異世界トレカ騒乱

第61話 嵐の予感・・・・・・?

 俺は今、主に3つの仕事をしている。


 1つ目は暁月の旅団の物資管理や経理を担当している。


 チームハウスで日常的に消費する生活品から、遠征するパーティーがあれば纏まった食料やポーションを用意するし、団員の要望を聞いて探しているアイテムを商人の伝手を通じて探したりもする。


 ただ基本的にこの仕事は補給係のリーダーであるアイナが主導でやっているし、大きな仕事となれば西王寺が直接動くので旅団の仕事はそう多くはない。


 2つ目は暁月の旅団のお抱え商人としての仕事だ。


 旅団のお抱えという肩書ではあるものの、実際は半ば独立した形に近い、アレン商会という自分の名前を冠した店名は、この世界では一般的であり、特に要望が無ければギルドがそう登録する。


 こちらでは主に地球から輸入した異世界商品を取り扱っていく予定だ。主な売り筋は甘味や書籍が多いだろうか?


 そして最後の3つ目は、王都で新たに生まれたクレムス級 の商人、ハクバ・イッセイとしての商人だ。


 もう一つの顔である新米商人アレンは、その顧客にレイや榊原といった太客が存在するが、まだ実績のないアイアン級の商人だ。


 アイアンランクの対極の位置に存在する最高位のクレムス級の商人はこの王国に両手の指の数程しか存在せず。そのどれもが王国を支える・・・・・・もしくはそれに準ずる力を持った大商会ばかりだ。


 コチラに関してはあまりにも影響力が大きすぎて扱いに困っている。人の口に戸は立てられぬと言うように、エウルアを購入した際に噂が広まったようで、新たな認められたクレムスの商人がエルフを買った・・・・・・なんて話が広がっている。


 それと同時に、エルフを購入する条件として赤ポーションが必要だった事も王都の人々は知っているので、エルフを購入した=この新たなクレムスの商人が赤ポーションを保有していた。

 という事になるので、新たなクレムスランクの商人ハクバ・イッセイという名は、俺が思っている以上に王都の商人及び冒険者たちから過大な評価されている感がある。


 こちらは主に魔法薔薇マジックローズを使った上位のポーションを販売していこうと思っている。流石に赤ポーションは売る予定は無いが、それでも希少な紫ポーションを主流にして先日、闇市で会った冒険者のマクスウェルといった再生治療を待っている冒険者に向けて売り出していく予定だ。


 ただ原料となる魔法薔薇マジックローズがまだ栽培中なので本格的に動くにしても半月は待たないといけないだろう。


 そして、今回の用事はこの二つ目であるアイアンランクの新米商人アレンとして王都北区に存在するエンファイブ魔法学園へやって来ていた。


「やぁ、久しぶりだね」

「お久しぶりですレイ様」


 以前来た際と同じ様に俺は大鷲寮の応接室に案内され、顧客兼旅団のスポンサーでもあるレイ・カスティアーノと対面していた。


 王族ではあるが同じ元日本人でもある榊原と違い、レイは正真正銘の貴族のご子息だ。

 その所作や喋り方はまさに住む世界が違う人間、と思わされるもので、相手は何歳も下の中学生ぐらいの少年ではあるが俺は彼を一人の大人として対応していた。


 西王寺も似たような雰囲気を纏っているものの、彼女の価値観は日本人だ。幾ら両親が世界を牛耳る様な大企業の会長とはいえ、その価値観は平民に近い。


 ・・・・・・一方、俺の目の前にいる少年はこの世界で生まれ育った上流階級の人間だ。下手に接すれば打ち首は無いにしろ犯罪者になる・・・・・・なんて冗談な様な事が本当に起きかねないので、これら貴族に対する礼儀作法を榊原から急ぎで習い、最低限の部分を習得した。


 ・・・・・・まぁ、その見返りとしてワンステのコスプレをさせられたけど。


「大鷲寮に売店・・・・・・ですか?」

「うん、今まで学生寮の売店へ品物を卸して居た商人が諸事情で辞める事になってね、その後釜として貴方を推薦したいと思ったんだ」


 大鷲寮の入り口ホールからすぐ側に学園のスタッフが店員をやっている売店が存在する。

 榊原やレイが通っているエンファイブ魔法学園は、王国の貴族の跡継ぎ達が集う学びやではあるが、王都育ちの榊原やレイと違い、エンファイブ魔法学園には地方から遠路はるばるやって来た地方領主の子息達も存在する。


 辺境伯といった力の大きい家ならまだしも、学生の中には爵位の低い貴族の子息も多数存在するので、その様な家の力が小さく王都の商人に伝手が無い生徒達は学園内に存在する売店を利用する事が多いという。


「お誘いは嬉しいのですが、日常品類を卸すとなれば少々難しいかもしれません。もちろん、最大限の努力は致しますが・・・・・・」


 エンファイブ魔法学園は、在校生徒数が千を超えるマンモス校だ。しかも生徒にはそれぞれ数名の召使いも居ると考えれば、学園の規模はちょっとした街よりも大きい。

 他の商人も学園へ品物を卸しているとは言え、俺はまだ伝手が殆どない規模の小さな商会だし、将来的に従業員になる予定のエウルアだってまだ研修すら行っていない。


 そんな中で、大量の物資を学園に卸せるか・・・・・・と言えば無理だと答える。ただ相手は貴族なのでハッキリと言わないが。


「いやいや、流石にアイアンの商人に膨大な量になる日常品の仕入れを任せようとは思っていないよ、僕が頼みたいのは嗜好品や娯楽品の類なんだ」

「嗜好品と娯楽品ですか・・・・・・」

「うん、この前王都の露店祭の時にとれか、とやらを僕が買っただろう?僕自身はあのゲームには熱中できなかったんだけど、僕の弟や部下がかなり気に入ったみたいでね、もしよければあの様な娯楽品を学園へ卸して欲しいと思っているんだ」

「それでしたら私でも充分可能かもしれません」


 以前、王都露店祭の時に売ったのはM◯Gと呼ばれるトレカの一種だ。


 当の本人には刺さらなかったようだが、地球で初めて生まれたM◯Gというトレーディングカードゲームはレイの実家、カスティアーノ家でブームを引き起こしているらしい。


「弟のロアンはその”とれか”という遊びにかなりハマったようでね、今でも新しいパックが欲しいと駄々を捏ねているんだよ」


 ハハハと軽く笑みを浮かべながらレイは楽しそうに話す。


「あの手の娯楽品はもう何種類か存在します。良ければ今度お持ちしましょうか?」

「いいのかい?是非頼むよ、もしかしたら僕も楽しめるやつがあるかもしれないしね」


 嗜好品や娯楽品であれば、そんな膨大な量を用意する必要もないし、俺でも充分に対応できるレベルだと考えた。

 なので俺は依頼を引き受け、レイとかたい握手を交わした。







 ・・・・・・ただこの時、俺が卸したトレカを中心とした娯楽品が、学園中を巡る大騒動に発展するとは思いもしなかった。

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