一つだ。
トレカを品卸してから俺の元まで訪れてきた人間の殆どが、アーリ商会のように貴族と何かしらの関係を持つ商会であり、流行に機敏で入場制限のある北区にも出入りできる実績を持つ。
では、とアーリ商会の使者は挨拶を済ませるとその場を立ち去った。ただ彼と同じ商会の者と思われる人間が露店の近くで待機していた。
ザワザワ
『どうしたんだ。第3エリアだけ異様に人が多いぞ』
『分からん、殆どがエンファイブの関係者だ。何故こんなところに?』
『ここら一帯はスヴォールやライオサールの場所だろ?』
まだ露店祭の準備時間である早朝、辺り一帯は何処か緊迫感に包まれた異様な雰囲気を醸し出していた。
周囲に居る商人はそれぞれ知り合いと思われる人間と集まって何やら話をしている。
その表情は何が起きているんだ?という戸惑いと強い警戒心が発せられている。
他大通りの露店祭と違い、北大通りの露店祭に出店する商会は特別縄張り意識が強いというか、見覚えの無い商人や商会に対して強い警戒心を抱いていた。
彼らにとって縄張りとは、契約している学園であり担当している露店祭のエリアである。
他だと中央区に近ければ近い程、商会の格が必要とされるが、北大通りでは各エリアごとに縄張りが決められていると後からしった。
例えるなら、俺が今回出店している第3エリアはスヴォール騎士学校やライオサール魔法学園で品卸をしている商会の縄張りであり、自然とこのエリアへやって来る客もそれら学園の生徒や関係者が多い。
縄張りの割り振りは単純にそのエリアから一番近い学園ということであり、貴族向けの教育機関であるエンファイブ魔法学園は中央区から一番近い第15エリアが縄張りとなっていた。
そして今、何が起きているかと言うと、普段縄張りにしているエリアにまるで侵略者の如くやって来た部外者達――――――――何も知らず場所を確保した俺と、トレカを購入するために早朝から周囲で待機するエンファイブ魔法学園の関係者達に対して、強い警戒心を抱いている第3エリアの商人たち・・・・・・といった構図が起きていた。
そしてその原因を生み出したのは、何も知らずに場所取りをした俺だ。
「・・・・・・まずったな」
明らかにピリついている雰囲気に対して、俺はやってしまったと思わず声に出してしまった。
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