第45話 西王寺本家と分家

 今回、約4000本もの薔薇を栽培するので、厳児爺さんから借りた土地はかなり広大な面積を誇っていた。


「うわぁ、凄いですねこれ」


 土地の持ち主である厳児爺さんが荒れ地、と評したことからある程度覚悟はしていたものの、今回魔法薔薇マジックローズを栽培する畑やその周辺は歩くのもままならない程、大量の草木が生い茂っていた。


 晶さん曰く、魔法薔薇マジックローズの素体となるまだ開花していない状態のの薔薇は全国各地からかき集めるので、一週間ほど時間がほしいと言われたので、俺はその間にこの広大な荒れ地を耕さなければならない。


「・・・・・・一週間で終わるかな?」


 素人目で見れば、人の背丈程まで成長した草木を刈り取り、薔薇を植えることが出来る状態にするまでの行程が一週間で終わるとは到底思えなかった。


「実家から農業機械持ってきたんで、一週間もあれば大丈夫ですよ」

「そうなの?」

「はい、見た目は凄いですけど、元々農地だったこともあってそこまで大変じゃないですよ」


 そう頼もしい言葉を語るのは、赤根村に唯一存在するコンビニでアルバイトをしている木田君である。

 彼は普段、コンビニのアルバイトをしているのだが、実家は農家であり時期によっては実家の農作業を手伝ったりしている経験者だ。


 今回、魔法薔薇マジックローズを栽培するに当たり、頼もしい助っ人でもある。


「農地?」

「数年前まではここも畑として使われていたみたいです」


 パッと見だと、ただ手入れのされていない荒れ地の様に見えるんだけど、木田君曰く、草木は生い茂っていても基礎の部分はまだちゃんとしているらしい。

 だからこそ、ちょっとした手入れをすればすぐに使える状態に出来るんだという。






 やはりというか、現代の科学技術によって生み出された力は、魔法が存在する世界で過ごしている人間であっても便利な物だなぁ、としみじみと実感させてもらえる。


 たった一週間の内に、自分と木田君の二人で草刈り機を使って人の背丈ほど伸びた草木を刈り取って、農業経験者である木田君の主導のもとで耕運機を使って地面を耕した。


 アスフィアルの世界に住む人々は、地球人に比べて身体能力に優れており、一般人であっても国体選手並みの体力を備えていたりする。

 ただそれでも科学技術は発達していないので、基本的に農作業と言えば鎌で草を刈り、鍬で地面を耕すのが一般的だ。


 もし、アスフィアル世界の技術レベルで農作業をしようとした場合、どれほど時間が掛るのか分からなかった。


 流石、地球というべきだろうか。








「事前に言っていただければ、コチラで準備も土地も用意致しましたのに・・・・・・」


 一週間も経てば、あれほど荒れていた場所もちゃんと畑として見れる程度までには復活した。

 そこから数日も経たない内に、事前に晶さんにお願いをしていた蕾状態の薔薇を積んだトラックが何台も赤根村へとやって来る。


 赤根村は周囲が山々に囲われている為、最寄りの街である最羽町から来るにしても細く険しい山道を通らなければならない。


 そうなると大型トラックでは赤根村まで行くことが出来ないので、晶さんは態々中型のトラックを何台も手配して来ているそうだ。


「いえ、そこまでしていただくのも申し訳ないので・・・・・・」


 いきなり蕾状態の薔薇を4000本用意しろ、言葉にすることは簡単ではあるが、中々に理不尽な依頼だと思うからこそ、今回はそれ以外の部分を自分の力でやろうと思った。

 実際は厳児爺さんや木田君の力を借りているんだけど、初日以降は殆ど自分の力で畑を耕した。


 畑から一番近い道に何台ものトラックが並び、ほぼ獣道みたいな場所を何人ものスタッフが薔薇を運ぶ。俺も薔薇が入っているコンテナを持って運べば、耕し終わった畑には既に薔薇の植え付け作業が同時に行われていた。


「・・・・・・晶さん、少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

「なんでしょうか?」


 畑の隅っこで薔薇の植え付け作業を見ながら、態々赤根村まで来てくれた晶さんに話しかける。


「西王寺――――雫さんが以前、東京の研究所にはこの魔法薔薇マジックローズを報告しないように、と言われたんですが晶さんはこの意図ってわかります?」


 今回、態々土地を借りて畑を耕した理由として、俺の雇い主である西王寺が晶さんや龍幻会長以外の人にこの魔法薔薇マジックローズを教えないように厳命されたからだ。


 特に東京にあるアスフィアル世界の研究を行っているLeaf研究所には絶対情報を漏らすな・・・・・・と名指しで言われればその意図が気になった。


 なるべく自然に聞いてみたものの、俺の言葉を理解した晶さんは少し眉を潜めたような表情をする。


 できれば話したくない・・・・・・そんな表情だ。


「あ、無理なら全然いいんです。そこまでして聞きたいわけじゃないですし」

「いえ、大丈夫ですよ・・・・・・いずれは話さないといけませんですし」


 この話題をしてはいけなかったかな?そう思い、途中で会話を中断しようとしたが、晶さんは構わずに話し始める。


「Leaf研究所は西王寺の分家の方が経営しています。これだけでもある程度察することが出来ますでしょう?」

「・・・・・・本家と分家は仲が悪い、ということでしょうか?」


 本家と分家、まるで戦国時代の武家のようだ。


 俺の答えに対して、晶さんはコクリと小さくうなずいた。


「同じ会社を経営している都合上、表向きは仲が良いように見えますが、本家当主であられる龍幻様と分家当主であられる汪海様はお互いをライバル視している間柄になります」

「ライバルなのに、龍幻会長は分家の人に研究所を任せたんですか?」


 ライバルであるなら何故分家の人に研究所を任せたのか気になった。少なくとも龍幻会長や晶さんが責任者であれば、西王寺が研究所に対して気を揉むことも無かっただろう。


 その問いに対して、晶さんはまるで苦虫を噛み潰すように答えた。


「最羽町で、私の隣に一人の男性が居たのを覚えていますでしょうか?」

「はい、あのガタイの良い人ですよね」


 最羽町といえば、龍幻会長と初めて会った時の場所だ。そこでやたらとガタイの良い大男が会議室に居たのを覚えている。


 確かその時は、晶さんと同じく龍幻会長のSPだったハズだ。


「その男性の名を大和田と言うのですが、有り体に言ってしまえば彼は分家から送られてきたスパイでした。最羽町の一件以降、彼は失踪し情報が分家の方へ漏れていたのです」



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