第39話 神の血〈イコル〉
アスフィアル世界における最上位のポーションは、まるで血の様な鮮やかな赤色をしたポーション液になる。
この色をしたポーションは、現代のアスフィアル世界でも再現が不可能なオーパーツとして知られており、眉唾物の噂ではあるが、この赤ポーションの最上級品はこの国の頂点であるカインリーゼ王家が代々受け継いでいるとも言われている。
半ば伝説として語り継がれる赤色のポーションは、その絶大な効果や色合いからして別名『
この赤ポーションは数年に一度、未だ踏破されていないような高難易度のダンジョンの奥地で極稀に発見されることがあり、その神話さながらの効果も相まって、この赤ポーションを目当てに冒険者を志す者も居るほどだ。
その効果は ”
他にも不老不死になるとも言われているが、ダンジョンで発見されるポーションのその多くは赤ポーションでも2~3等級と呼ばれる。これの事からして、殆どダンジョンで見つかる赤ポーションは最上位の中でも中位と下位のポーションが多いので、伝説として語り継がれる死者の蘇生や不老不死の効果は発揮しない。
だがしかしその効果は絶大で、治癒魔法でも治しきれないような大怪我すらも一瞬にして修復すると言われている。
・・・・・・まぁ、治癒魔法でも助からないような大怪我をした時点で大体はポーションを使う暇もなく死ぬらしいのだが。
そして赤ポーションと、その次の位階に存在する紫ポーションの違いは色以外にも明確に存在する。
それは若返りの効果。
小瓶分だけで、実の年齢から5歳は若返ると言われており、俺がこの世界で生まれる前のアスフィアル世界では時の権力者達が挙って古代ダンジョンを捜索してこの赤ポーションを探していたそうだ。
この赤ポーションを占有し、全てを自分に対して使用したその時代の権力者の一人は150歳ぐらいまで生きたらしい。
まさに伝説のアイテム、権力者達が欲望の果てにたどり着くものだ。
「・・・・・・いや、そんな訳ないよな?」
今回、俺が残りの
光をかざせば、なんとなく赤にも紫にも見える微妙なものだ。
少なくとも、他の人間が見てもコレを赤ポーションとは呼ばないだろう。
「でもこの力・・・・・・明らかに紫とも違うしなぁ」
触ろうとするだけで指先がヒリつくような感覚に陥る。近しいイメージで言えば、高濃度のアルコールが素肌に付着した際による気化熱のスースーとした独特な感覚だろうか?
「蒸発もしないし、よく分からんな」
今回、50本の
少なくとも、おいそれと他人には言えないブツなのは分かる。
プレパラートに付着した赤紫ポーション(仮)をスポイトで吸い取って小さな容器に保管する。
ポーションを作る際に、何気なしに用意した理科の実験セットが役立つとは思いもしなかった。
「しっかし、何処に隠すかな・・・・・・」
こんな物騒な物、アスフィアルや地球に隠すと誰かに見つけられた際に大問題になりそうだ。
これがあの赤ポーションとは限らないが、少なくともメイが作った紫ポーションとは比較にならないナニカを感じる。
「未開の土地に埋めるか・・・・・・」
幸いにも、俺は物を隠すことに適した力を持っている。
適当に文明が出来上がっていない世界を探して、この厄介なブツを埋めてしまおうと考えた。
そうすれば少なくともこのポーションの価値を知る者は居ないだろう、そう思い無作為に世界を選んでムーンゲートを開く。
白いモヤに閉ざされたムーンゲートの先には、赤褐色の大地だけが広がる世界へやってきた。
自然どころか植物すら見当たらない不毛な土地、少なくとも人が生存できるであろう環境を選んでゲートを開いている。
なのでムーンゲートの先に出ても呼吸することに問題はない、多少肌寒く感じるが許容範囲内だ。
「・・・・・・えぇ」
名も知らない世界に踏み入れると、身を突き刺すような冷風が全身を撫でる。
アスフィアルや地球と違い、今回やってきた場所はかなり過酷な環境だと分かった。
このまま地中に埋めて早く退散しよう・・・・・・そう思い、ふと後ろを振り返ってみるとそこには天も貫く一本の巨大な柱が立っていた。
横殴りに輝く太陽の様な恒星の光にキラキラと煌く、巨大な柱はこの世界特有の謎現象ではなく質量を持っている。
「・・・・・・軌道エレベーター」
黒にも近い上空、そこを貫く宙まで伸びる巨大な柱の先には、空を覆い尽くさんばかりの巨大な宇宙船が浮かんでいた。
「・・・・・・帰ろう」
ここは少々マズイ場所だったらしい。
この後、なんとか文明が発達していないリアルジュラシックパークが広がる原始時代にも満たない世界を見つけたので、その特に目印もない場所に赤紫ポーション(仮)を隠すことにした。
・・・・・・奇しくも、この2つの世界にまた訪れることになるとは、この時思いもしなかった。
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