第40話 王都闇市

 王都闇市、と呼ばれる場所は娯楽施設が多く立ち並ぶ東地区に存在する。


 東地区には、エラクトンの街同様に娼館や賭場といった施設が存在し、特徴的な物で言えば、地球上の歴史においてローマ帝が造ったといわれているコロッセオに似た闘技場も存在する。


 常に騒がしい冒険者の南地区と違い、東地区はまた別の意味で騒がしい場所だった。


 そんな東地区の一角に、王都闇市と呼ばれる場所が存在する。


「・・・・・・寝不足?」

「あぁ、少し寝付けなくてな」


 昨日、まさにSFの世界らしい圧倒的な光景を目撃したせいもあって、中々に寝付けない状態で南地区と東地区の境目の通りまでやってきていた。


 そんな俺の状態を見て、隣を歩いていたアイナが心配してくれる。


「まさか、緊張して寝付けなかったとか言わないでしょうね?」

「違う、別件だ」


 まだ日が昇って間もない早朝ではあるが、通りを歩く人達は多い、夜間の内に王都へ到着した商隊が開門と同時に一気に流入してくるためだ。


 ただ王都住民向けの娯楽施設の多い東地区は、他の各地区と比べて静かだ。眠気のせいで定まらない頭を無理に動かし、初めて入る東地区の路地にはそのまま酔っ払って路上で眠っている者もいる。


「不気味だな」

「ふん、地方の都市によってはここよりも危険な場所はいっぱいあるよ、それこそ昼間であっても女一人で歩いては危険な所とかね」


 エラクトンの街でも、肌がヒリつくような場所は存在する。じめっとしており、日中でもどこか薄暗く不気味な場所。


 それらは貧民街と呼ばれ、明日の食料を買う金すらも怪しい者達が住み着く場所だ。


 それは栄華を極める王都であっても変わらない・・・・・・実際にアスフィアル世界よりも科学技術が進んでいる日本ですら、貧民街とは呼ばずとも怪しい場所はあるので、どの世界どの時代であってもこの様な場所は存在するのだろう。


「闇市は東地区の中心部よ、早めに登録しておかないと夕方から販売出来ないかもしれないし、気にせず行きましょ」

「そうだな」







 王都闇市という名称から、市場で販売されている品物の中には法律に触れるような違法品が沢山売られていそうだが、実際のところそんな事は無い。


 ただ単純に王国やギルドが管理する市場から外れた存在というだけで、闇市に売られている品々は健全なものばかりだ。


「凄い賑わいだな」

「これでも夕方からの販売登録をする人達ばかりよ、市場が開いたらこの倍は人が居るみたい」


 王都闇市は、以前俺が参加した露店祭を発展させたような装いをしている。大通りに並ぶ石と木材で出来た立派な店じゃなくても、露店よりグレードの上がった店舗が等間隔に並んでいる。


「フリーの売り場はまだ残っているみたいね」

「別に一等地じゃなくてもいいからな、紫ポーションは」


 王都闇市の特徴的なシステムとして、これら露店よりもしっかりした店舗の中には日貸しする場所が幾つか存在することだ。


 割合で言えば闇市全体の6割ぐらいがこのフリーの店舗となっており、一日の借家という形で契約が出来る。


 それらは王都闇市を管理する民間企業の事務所で申請することが出来るのだが、生憎のところ、一等地は既に予約で埋まっているようだった。







「はいこれ、ポーションの鑑定書」

「ポーションの横に立て掛けとくか、ただ盗みには気をつけないと」


 露店祭と違い、既に店は設置されているので俺とアイナがやる仕事はたった1つのポーションを商品棚に置くだけである。


 人によっては自作の看板を設置したり、見栄えをよくするために簡単な装飾を施したりするところも多いが、俺とアイナはただシンプルにポーションだけを設置して横にギルドから発行してもらったポーションの鑑定書を置くだけだ。


 どうせ売れればそのまま店を畳むことになるので、手の込んだ装飾は要らないだろうという判断だった。


 時間にしてみれば午後の三時ぐらい、そろそろ闇市で掘り出し物を探すべくやって来た客たちが集まる頃合いで、外には待っている人間も多い。


「やけに多いな」

「さぁね、どこかの商人が凄い商品でも仕入れたんじゃない?」


 そろそろ開始の合図が始まろうとする中で、俺とアイナは店の中で暇を持て余していた。


 周囲の店ではギリギリまで商品を並べていたり、値段設定で悩んでいたりするものの、今回の売り物はポーション一つなので悩みようが無い。


 逆に気になるのは闇市周辺で待機している人の多さ、入り口には既に人の壁が出来上がらんばかりに集まっていてちょっとした暴動すら起きている。


 何をそこまで急ぐのだろうか?


 その様子に疑問を浮かべながら、椅子に座り開催の合図を待っていた。




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