第66話 星に願いを
熱意のまま俺の元まで直接やってきたディエロに対して、素人ながらアドバイスをした後、そのディエロから感謝の手紙を貰い気分良く過ごしていた所、彼に続いて多くの人間が同じ様に俺の元までやって来ていた。
「・・・・・・」
「私は五代に渡り、長い間王都で店を構えている商会の人間でして、今では幾つもの貴族の方々を相手に商売をしておりまして・・・・・・」
暁月の旅団のチームハウス一階、来客用の応接室には俺ともう一人、小綺麗な服装をした若い男性商人が長々と己の経歴を説明していた。
「・・・・・・アレンくーん、また君のお客さんが来ているよ」
「すいません、後で対応するので待ってもらってもいいですか?」
ガチャリと応接室のドアが開かれると、小声で同じ旅団の団員が俺に対して声を掛けてくる。
またか、と内心で俺は思いつつもその思いを表情に出さないように連絡しに来てくれた団員の女性に伝える。
わかった~と、気にした様子も感じさせず間延びするような声で応えてくれるが、こうやって俺に会いに来る人間は午前中だけで5組目にもなる。
「――――――という訳で、私はクロスワールドのパックとやらを確保するように取引先から頼まれておりまして、1パック辺り一万ゴルドをお出ししますので、在庫がある分をお譲りして頂きたいのです」
これまで訪れてきた人達の傾向から大体想像はついていたが、やっぱり例に漏れずトレカを購入したいとう申し出か、と俺は辟易としていた。
「申し出は自分としても承りたいのですが、その様な依頼は現在受け付けていないのです」
「・・・・・・今回の一件は複数の貴族様が関係しています。それを存じておりますよね?」
俺がキッパリと断ると、商人の男は断言こそしないが遠回しで脅してくる辺りいい性格をしている。
ある意味商人らしいと言えばいいか。
「そう言われましても、一方に肩入れしてパックを販売してしまいますと、カスティアーノ家のご嫡男様から不興を買いかねませんし」
「カスティアーノ家!?」
商人の男が背後に貴族が居ることを仄めかすのなら、俺もバックに付いているカスティアーノ家の名前を出す。
レイの実家であるカスティアーノ侯爵家は、魔法貴族御三家の一角で侯爵という高い爵位に加えて嫡子であるレイ・カスティアーノ自身の評価も高い。
それこそ、レイや実家であるカスティアーノ家を上から言えるのはカインリーゼ王家か、王国東部を支配するレフ大公家と限られてくる。
少なくとも商人の男が懇意にしている貴族家がカスティアーノ侯爵家よりも上という可能性は限りなく低く、俺がカスティアーノ家という手札を切った時点で勝負はついていた。
虎の威を借る狐のようにレイの権勢を借りるのはあまり気分が良いものではないが、実際に権力を笠に着てトレカを買い占めようとしたら間違いなく他の多くの人間から不興を買うのは間違いない。
だからこそ、俺の目の前にいる商人の男も強く言い返せないでいた。
そして俺は同時に助け舟を出す。
「ですが明日の露店祭でご所望の商品を出品する予定です・・・・・・購入制限はありますが、幾つかお売りすることが出来るのでお待ちしております」
「・・・・・・わかりました」
そうやって俺と商人の男の商談は終わった。
結局、あの後も何人もの商人がチームハウスまで訪れてきては全員に同じ様な説明をして、帰ってこれたのは既に日が落ちかけた夕方頃だった。
度重なる来客の対応で精神的に疲れた俺は、そのまま寄り道をせずに新たに購入した新居へ向かう。
「おかえりなさい、アレンさん」
「おかえりなのじゃ」
玄関ドアを開けると、リビングの方から美味しそうな匂いが漂ってくる。
そのまま靴を脱ぎ、向かってみればエウルアは厨房で夕飯の準備をしており、アリアはリビングの中央に置いてある巨大なテーブルの上に封入し直した厚紙の小袋が散乱していた。
「エウルア、夕食の準備ありがとう・・・・・・アリア、これは?」
基本的に外出することが出来ないアリアは俺が日本から持ってきたトレカに対して強い興味を抱いた。
そして彼女は日中の暇な時間にパックの入れ替え作業を手伝い、代わりにお駄賃として幾つかのカードパックを渡している。
俺が帰ってくる直前まで作業をしていたのか、大きなテーブルの上には大量のカードパックが散乱しているが、茶色の紙製のパックの表面には特殊な模様が描かれていた。
何をやっているんだ?と思い、椅子に胡坐をかきながら筆を手に持っていたアリアに話を聞くことにした。
「これは盗難防止と透視阻害の魔術を込めていたのじゃ・・・・・・要らぬお世話だったかの?」
「盗難防止・・・・・・いや、凄くありがたいよ」
盗難はまだしも、透視阻害の魔法と聞いて俺は思わずハッとした。
(そうか、この世界だと魔法で透視とか出来るかもしれないのか・・・・・・)
ありがとう、と俺が素直にお礼をすると、アリア少し恥ずかしそうに照れた様子でそれら盗難防止と透視阻害の魔術を刻んでいった。
今の今までファンタジー世界に住んでいながら魔法と殆ど関係のない人生を送っていたので、何処か日本人の価値観が残っていたようだった。
「・・・・・・もし、不正をするなら他にどんな方法があるかな?」
巧みな筆捌きでスラスラと描いていくアリアは一旦動きを止めてうーむと考える。
「術者を幸運にする魔法 "
「そんな魔法があるんだ・・・・・・」
なんだその魔法と思ったが、アリア曰く、今は失われた古代魔法の一つにその様な魔法が存在するらしい。
膨大な魔力と生命力を消費して、対象の人物に対して良い結果をもたらす魔法のようで、元々はハイエルフが編み出した大魔法らしい。
「まぁ、人間族が使えば術者が死んでしまうし、そこまでして目当てのカードを当てようとする人間は流石に居ないと思うがの」
ただこの"
「昔、ハイエルフ達からこの"
「・・・・・・」
そりゃ、願いを叶える魔法がリスクもなしに使えるわけが無いのだが、トレカの為にこの様な魔法を使う輩が居たら逆に怖い。
「とりあえず。問題は無いということか」
「そうじゃの」
アリアが御伽噺に出てきそうな魔法を例に出す辺り、彼女が考えうる中では不正は出来ないだろうと俺は結論を付けた。
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