第60話 サーモンのカルパッチョ

「そういえばエルフってやっぱり全員が菜食主義なのか?」


 ある程度、エウルアに家の説明をした後、丁度昼が過ぎる頃合いだったので昼食を取ることにした。


 それまで家の中を楽しそうに探検していたアリアのお腹がキュゥと可愛らしい音を出したので、予定を切り上げて昼食を用意するつもりだ。


 ちなみに、お腹が鳴った際のアリアは女の子相応に恥ずかしがって可愛かったことをここに記しておく。


「いえ、エルフは森の中で住む都合上、菜食中心となりますが川や池で魚が釣れれば食べますし、狩猟で得た肉も食べることがあります」

「そうか、じゃあ生魚は?」


 ファンタジー世界で言うところのエルフと言えば、生き物は絶対に食べない――――いわゆる重度のヴィーガンかと思っていた。

 なので昼食を用意する前に念のためエウルアに聞いてみた所、菜食中心ではあるものの得たものは出来るだけ食すという考えだそうだ。


「な、生魚ですか・・・・・・」


 エウルアもアリアも特に苦手な食べ物は無いと言うが、なんとなく生魚は?と聞いてみればエウルアはこめかみをヒクヒクと動かし、何とも微妙な顔をしていた。


 多分だが、今エウルアは主人である俺の要望と生魚に対する拒否感で葛藤しているんだと思う。


「無理ならいいよ?別のやつ用意するからさ」


 先日、日本で料理番組を見た際に生魚が出たので折角だから食べてみたいと思ったが、エルフに生魚を食す文化が無ければ無理強いする必要もない。

 一応、日本の住まいの方の冷蔵庫に刺身用のサーモンがあるが、どうせ夜に食せばいいので、今回は別のものにしようと考えた。


「生魚を食べたらお腹を壊さぬか?」

「普通だったらそうだが、今回用意するのはちゃんと生でも食べれるやつだし、問題ないよ?生で食べても」


 俺が別のやつを用意すると言えば、あからさまにホッとした様子のエウルアと違い、リビングのソファーで寝転がっていたアリアが興味深そうに聞いてきた。


 ゴロンとソファーの上で仰向けに転がり、顔だけをコチラに向けてくる。その美しい髪を床に零しながら、何とも無気力な様子で話しかけてくる。


 新居にやって来てまだ一日と経っていないのにこの落ち着きよう・・・・・・流石ハイエルフというべきか?








「色鮮やかな見た目じゃの、何という料理なんじゃ?」


 三人で使うにしては少々大きいテーブルの上に、3つの大きなお皿を置く。

 純白の平皿には、綺麗なオレンジ色のサーモンが薄切りに盛り付けられ、その上に色鮮やかな野菜が気持ち多めに盛り付けられている。


 ドレッシングはインターネットで調べて家にある調味料で作れる簡単な物だ。オリーブオイルの黄金色の液体が程よく料理にかけられているので非常に見栄えが良い。


「うん、美味いな」


 お箸でサーモンの薄切りと一緒に野菜を掴んで口に入れる。


 ドレッシングの酸味がいい感じに効いており、サーモンの脂と瑞々しい野菜の味が絶妙に合わさってかなり美味しい。

 プロの料理、とは言わなくても家庭料理としてはかなり美味しい部類じゃないだろうか。


「何とも不思議な感覚じゃ、しかし美味しいの」


 俺は慣れた箸を使っているものの、エウルアとアリアはフォークとスプーンを使って食べている。


 俺が迷いなく最初に食べたからか、興味深そうに料理を観察していたアリアもサーモンの薄切りを口に入れた。


 口に入れた瞬間、目をまん丸として驚いていたようだが味を気に入ってもらえたようで次々に口へ運んでいく。


「・・・・・・本当だ。生の魚だけど臭みも無くて美味しい」


 普通に食べ始めたアリアと違い、エウルアは緊張した面持ちで最初の一口を食べた。

 ただ一口食べた瞬間の表情は何処か呆けた様子であり、予想していた味と違ったようだ。


「俺の故郷だと生で魚を食べる習慣があってね、勿論、全部を生で食べれる訳じゃないけど、どれも美味しいんだよ」


 まぁ、今回用意したサーモンのカルパッチョは外国の料理だけど、その内、エウルアやアリアに寿司を振る舞ってみてもいいかもしれない。





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