第59話 新たな生活

「ここが私達が住む所・・・・・・」

「エウルア、凄い場所じゃの!!」


 新居の準備中に、突如として西王寺が家にやって来た結果、俺の企みがバレるという想定外はあったものの、エウルアとアリアが住む家はしっかりと用意することが出来た。


 俺とエウルア達は無事に王都南門から入場し、途中旅団のメンバーやチームハウスも見かけたがそこにも寄らずにそのまま中央区側にある用意した新居まで二人を案内した。


「この重厚感のある箱は一体・・・・・・」

「あーそれはポータブル電源だね、電気が込められている箱だよ」


 アスフィアル世界は家の中でも靴を履く土足文化だ。日本と違って家の中では素足やスリッパで歩くという文化が無く、この住まいを受け取った際にも清掃はされていたが床には土埃等が落ちていた。


 旅団のチームハウスでも基本的に土足で生活している。ただチームハウスの場合は家というよりホテルに近いシステムを取っているため、そこまで違和感は無い。


 寧ろ、この世界に来てからは基本的に家の中でも靴を履いていたが、折角マイホームを購入し、日本から様々な家具を運ぶのも相まって日本のように玄関で靴を脱ぎ、家の中では素足で過ごせるようにした。


 それらのこともあって、家の玄関で俺が靴を脱げという指示に少し戸惑いを見せた二人だが、家の床がちゃんと綺麗だということもあってすぐに順応した。


 玄関から入って少し通路を歩けば、そこには広々としたリビングが存在する。今回購入した家は平屋建てではあるものの、面積自体は広く、木製の窓を取り外してガラス窓とカーテンを取り付けたので日差しも差し込み照明を付けていなくても明るい。


 他にも西王寺推薦のソファーといった家具類も存在するが、後ろをついてきていたエウルアはリビング入り口の横に置いてあった真っ黒な箱が気になった様子だった。


「で、電気ですか」

「多少荒く扱っても大丈夫だよ」


 将来的にはソーラーパネルや発電機を設置したいと思っているものの、照明を初めとした幾つかの物は電気じゃなくても賄えるので大充電が可能な災害時に使われるポータブル電源を用意してある。


 予備は日本の方の家に置いてあり、数台が今も充電中だ。


 電気と聞いて少し驚いた様子のエウルアだったが、この世界では見ることのない不思議な見た目から大変興味を持ったようだ。今後、生活することも考えてポータブル電源の使い方を後で教えてもいいかもしれない。


「凄い!フカフカじゃぞ!!」


 遠慮がちで周囲を確認するエウルアと違い、アリアはリビングの中央に置いてあった巨大なソファーにダイビングしてそのさわり心地を確かめていた。

 俺からすれば幼い見た目も相まって可愛らしいと思ったが、保護者であるエウルアからすれば冷や汗ものだったらしく、彼女の様子を見てオロオロと戸惑っていた。






「蛇口――――この取っ手を撚ると水が出てくる。出なくなったら庭に貯水タンクがあるからそこに水を入れてあげるといい、定期的に掃除しないと汚くなるから清掃はしっかりとね、あと汚れを抑制する薬も渡しておく」

「はい、わかりました」


 家を探検しているアリアを見守りながら、俺はエウルアに家にある物についてそれぞれ説明していく。

 性格からして几帳面なのか、識字率が決して高くないこの世界でも自前で用意していた紙に俺が喋った言葉を書き写していく。


 特に難しい部分は無いけど下手に触って壊されても困るし、扱い方が分からず遠慮されるのもそれはそれで困るのでしっかりと説明していく。


 リビングの他にも部屋は幾つも存在する。俺やエウルア、アリアの私室は勿論、書斎やポーションを製造する部屋と沢山あり、風呂やトイレも勿論完備されている。


(トイレも出来れば水洗にしたかったけどな)


 風呂は日本で言うところの五右衛門風呂方式、ただ使うのは薪木ではなく魔力を込めると発熱する石を使っている。

 トイレに関しては水洗にしたかったが個人でやるには難しかったのでボットン式のトイレになっている。


 ただ異世界らしく、糞尿を集めるタンクには数匹のスライムが用意されているようで思っていた以上に匂いは少ないし、糞尿を汲み取る必要もないのでかなり便利だ。


 ・・・・・・ただトイレをしているときにスライムが動き回っているせいで、トイレの真下でグチョグチョと音がするのを除けばだが。







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