第41話 アイナの鉄拳

 王都闇市は東地区に伸びる道幅の広い道路に囲われた巨大な空き地に存在する。


 大きさで言えば、ちょっと大きな森林公園ぐらいには巨大で店の数も凄まじい・・・・・・その中に潜むお宝を探して王都闇市へ多くの人間が集う。


「凄い熱気だな」

「流石王都って感じね、店が一箇所に集まっている分、騒がしさだけなら露店祭以上じゃない?」


 俺とアイナが店を借りた場所は良くも悪くもない中途半端な場所になる。一番人の目に止まりやすい東西南北の入り口付近や目玉商品が集まる中央売り場と違って、どっちつかずの中途半端な立地だ。


 方角で言えば北東寄りだろうか、王都闇市はまだ始まって間もないのであれほど集まっていた客はまだやって来ていないものの、地鳴りの様な音が周囲から聞こえてくる。


「あっ、そうよ・・・・・・今日の闇市がやけに騒がしい理由思い出した」


 まだまだ客は来ないな、と向かい側の店を何気なしに見ていたら、横に座っていたアイナがポンと手を当ててこの騒ぎの理由を思い出したようだ。


「この騒ぎの理由はなんだ?」

「エルフが奴隷として入荷したって聞いたわよ、それで人が集まってるんだと思うわ」

「あー・・・・・・なるほどね」


 エルフに奴隷、まぁ何ともファンタジー世界のお約束とも呼べる物がこの闇市にやって来たらしい。


 というかこの国、奴隷制度あったんだ・・・・・・と今更になって気が付いた。


「珍しいのか?」

「この国は他に比べたらそこまで規模が大きくないからね」

「ふーん、エルフか・・・・・・」


日本人の感覚で言えば、長寿で男女ともに美形で弓の扱いが上手い・・・・・・っていう感じだけど、この世界ではどうなんだろうか。


「・・・・・・エルフは男女共に美形として有名よ、奴隷狩りのある国だと真っ先に狙われる対象ね」

「奴隷狩りって・・・・・・」

「・・・・・・先に言っておくけど、その奴隷を買ってチームハウスに持ってくるとかやめてよね」

「やるわけねーだろ」


 半目で睨んでくるアイナを一蹴するが、やはり元日本人としてエルフは気になるのも事実。

 もし、まだ売られていなかったら見に行こうかな・・・・・・そんな事を考えながらアイナと他愛の無い雑談をしながら暇を潰した。






「おい、これ本物なんだろうな?」

「えぇ、ここにギルドの鑑定書もあるでしょう?」

「そんなものいくらでも偽造出来るだろう?こんな不確定な物、怖くて買えんわ」


 闇市が始まってから数十分も経てば、続々と周囲に掘り出し物を探しに来た客たちがやって来る。


 以前、露店祭をやったときは最初の客がレイ・カスティアーノという事もあって、今回の闇市がある意味本当の商売とも言える。


「一本130万でどうだ?」

「それは青一等級ポーションの値段でしょう?流石に無理ですよ」


 この闇市へやって来る客の多くが、最初に商品にいちゃもんを付けて値段を下げようとする。

 これは本物の紫ポーションなのか?青ポーションの間違いじゃないのか?など色々と問い詰めて、ギルドの適性価格よりも多少積んだお金で交渉してくる。


「・・・・・・」

「おい、この男ばっかりに喋らしておいて、貴様はなんなのだ!?」

「・・・・・・うるさいよ、買わないならどっか行きな」


 店の前に立って販売しているポーションにやたらいちゃもんを付けてくるのは、やたらと恰幅のよい男、身なりからして王都か流れの商人だろうか?


 既に太陽は隠れて、それなりに涼しいハズの闇市でやたらと汗を掻きながら声を荒らげて話すものの、譲る気は更々無い。


 この手の男は見た目と雰囲気で脅す様に値切ってくるのもあって、心のなかで反発心が生まれているのもあるが、単純にこれが青一等級ポーションだったとしても闇市価格とすれば120万は随分と安い。


「き、貴様!!」


 俺が譲歩しないせいか、隣りに座っていたアイナをギロリと見て捲し立てるように話しかける。


 俺からアイナに視線を動かす際に、ブルン顎についた贅肉が揺れて汗が飛び散る。


 うわぁ、と内心ではそろそろ辟易としていた頃合いだったが、俺が言葉を発する前に、隣に座っていたアイナの堪忍袋の緒が切れた。


「うっさいんだよ!!買わねぇならさっさと店の前からどけっ!!商売の邪魔だ!!!」


 声を荒げる姿に、両隣の店主が驚いてこちらを見るものの、直ぐに意思の外へと離した。


 常に騒がしい闇市であれば、アイナの対応もそう珍しく無いのだろう。


「女如きがぁ!!」


 ビビるというよりは、若い女に怒鳴られてプライドが傷ついたようで、目の前に居た男は顔を真赤にしてより一層凄む。


(すげぇ、まるでキン◯ダムみたいな画風だ)


 ここまで男が執着するのも、今回持ってきたポーション及び鑑定書が本物だというのが分かるからなのだろう。


 だとしても、キレて胸ぐらを掴もうとするのはやり過ぎだ。俺はそう思いアイナに掴みかかろうとした腕を掴み防いだ。


「きさ!「やりすぎですよお客さん」」


 言葉を被せるように、少し凄んで話す。流石に殴るのはマズイので圧だけで帰るよう指示を出そうとしたところだった。


「プギュッ!!」


 俺が顔を近づけて凄もうとした瞬間、客の丸々と太った顔がペシャリと潰れるように、視界の外側から鉄拳が飛んできた。


 視界の外側から飛んできた鉄拳の衝撃が、幾重もの肉の波を生み出して顔を伝う、汗も周囲に撒き散らしながらその巨体は浮き上がって元いた場所から数メートル後ろまで吹っ飛んでいった。


 ザワザワ


 まるで力士のような立派な体格をした男が勢いよく吹き飛べば、幾ら喧騒が広がる闇市であっても大衆の目を集める。


 ピクピクとその巨体を大の字にして動かない男に周囲の客はなんだなんだと集まって来た。


「・・・・・・アイナ?」

「あっ」


 地面に倒れて微かにピクピクとしている男から、アイナの方へ視線を移せば、彼女はいかにもやってしまったと言う感じの表情を浮かべていた。





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