第42話 紫ポーションの価値
俺とアイナにとって不幸中の幸いだったのは、今日の王都闇市ではエルフの奴隷が出品されるということもあって、いつも以上に会場が騒がしかったこと。それによって警備の人達は忙しく、多少の乱闘騒ぎでも厳重注意で済んだことだっただろうか。
「・・・・・・意外と短気だったんだな」
「・・・・・・ゴメン」
まだ高校生ぐらいの少女が大男を腕一本で吹き飛ばす様は、周囲に居た人達の目を奪った。王都闇市は他に比べて荒っぽい輩が多いとは言え、彼らからみてもアイナが殴り飛ばした男の様な態度は目に余るものだったらしい。
だからこそ、アイナの暴力事件は拍手喝采の中で不問とされて、その場の空気感を見た警備兵もアイナに過失がそこまで無いと判断したようだ。
ただ一方で、加害者であるアイナは漫画で例えるなら、ズーンという擬音が付きそうなほど落ち込んでいた。
彼女にとって、一般人に手を出したのはかなり堪えるようだった。
だからといって、俺が慰めることは出来ない、たしかにあの客は酷いものだったが身体能力に優れる冒険者が一般人に手を出すのは下手すれば重罪だ。
今回はただ運が良かっただけで、場合によっては犯罪者になっている可能性すらある。だからこそ俺は何も言わないようにした。
・・・・・・まぁ、これらの注意は西王寺がするだろうから、俺が言う必要もないというのもある。
アイナの乱闘騒ぎもあってか、店頭で販売している紫ポーションへの注目度は高かった。
流石に物が物なので買うことに対して躊躇する客も多かったが、複数人が買いたいと申し出ている。
その多くは商人ではなく、ガッチリと装備を着込んだ冒険者だ。
「ギルドの鑑定書・・・・・・店主、これを買おう」
「ありがとうございます」
一本500万、決して安くない買い物なのだが、世の中にはそのような高い物でも即決で買う人間は居るようで、ポーションとギルドの鑑定書を軽く見ただけで購入を決めた客が現れた。
おぉ、と周囲に立っていた客は一同に驚きの声を上げていた。幾ら高額商品が日々売買されている王都闇市であっても、紫ポーションレベルの取引は珍しいようだ。
「・・・・・・時に店主、これはどうやって仕入れたのだ?」
「色々と伝手を使った結果、とだけ」
自作のポーションを購入した客は、やたらと長い髪が特徴的な男性冒険者だった。
身長も高く、周囲の客よりも頭一つ分は背が高いだろうか、ただ体つきはひょろりと細く、どちらかというと華奢な体型をしていた。
「そうか、もし再び入荷する予定があったら是非買わしてもらいたい、これは私の冒険者カードだ。ギルドに持ってきてくれれば、そのまま購入手続きをしてくれる。価格はその場の値段で良い」
「わかりました」
男が差し出してきたのは一枚の冒険者カード・・・・・・のコピーであり、この世界で言うところの名刺のような物だ。
名前は・・・・・・マクスウェルと言うらしい。
「しかし良いのですか?無論、暴利を貪るつもりはありませんが、場合によっては倍近くしますよ?」
「問題ない、ただ使用期限だけは気をつけてくれ」
今回は最低価格に近い金額で販売しているが、時期によっては倍近く高値を付ける事もある。
特に多いのは未確認のダンジョンが国内で確認された時や、戦争の機運が高まった時が多い。
まるで株の値動きのように、王都の広まった噂によってこれらポーションの値段は上下する。
カインリーゼ王国は基本的平和ではあるものの、周辺諸国ではちょくちょくと紛争が起きていたりする。
それこそ、カインリーゼ王国から南にあるアインハーバー都市群と呼ばれる独立都市が幾つも集まって出来上がった国では、年中争いが起きていると言うし、戦争だけでなくともモンスターが異常発生したり、貴族のお家騒動で戦いが起きたりと、争いの種は結構多かったりする。
ただ近年はそれら争いも無く、ポーション類は基本的に安値を維持しているみたいだ。
なので一応、値段はその時期による・・・・・・と念のため注意はしたが、マクスウェルは特に気にしないと言う。
数百万単位の値段を気にしない、というのは中々に凄いことだがもしかしたら結構著名な冒険者のかもしれない。
「紫等級のポーションは中々市場には出回らない、それこそ月に一本出品されれば良いほうだ。だから怪我を治療できない者も多い」
「そうなのですか?」
「あぁ、再生治療ともなれば治癒魔法使いでも出来る者は少ない、だからこそ紫ポーションが必要なのだが需要に対して供給が少ない、だから言い値で良いと言ったんだ」
マクスウェル曰く、多少の怪我であれば低級のポーションや治癒魔法で治すことが出来るが、冒険者という仕事柄、手足の指や腕や脚自体がモンスターとの戦闘において吹き飛ぶ・・・・・・なんてことはそう珍しくはないという。
今回、購入した紫ポーションは、先月モンスターとの戦闘で右指を欠損したパーティーの仲間に使うのだと言う、その方法は欠損した部位を切り落として、ポーションを軟膏の様に塗り付けるという、説明を聞くだけで背筋が凍るような方法だ。
ただそれでも治療したい、という冒険者は多いという。
(そりゃそうだよな、下手すりゃ引退の可能性だってあるし)
冒険者は身体が資本、何処か怪我や病気をすれば満足に戦うことは出来ない。
そうなれば収入は自ずと少なくなるので、高い金額であっても出来るだけ早く再生治療をしたい、という冒険者は俺が思っている以上に多い様子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます