第54話 夢のマイホーム計画

 直接会ったわけではないが、バンクの部下を通じて無事にアリアが目を覚ましたことを聞いた。


 彼女が目を覚ましたのは、皆が騒ぎ疲れた次の日の早朝だったそうだ。夜番をしている従業員が巡回していたところ、ベッドの直ぐ側にある窓の外をベッドから上半身を起こした状態で朝日を見ていたアリアを見つけたそうだ。


 直ぐ側に居たエウルアは、俺が居なくなった後もずっと泣いていたようで、そのまま泣き疲れてアリアの足元で伏せる様に眠っていたらしく、肝心の再会は驚いた夜番の従業員の声で起きた瞬間だと言う。


「まぁ、これで良かったというべきかな?」


 アリアの主治医はその内目を覚ますだろう、と診断したけども、これまで一年近く眠っていたことを考えれば、俺は何処か心のどこかで彼女が目覚めない可能性もあるんじゃないかと思っていた。


 ただその考えは杞憂で終わったようで、バンクが王都闇市の開催期間中に借り受けていた建物では連日に渡って大騒ぎをしているのだという。


 そんな情報を伝えに来てくれたバンクの部下は、連日の騒ぎの疲れなのかハッキリと目元にクマを浮かべており、何処か気怠そうだった。


「これはここでいいか」


 アリアの無事を聞いてから、俺は彼女達が生活する住居の準備をしていた。


 普通であれば、俺がやる必要もないのだがアリアは目覚めてから間もないし、第一に彼女は奴隷でもない。

 一方のエウルアも万全な体調ではないのだろう、闇市が開催されている一ヶ月間、ずっと大衆の目に晒されていたとなればストレスも凄いだろうし、そこから大切な人物であるアリアが目覚めたとなれば余計にだ。


 そして俺は一人で準備をするのをいいことに、様々な家具を日本から持ってこようと画策していたりもする。チームハウスの方の自室は他の団員達の目もあるので目立つものはあまり置けない。


 逆に今回用意した住居は暁月の旅団のチームハウスから程よく近く、治安も南地区では一番良いとされている一等地だ。中央区からも程よく近く、貴族と関係のある平民達が住んでいる準高級住宅街と呼べそうな場所だった。


 流石王族の権力というべきか、契約は賃貸ではなく買い取りという形になった。


 予想外ではあるものの、これからずっと使えるマイホームを手に入れたことによって、俺はこれから用意する家具を日本から持ってきて統一しようと考えた。

 購入したマイホームは平屋建てではあるものの、庭もありちゃんと四方が塀で囲われている。オプションで防犯用の魔法も付与することが出来るのでセキュリティは結構高い。


「流石に素人だと太陽光パネルの設置は難しいよな・・・・・・?」


 エウルアは奴隷としての誓約魔法が、アリアは基本的に他人と接することが出来ないということを考えれば、俺が持ち込む予定の物や情報を他人に漏らす可能性は限りなく少ない。


 だからある意味伸び伸びと計画を立てられる訳なんだけど、折角なら家電を使いたいと思うのは現代人の性なのだろうか?


「いや、この世界には電気を発生させるやつもあるし、それで賄えるか?だけど発電性能も分からんし、晶さんに相談するしかなさそうだな」


 向こうの世界では火力発電や原子力発電、地熱発電から水力発電と色々な方法で発電し、その莫大な電力を社会に供給している訳だが、この世界では電気を使用する家電も無ければ、街灯の明かりすらこの世界の不思議物質で賄われているぐらいだ。


 なのでアスフィアル世界は電気が無くても不便なく生活出来ている。


 アスフィアルの世界において電気というのは、もっぱら攻撃魔法の1つとして知られており、火や風と違って制御の難しい高難易度な魔法として扱われている。


 雷魔法は基本属性に分類されており、神聖魔法や治癒魔法と違って特別な才能や素質を必要とせず。本人に魔力さえあれば、後は雷魔法を覚えるだけで誰でも使える魔法だ。

 なので電気を発生させる物質を購入しなくても、雷魔法さえ覚えれば俺やエウルアの力で電気を発生させることが出来る。


「エウルアかアリアが覚えていないかな?雷魔法」


 雷魔法で家電類を賄う・・・・・・現実はそう上手く行かないだろうが、最低でも大型のバッテリーに充電できればいいな、と思いつつエウルア達を迎える準備を続けた。







「最近、家を買ったようね?」


 俺がエウルアとアリアを迎え入れるために色々と準備をしていたら、突然西王寺の方から声がかかった。


「あぁ、ここから中央区寄りの場所に平屋の家を買った」

「よく買えたわね、高かったでしょ?」


 西王寺の話し方は上司と部下ではなく、ただ知り合いに何気なしに話を振った・・・・・・そんな感じだった。


 エウルアの件がバレたか?と一瞬頭を過ぎったものの、西王寺の話し方からして、ただ単純に俺が家を買ったことに対して興味を持った様子だった


「まぁそれなりにはな、でも一括で買ったぞ?」


 榊原の紹介があったとはいえ、王都で平民が買える場所では最高クラスの立地だったので、結構高かった。

 だがしかし、日本から持ってきた商品は暴利とも言える程の利益があるので王都に来てから二ヶ月ぐらいで王都の一等地の家を一括現金で買える程の売上はあった。


 ただその分、今の貯金は少し寂しい事になっていた。


「この世界で借金するのは得策ではないわ、金利も高いし、取り立ても日本に比べて凄いみたいよ?だから一括で買ったのは賢明な判断ね」


 聞けば西王寺もチームハウスを購入する際は、他から借りることをせずに一括で買ったそうだ。


「まぁ、余裕があったからな・・・・・・借金してまで買おうとは思わん」


 何気ない会話、そう思っていたのだが、どうも西王寺の様子を見る限り他に意図があるように思えた。

 だからといって俺から直接問いただすのも気が引ける。そう思いながら話し続けていると、西王寺から聞いてきた。


「・・・・・・となれば、家具は全部向こうの世界から?」

「そうだな、この世界の物に拘る理由もないし」


 もしかしたら西王寺も日本製の家具が欲しいのか?そう思っていたら全く違う言葉が俺の耳に入ってきた。


「貴方の家に行かせて欲しい・・・・・・」

「えっ?」

「貴方の家にお邪魔させて欲しいの、不躾なお願いだとは承知しているのだけど・・・・・・どうも最近、落ち着ける場所が無くてね」


 西王寺は旅団の長ということもあって、基本的にチームハウスにずっといる。

 普段は執務室で仕事をしており、後は実力が落ちない程度の戦闘訓練をしながら普段過ごしているので、西王寺に用事があれば基本的にチームハウスへ行けば大体会える程、缶詰め状態だ。


「気持ちは分かるが、なぜ俺の家に来ることに繋がるんだ?」


 西王寺の年齢を考えればまだまだ遊びたい盛りだろうが、本人に掛る責務からして、常に激務に追われているので彼女のストレスが溜まる事も分かる。

 それこそ、今のチームハウスが仕事場兼自宅の様なものなので落ち着かないという理由も分かる。


 だがしかし、そこから何故俺の家に行く事になるのかが分からなかった。ただ落ち着く場所を求めるなら自分でチームハウスの家を探せばいいだろうし、そうでなくとも王都にある宿屋で個室を借りる事も出来るだろう。


 だからこそ、何故俺の家に来たいのかが分からなかった。





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