第58話 リスクとリターン
(・・・・・・そういえば旅団以外の人達と一緒に王都へ入るのは初めてだな)
まだまだ先は長い長蛇の列で待っている間、俺はふと今の状況を思い出した。
俺の横には初めて王都の外側を見て興奮しているアリアとそれを窘めるエウルアの二人がいた。
この中で一番王都に詳しいのは俺になるが、俺も王都へやって来てからまだ二ヶ月も経っていない新参者だ。
その短い期間の中で何度か王都へ出入りすることはあったものの、個人の事情で王都へ出入りするのはこれが初になる。
なんだかんだ今までは長年王都で暮らしていた団員も一緒だったこともあり、この先の長い列も安心して待っていられたものの、いざ自分が一番の経験者、もしくは責任者となると見える景色も少し違う気がした。
『すげぇ、ブルータイタンだ』
『巨人族ってことは西側にでも行ってたのか?王都周辺じゃ見かけないだろ』
ザワッと列に並んでいる冒険者達が一瞬にして騒がしく成ったと思ったら、俺たちが並んでいる列の横を追い越すように巨大な荷車が通る。
ガラガラと巨大な木製の車輪が地面を蹴り、その振動が少し伝わってくる。
雲ひとつ無い晴天の中で周囲に巨大な影を出来たと思えば、俺の隣に巨大な荷車が丁度真横を通り過ぎるところであり、その巨大な荷車の上には青い肌をした巨人が薄く氷漬けにされて運ばれていた。
『見覚えのねぇ顔だな・・・・・・新参か?』
俺の前に並んでいる王都の冒険者が、ブルータイタンと呼ばれたモンスターを輸送する冒険者達を見てそう答えた。
新参?と聞けば一応同業者としては気になるところだ。
「ふむ、蒼き巨人か・・・・・・」
先程まで王都の防御壁を見て興奮していた様子と変わり、横を通過するブルータイタンを見てアリアは青の巨人と呟いた。
「エルフからしたら巨人族って珍しいのか?」
周囲には聞こえない程度の小声で、ブルータイタンを見ていたアリアに聞いてみる。しかし彼女は首を横に振って違うと答えた。
「巨人自体はガジャの森にもおるが、そちらだと肌は黒いからの・・・・・・人の国には青い肌の巨人もいるんじゃなと思ってな」
「黒い巨人か・・・・・・」
安直に考えればブラックタイタンという名前だろうか?
「やっぱり強いのか?巨人族って」
「いや、見た目ほど強くは無いのじゃ、巨人族は総じて図体が大きいから魔法だと容易いのじゃが、剣や槍となればどうかの?」
アリアの言葉を聞いて荷車を見てみれば、ブルータイタンを運ぶ冒険者は全員剣や槍といった武器を持っていた。
中には弓を背中に背負っている者も居たが、その中に魔法使いは居ない。
だからなのか、氷漬けにされているブルータイタンの肌は何度も斬り付けられた痕が幾つも存在し、その損傷具合はかなり酷い。
寧ろ傷のない部分を探す方が難しいぐらいで、切り傷から刺し傷の他に打撃による内出血の痕や酸の様な液体を使ったのか皮膚が爛れた部分も存在した。
「・・・・・・しかし、強敵を倒し冒険者として名声を手に入れれるとは言え、命に関わる大怪我をしてしまえば元も子もないじゃろうに」
どれだけの激戦を繰り広げたのか、その様子は運ばれているブルータイタンの遺体やその周囲を歩いている冒険者の姿を見れば容易に想像できる。
身体の至る所に酷い損傷があるブルータイタンと同様に、それらモンスターを討伐した冒険者も殆どが血を滲ませた包帯を巻いており、疲労のせいか目も虚ろだ。
その足取りは重く、中には立って歩けないレベルまで怪我をした仲間も居るようでその被害は相応に大きかったのだと感じた。
その冒険者の中には、肘より先を無くした者も存在する。
「名声は得ることが出来たかもしれないけど、これじゃ赤字だな」
クエストの報酬、倒した巨人の素材を全部売り払っても、戦った仲間全員の治療費が賄えるかは若干怪しい部分がある。
それに加えて装備の破損もあっただろうし、中には戦闘によって死んだ者もいるかも知れない。
そう考えれば、名声を手に入れることが出来たとしても決して讃えられるべき戦果では無いように感じた。
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