第62話 トレカの価値観

 マイホームを手に入れたとは言え、未だ王都に自前の店舗を持たない俺にとって、学生寮の売店へ異世界商品を卸すというのは、今の考えうる状況の中で最良の選択だと思った。


 取り分け王都北区に存在するエンファイブ魔法学園は将来の王国を担う子息達が通う学びやという事もあり、学園の関係者という価値の大きさは計り知れない。

 売り出す商品からしても購買層がバッチリ合っているというのもプラス要素だ。


「最初の品卸はこれぐらいでいいか」


 エンファイブ魔法学園では、獅子寮、水蛇寮、大鷲寮、砕熊寮の4つの学生寮が存在するがこの内、俺が担当するのは大鷲寮の売店だ。

 その中でも比較的販売枠の小さい嗜好品や娯楽品の類を扱い、その中には学生だけでなく職員向けのやつも存在する。


(・・・・・・職員向けってなったらタバコやアルコール類は大丈夫か?それとも日本と同じで許可制の可能性もあるな)


 レイの要望通り、M◯G以外にも日本で一定の人気が存在するトレカを何カートン分か買い集めて用意した。

 一部のトレカは日本でもかなりの人気を誇っており、俺個人で入手することが出来なかったので晶さんを通じて仕入れることに成功した。


 その他にも飴といった保存の効くお菓子を中心に用意している。これに関しては学生の反応を見て仕入れる種類を買えていく予定だ。


 一方で職員向けには一応アルコールを用意する予定ではあるが、コチラに関してはアスフィアルの世界でも広く嗜まれているので、異世界人の舌に合うかは分からない、ただ酒やタバコといった物は許可制の場合も考えられるので念のために後で確認しておこう。


 東京の住居には俺が買い付けた大量の商品がダンボールに梱包され、人の背丈ほど高さまでに積まれている。流石にアスフィアル世界にダンボールを持っていくのは検査の際に怪しまれる可能性があるので一度全てを取り出さないといけないだろう。


「・・・・・・今度からはエウルアにも頼むか?」


 大量の商品を一々開封していくのはいささか面倒だ。時間もかかるし頼める人も限られてくる。

 日本で人を雇う事も考えたが、情報漏洩の点からおいそれと気軽に雇えないし、だからといって必要以上に晶さんに頼み事をするのも気が引けた。


 そんな時にこの前買ったばかりのエウルアの存在を思い出した。今のところ直近で彼女に振り分ける仕事は無いが、この梱包作業なら複雑じゃないし、一度やらせてみようと思った。


 ただ今回は初の品卸ということもあるので、俺が全部やっておこう・・・・・・






「レイ様からお話を伺っております。大鷲寮学生生活課のマイネルと申します」

「初めまして、アレンと言います」


 地球の暦で例えると、売店への品卸は隔週で七日に一度の授業が休みの日に行われる。


 俺のような売店へ商品を卸す商人は、この日に限って大量の品物を運ぶことが出来る。エンファイブ魔法学園の正門では専用の検査場が設置され、まだ日が昇って間もない時間帯なのに商人たちで長蛇の列が出来ていた。


 俺は事前に貰った許可証を衛兵に見せて一通りの荷物検査をする。これで何もなければそのまま担当する学生寮に向かい、売店で働く職員に受け渡して終了だ。


 そして学生寮の売店を担当する人物がマイネルという若い男性、彼は学園の職員だそうで主に学生生活といった福利厚生を担当していると言う。


 事前に話はレイの方から通っているようなので、俺は一つ一つ品物の説明をしていく、俺がマイネルに説明している間にも何人かの商人が売店へやって来ていたが、彼らは荷物を置いていっただけですぐ立ち去ってしまった。


「そう言えば、職員向けにお酒やタバコといった物も用意出来るのですがこちらはどうますか?」

「お酒に関しては職員向けの売店でしか販売出来ません。タバコに関してはエンファイブ魔法学園では全面禁止されておりますのでご注意を」

「分かりました」


 なるほど、と俺はマイネルの言葉をしっかりと耳に残し頷く、タバコや酒も嗜好品の一種ではあるが、この世界でも学生に販売することは勿論出来ない。


 タバコに関しては学園内で喫煙することが禁じられており、酒もまた別の許可が必要らしい、そうなれば俺が卸す事は出来ないようだ。


 まぁ、これに関しては予想できていたので問題ない。


「レイ様が推薦するだけあって、独特な品物が多いですね」

「まぁ、これらを扱っている人はあまり居ないと思います」


 M◯G、遊◯王、デュ◯マ、ポ◯カ・・・・・・とりあえず日本市場に広く出回っているトレカを中心に集めてみた。

 特に俺が推しているのが西王寺グループで販売されているクロスワールドというトレーディングカードゲーム、これはクロスワールドのオリジナルカードに加え、様々なアニメや漫画の版権キャラクターが参戦しているのが特徴的なトレカだ。


 主役やヒロイン級ともなればサイン付きのやつも封入されており、トレカとしての魅力の他にもコレクター要素も強い、その年に流行ったアニメや漫画が多く参戦することもありトレカ市場でもかなり人気な物になっている。


 近年ではトレカブームが巻き起こっているそうで、ポ◯カを筆頭とした日本でも人気トレカのカートンを確保するのが難しかった。

 一方で、クロスワールドは販売元が西王寺グループということもあってかなり融通が利く、今回確保したカートンもこのクロスワールドが一番多いので個人的にはこのトレカが流行って欲しいところだ。


「凄いですね、これほど精細な絵が描かれたカードが5枚入りでたった3000ゴルドとは」

「遊ぶなら最低でも40枚、被りとか含めたら10パックは買わないといけませんし」


 検品ついでにマイネルにクロスワールドのパックを1つ渡す。厚紙で封入された手製のパックを剥くとそこにはレアカード一枚にアンコモンのカードが四枚入っていた。


 レアはコモン、アンコモンの次にレア度の高い下から三番目のレア度なので、普通であればマイネルが剥いたパックは典型的なハズレではあるのだが、トレカを始めてみたマイネルはこれらカードに描かれた絵に感心している様子だった。


(スターターデッキで5万だろ・・・・・・本当に流行るのかね?)


 幾ら貴族向けの学園とはいえ、1パック3000円、スターターデッキで5万円はいくら何でも高すぎる気がする。


 ただこの世界では日本以上に貧富の差が激しい格差社会なので、その上澄みばかりの場所であれば流行るのだろうか・・・・・・?


 そう思いつつ、俺はマイネルに仕入れた商品を卸してその場を立ち去った。


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