第43話 エルフの奴隷
今回、王都闇市で販売した紫ポーションは、普段であればその日の目玉商品クラスには価値が高いものになる。
一本500万、時期によっては倍近くもするこの超高額な薬は闇市が開催してから一時間足らずで売れてしまった。
周囲に居た人間の中には購入できなかったことを残念がっている者も多く、その客の中には後で残っていたら購入したいと言っていた人も存在した。
「凄いな、エルフの噂って」
「そりゃそうよ、エルフの奴隷なんてそうそう出るものじゃないし」
王都闇市には大まかではあるが、それぞれ売り物の種類によってブースが分かれている場所が存在する。
今回、俺やアイナが居た場所はフリーマーケット会場であり、物の種類や選別無く様々な物が売られている。
そして今の王都闇市で一番人を集めているのが、闇市中央の奴隷販売エリアだ。奴隷販売、言葉にするとかなり悪い印象ではあるが、周囲を見渡してみると活気はあれどそこに嫌な空気は無かった。
「奴隷によっては色々と条件があるんだな」
「まぁここに集まるのは借金や犯罪で奴隷落ちした人達じゃないからね」
他よりも明らかに道幅の広い奴隷販売エリア、多くの客が行き交う道の端に、プラカードの様な物を掲げた人達が等間隔で並んで立っていた。
「月5万、年50万・・・・・・って安くないか?」
「技術の無い奴隷ならそんなものじゃない?しかも住み込みって書いてあるから衣食住は主人が確保しないといけないし」
前世の偏った知識だけで考えるなら、奴隷には人権が無く、買われた主人には絶対逆らえない・・・・・・なんてイメージがあったものの、このアスフィアル世界では奴隷にもしっかりと人権はあるようだった。
言ってしまえば拘束力のある使用人を雇う、といったイメージに近く、奴隷だからといって不眠不休で重労働をさせる・・・・・・というのは無理だ。
ただ一般的な奴隷であれば、不眠不休で重労働といったブラックな仕事は無いにしても、魔物の解体作業や下水作業といったキツイ作業をさせられる事が多いそうだ。
あとは守秘義務や行動制限といった仕事に関係する誓約魔法も主人の判断で掛けられるという。
この誓約魔法を掛けられるというのが、買い手の最大のメリットになるらしい。裏切らないや情報を他者へ漏らさない、という点で優れている魔法なのだが、誓約魔法を一般市民に使うと重罪になるという。
「月30万、こっちは高いな」
「商会の元丁稚だったら簡単な計算とかも出来るでしょうし、高くても買い手はいるんじゃないかしら」
簡単な計算で月30万か・・・・・・今後、自分の店を持つ事を考えれば守秘義務の類でも優れている奴隷の店員というものも良いかもしれない、と思ったりしたが技術を持つ奴隷の値段はかなり上がるみたいだ。
「じゃあ、エルフの奴隷ならどうなるんだ?」
「さぁ?私なら月1000万でも驚かないけどね」
この国に奴隷としてやって来る・・・・・・ということは、自らの意思で自分を奴隷として売るという訳なので、どういう理由なのか、ただ単純に気になった。
人混みの激しい中央エリアでも、更に人が集まる場所の中心に、例のエルフは佇んでいた。
他の奴隷達がプラカードを掲げて積極的に話しかけている中、エルフは椅子に座り本を読んでいる。
若草色の美しい長髪からエルフ特有のピンと尖った長い耳が垣間見える。顔立ちも噂に違わぬもので、彼女の姿をひと目見た人達は思わず歓声を挙げていた。
彼女の周辺には簡易的な柵が設置されており、近くまで寄る事は出来ない、周りには屈強な警備兵も居ることから闇市の運営も気にしているのかもしれない。
「まるで上野のパンダだなこりゃ!」
「何よそれ!」
区切られた柵にしがみつくように、エルフを見ようと多くの人間が波を作るように移動する。
その光景は、かの有名な有名な上野動物園に初めてパンダがやってきた時の映像を思い浮かべる。
『押さないで!!』
ピーっと警備員の笛と共に大声で注意が入るが、人の波は既に制御不可能な状態になっていた。
ただただ流されるままに、そばにいるアイナと離れないように何とか身体を捻りながら動いていたら、偶然にも最前列まで来ることが出来た。
「すげぇな・・・・・・」
まるで専用に組まれた壇上にある椅子に座りながら、文庫本程度の大きさの本を読むエルフ、髪と同じようにまるで宝石のような美しい翡翠の瞳は大勢の人の波を気にせずに、目の前にある本にだけ集中が向けられている。
そしてステージの下の部分には、茶色の額縁に飾られた一枚の白い紙が立て掛けられていた。
その内容を読んでみると・・・・・・
「やっぱりエルフとなれば、色んな条件があるんだな」
茶色の額縁に飾られた一枚の白い紙には、達筆で彼女を購入する条件が書かれていた。その内容は他の奴隷と同様に、複数の条件が提示されている中で、目に留まったのが1つあった。
『必・赤三等級以上のポーションを1つ』
この条件を見た瞬間、俺はどこかしら彼女との運命を感じた気がした。
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