第44話 赤根村のポーション農園
「ひ、酷い目にあったわね・・・・・・」
体力に優れる冒険者であっても、まるで暴動が起きているかのような中央エリアの騒がしさは、さすがのアイナであっても堪えたようだ。
客の中にはまたエルフを見ようと、逆走しようとする者も居たために、人の波は激しく乱流しており、出れると思えば押し戻されたりと・・・・・・俺はまだしも背の低いアイナはその赤髪をぐちゃぐちゃに乱されており、酷い目にあったようだった。
俺も見学というにはかなりの疲労感を感じては居るが、それ以上に何かしらの運命を感じる。
(エルフが店の看板娘・・・・・・いいな)
パッと見では無愛想な雰囲気を漂わせていたものの、エルフが働く商店となれば、王都でかなり話題を呼べるのではないかと思う。
何故、彼女が赤ポーションを欲しているのかは分からない、外見では何処か怪我をしている様子もないが、必須条件に赤ポーションがある事から身内に紫ポーションではどうにもならない大怪我をした人が居るのかもしれない、ただそれ以前に、今の俺にこの赤ポーションを用意出来るのか?というのが問題だった。
「一ヶ月は王都に居るんだってな、あの子」
「まぁ、赤ポーションなんて滅多に見ないし、各国を見て回っているんじゃない?」
数年に一度のペースで発見されるという赤ポーション、実際のところだと近年ではその頻度は落ちているようだった。
それもそのはずで、ただ単純にこの世界に存在するダンジョンが次々と踏破されてしまったからだろう。
現状、製造することの出来ないポーションの絶対数は決まっているので、見つければ見つけるほど残りの量は減る・・・・・・当たり前だ。
(・・・・・・ただ俺は赤ポーションを作れる可能性がある)
ポーションを必要としているということは、彼女か、それとも彼女の親しい間柄の人物が何かしらの怪我や病気をしている可能性がある。
そうでもなければ、態々自分の身を賭してまで赤ポーションを探そうとはしないだろう、第一にエルフが奴隷になるとはいえ、それが赤ポーションと同価値あるかと言われれば疑問だ。
多分だけど、価値だけで考えれば赤ポーションの方が上だと思う。
ただ同時に思うことは、同日にあった長身の細長い体躯の男性冒険者であるマクスウェルとの会話・・・・・・今も尚、再生治療を臨んでいる人がいると言う話を聞いたので、少しポーションに対して考え方が変わったのかもしれない。
だからこそ、奴隷云々を抜いて彼女を助けたいと思ってしまった。その根底にはエルフという特別な存在があるからかもしれないけど・・・・・・
「ありがとうございます。厳児さん」
「いいよいいよ、ほとんどの土地は使っていないしね」
赤ポーションを作製する為にまず必要なのは原料となる
最初こそ〈異世界渡航〉の能力を使って誰も知らない世界で栽培しようかとも思ったのだが、50本の
それを農業未経験者の俺が一ヶ月の間に出来るのか?と言われれば無理とは言わないにしても、かなり難しいというのは分かった。
市販されている目薬ぐらいの量の赤ポーションで、大体4000本近くの
一応、晶さんを伝って聞いてみてもLeaf研究所で既にある物が大体500本程度、そこからかき集めても残り3500本の薔薇が必要となれば個人で到底用意出来ないレベルだ。流石の晶さんでも用意に一週間はかかると言われれば、実際に使える日数はもっと少ない。
ここまでするのなら、いっそのことアスフィアル世界の研究を行っているLeaf研究所と共同にやれば?と思うのだが、この
ただこの
そして話題は最初の部分に戻る。
「多分、一ヶ月も掛からないと思いますので、終わり次第ちゃんと片付けをして元通りにしておきますので」
「そんなに気にしなくてもいいんだよ?元は荒れ地だからね、好きに使いなさい」
東京に住居を移した今でも、最初にやってきた赤根村の人達との交流は今でも続いている。これに関しては複雑な事情は無くただ居心地が良いと言うのが理由だ。
元々、俺は前世でも地方の出身であり、そこから20年近くアスフィアルの世界で過ごしていたこともあって、東京という場所はまさに鉄で出来た摩天楼と言わんばかりに高層ビルを始めとして、人や物が大量に溢れており、田舎人の自分としては長時間東京に居続けるのは少しツライ部分がある。
程よい田舎、と言うには赤根村は少々田舎過ぎるものの、赤根村の土地勘は既に持っているし、何より一番大きいのが俺が外を出歩いても不審がられないという点だ。
それに厳児爺さんを始めとして、多くの村の人達とも知り合いということもあって、俺は住居を東京に移した今でも何度か赤根村にやって来ていたりする。
そして今回の薔薇の栽培地を探すに当たり、赤根村周辺の大地主である厳児爺さんに話を持ち込んだ・・・・・・という訳だった。
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