第47話 赤ポーションの製造
赤ポーションを作るに当たって、以前は一日一度の魔力拡散を朝と夕方の二度に増やしている。
晶さんからの勧めもあり、畑の周囲には柵と監視カメラが設置され、赤根村にある空き家を借りて警備の人間を常駐させている程の力の入れようだ。
「これが魔力なのですか?」
薔薇農園には園の中心まで行けるように十字の小道が整備されており、俺はその部分を歩きながら周囲に魔力を拡散させていく。
毎日とはいかないものの、この魔力拡散の光景を撮影したりまだ試験段階の装置で観測したりしようと龍幻会長傘下の研究員の人が訪れたりしている。
それに合わせて晶さんも週に2~3回のペースで態々東京から岐阜までやって来たりしている。
この不可思議な現象を見て、魔力を知覚出来ない晶さんは魔法の現象を初めて見た事になる。
・・・・・・本当は俺も魔法を覚えて披露出来れば良いんだけど、未だ上手くいった試しがないので要練習、といったところか。
その程度は日数が経過するごとに強くなり、曇天模様の夕方時でも俺が魔力拡散を起こせば辺り一帯が、ラベンダーの様な紫色に輝いている。
「これを分析して魔力の観測出来たりしないですかね?」
「私はそこら辺の専門では無いので分かりませんが、今日この場へやって来ている研究者達は、この発光現象に大変興味を持っていましたよ」
チラリと晶さんが視線を横に移せば、大の大人たちが写真機のような巨大な箱を覗きながらワーワー騒ぎながらメモを取っていた。
その光景は事情を知らない人から見れば完全に不審者の集団だ。
「・・・・・・あれでも、西王寺グループが誇る研究員なんですよ?」
俺は何も言っていないけど、明らかに不審者集団に見えるお抱えの研究者たちを見て晶さんは何処か苦し紛れの言い訳の様なことを言った。
ファンタジー世界に登場するポーションと言えば、複雑な調合を持って生み出される魔法技術の結晶・・・・・・みたいなイメージがあるものの、俺がやっているのは果汁100%のジュースを作るみたいに、用意した
一応、アスフィアル世界にも上手なポーションの作り方、というものは存在するみたいなのだが、その優れた製造方法の殆どがいわゆる秘伝というヤツであり、一般的に普及しているポーションの作り方は薬草を熱して濃縮させたり、分離させたりするんだそうだ。
やってることは中学のの理科の実験と大差ないんだけど、アスフィアル世界では便利な実験道具があるわけじゃないので、これら一式を用意する必要があることから、ポーション職人というのは結構敷居が高い職業なのだ。
「赤・・・・・・色ですかね?」
「多分」
二週間と少しの短い栽培期間を経て、4000本の薔薇を全て
その一部は龍幻会長が指揮する研究施設に送られるんだけど、最初の数回抽出した感じだと多分4000本も要らない気がする。
流石に4000本の
・・・・・・それまで定期的に農園までやって来て観察をしていた研究員の人達も何故か自主的に
そして期日の二日前には摘み取りも完了し、業務用の圧搾機を使って一気にすり潰していく。
4000本の
その溢れ出た液体は圧搾機の下にある受け皿に収まって、注ぎ口を経由して1つの容器に纏められた。
纏められたポーション原液は、そのまま遠心分離器に掛けられて圧搾によって生まれた滓を取り除き更に成分を抽出していく、この他にも様々な工程を挟み、ポーション原液はより純度を高めていく。
周囲には芳香剤のような強烈な匂いが立ち込めており、全員がマスクとゴーグル、そして全身を覆う防護服を装着し、圧搾されたポーション原液を観察している。
以前、紫ポーションを作った際よりも栽培期間を出来るだけ伸ばしたのに加えて、一日に二度の魔力拡散をしていたおかげか、ポーション原液の時点でピリピリと肌を刺激するようなオーラを感じる。
この感覚は自分以外に体感出来ては居ないみたいだけど、原液の時点で薄っすらと輝いていることもあってか全員が何処か興奮気味に観察していた。
「やっぱり便利ですね、科学技術って」
「”十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。”という言葉があるぐらいですからね、向こうの人達からしたらこの世界の科学技術も魔法の様に見えるのかもしれません」
有名なSF作家の一人として、クラークというイギリス人の作家が存在する。
彼は俺が生まれる以前から活躍していたSF界の大御所であり、作家でありながら一流の技術者として様々な物を開発し、後世に多大な影響を及ぼした人だ。
そんな人物が提唱した3つの法則、クラークの三法則の中の一つに晶さんが言った『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。』という有名な言葉がある。
これは理系の人じゃなくても、SFモノを齧ったことのある人なら誰もが知っている様な有名な言葉であり、俺もクラークという人物は知らなくてもこの言葉は知っていた。
そして同時に、晶さんが今この場でこの言葉を使った理由が何となくわかる気がした。
「確かに、ここまで出来ると魔法みたいですね」
50本の
その作業も手作業でやっていたよりも完璧で、圧搾されたポーション原液は俺が手作業でやっていたよりもサラサラとしている。
これらの結果を見て、俺は発達した科学技術は魔法と見分けがつかない、という理由を少し理解した気がした。
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