第36話 定例会議

「次」

「王都周辺に存在する各ダンジョンの調査は終わりました。明後日には幾つかの班がダンジョンへ挑戦する予定です」


 チームハウスの一角にある会議室、30人を超える団員達が全員収容できる巨大な一室には、俺を含めた複数人の団員達が集まっていた。


 西王寺の短い言葉に対して、資料を片手に起立して話し始めるのは、西王寺とは対象的な白い髪が特徴的な副団長のラフィンだ。


 今回、暁月の旅団の会議室で行われているのは、旅団に所属する冒険者パーティーのリーダーを務める団員達が集まって行われる定例会議、五人一組で組まれる旅団のパーティーにはそれぞれ五人リーダーが存在し、その全員が今回の会議に参加している。


(あれが副団長ね・・・・・・)


 男嫌い、とキャミル達から聞かされている旅団の副団長のラフィンは、毅然とした態度で手に持っている報告書を読み上げていく。

 彼女は副団長と同時に、旅団でも高い実力者が揃うパーティーを率いており、ラフィン自体も旅団の中でも個人として高い実力を持っている。


 最初は、男である俺に対して何かしらのアクションがあるかと身構えていたんだけど、意外と何もしてこない、最初はいびられるぐらいの覚悟はしていたんだけど、彼女からは俺に対して嫌悪の感情もなければ、居ないものとして無視するわけでも無かった。


 だからといって、同じ仲間、としても見られているとは思えない。


「次」

「はーい、次は魔法班ねぇ~」


 俺の思考を遮断するように、ラフィンの報告を聞いた西王寺は短い言葉で次の報告を促した。

 そして次に起立したのは、ラフィンよりも背の高い大人の女性――――以前、王都学区へ出向いた際にキャミルから話を聞いたこの旅団で唯一の宗教学校の卒業者である紫髪が特徴的な女性のナナだった。


 彼女はとても希少な神聖魔法と治癒魔法の両方を使える神官であり、その名は団長である西王寺や副団長であるラフィンとを超えるとも噂されており、肩書こそ魔法班のリーダーという立ち位置ではあるものの、実質的には暁月の旅団のナンバー3だ。


 ひどく間延びした喋り方と共に、ラフィンと同様に報告書を手にとって彼女は説明を始めていく。


「アレン君が旅団に加入してからぁ、男性冒険者からの問い合わせが、いーっぱい来ていまぁす・・・・・・ですがぁ、見込みのある人は居なかったのでぇ、全員採用を見送りましたぁ~」

「そう」

「はーい、ですがぁ・・・・・・私から一人、団長へ推薦したい子が居ます~」


 ナナはそう言うと、後ろに座っていた班のメンバーに指示を出して追加の報告書を渡していく。


 そこに書かれていたのは、ナナが推薦したい人物のプロフィールだった。


「この子は?」

「ピアナ・イーシャンという騎士の家系の子ですねぇ、高い治癒魔法適性を持っているのでぇ、半年もあればモノになると思いますぅ」

「・・・・・・二人目の治癒魔法使いか」


 ナナの言葉に対して、つぶやくように喋ったのは他パーティーリーダーの内の一人だった。


「確かにピアナという子が治癒魔法使いになってくれれば、旅団としてもかなり戦力向上が見込めるわ・・・・・・けど、大丈夫なの?」


 西王寺にしては抽象的な問いに対して、ナナはうっすらを笑みを浮かべながら答える。


「えぇ、ピアナちゃんは素質はありますけどぉ、それに気がついている人は私以外居ませんのでぇ・・・・・・囲うなら今だと思います~」


 ここら辺の良し悪しは、現役の治癒魔法使いであるナナにしか分からない部分があるのかもしれない。


 囲う、その意味が具体的に何を指すのかは不明だが、青田買いのように将来有望な人材を早めに確保しておこう、ということなのだろう。


「貴方が言うのであればそうなのでしょう・・・・・・条件は貴方と同程度でいいわ、纏めなさい」

「了解しましたぁ♪」


 暁月の旅団は、団に所属すると一定数の上納金が課せられる。


上納金、といっても基本的にはクエストの報酬金やアイテムの売却金から一定額引かれるというものだ。


 この上納金は団員にそれぞれによって変わっており、一般的には魔法使いの団員はこの上納金の負担が少なく、条件面で優遇されている事が多い。


 これは、単純に魔法使いが希少かつ有用であるからだ。なので古参のリュカやラズリよりも、比較的入団が遅かったキャミルの方が契約面では良かったりする。


勿論、この契約には本人の実力によって左右されるが。


 ちなみに俺は商人として雇われているので、逆に旅団から給金が出る。その額は王都商人としてみれば少ないものの、見習い商人と考えれば破格の額だ。


ただ俺が冒険に出る場合は、一般団員としての契約になっている。


 そして一番優遇されているのは、団長の西王寺でも無く、副団長のラフィンでも無く魔法班リーダーであるナナだったりする。


 これはひとえに彼女が魔法使いよりも更に希少な神聖魔法と治癒魔法の使い手だからであり、正直言えば、彼女が移籍しますと言えば旅団以上の好条件を出すチームは他にも沢山あるだろうと言われているぐらいだ。


 だからこそ、将来的に治癒魔法使いになれる可能性の高いピアナに対して、好条件を出すと西王寺が言っても誰も文句は言わない。






「次」

「はいっ!」


 ナナが着席したのを見計らって、議長を務める西王寺が次の報告を促した。

 そして呼ばれたのは、補給班のリーダーであるアイナ、彼女は何処か緊張した面持ちで勢いよく席を立つと、ハキハキとした声で話し始める。


「さ、昨日の一件もあり、旅団の物資関係は全て滞りなく纏まりました。鍛冶屋の確保も終わっています」

「そう、他には?」

「ほ、他には・・・・・・」


 まさか西王寺から続きを促されるとは思いもしなかったのであろう、アイナは何処か言葉に詰まった様に資料を流し見て、まだ報告していない部分を探している。


「・・・・・・一つ、報告があります」

「何?アレン」


 旅団は全員が家族とまでは言わないが、全員が他のチームと比べて比較的仲が良い。

 もちろん、大勢の人間が集まるので多少の不仲はあれど、その場が険悪になるほどではない。


 なので、アイナが緊張のせいで多少の会議が滞っても誰も不快に思わないのだが、当人が可哀想だったので俺は手を上げて追加の報告をすることにした。


「旅団で使われているポーション関係で少しご報告があります」


 俺は事前に用意していた資料を各リーダーに配るのと一緒に、日本で作った新型ポーションを用意した。


「・・・・・・これは?」

「自分の伝手で製作した新型のポーションです。詳しい内容は資料に目を通してください」


 まだ面識のあまりないリーダー格の団員が一人、手に渡されたポーションパックを見て聞いてきた。


「・・・・・・なるほど、これは」


 元々、日本で生活をしていた西王寺は渡された新型ポーションをひと目で分かったようだ。

 白色の半透明のパックには、ポーション特有のドロっとした青汁のような鮮やかな緑色の液体が入っている。


「これは新型のポーション容器です。見た目からしてまず従来のガラス容器に比べて耐久性に優れており、荷物にも嵩張りません。そして注目すべきはその使用可能期間です」


 次のページを、と促したところで会議室に居たメンバー全員が一斉に次の資料へと捲った。


「・・・・・・ポーションが一ヶ月も?」

「出鱈目すぎるよ、これほど長持ちするという証拠がない」


 従来のポーションが大体一週間までしか保たなかった事を考えると、資料に書かれている内容は目を疑うものだったのだろう。


「静かにしなさい」


 会議室が一気に騒がしくなると同時に、パン!と西王寺が手を叩いた。


「疑うのは分かるわ・・・・・・でも、一ヶ月後には判明するような嘘を吐くかしら?」

「それは・・・・・・」

「ならば、これから一ヶ月間は従来のポーションとアレンが用意した新型ポーションを併用して持ち運びなさい、そうすれば自ずと結果も出るでしょう?」


 会議室が紛糾しかけたところで、それまで短く答えていた西王寺が強引に纏めるように話す。


 冒険者にとって、ポーションとは唯一の回復手段と言ってもいい、ナナのように治癒魔法で傷を癒やす事が出来る者も存在するが、冒険者の大半は怪我を負った際にはポーションを使う。


 だからこそ、普段から一定数のポーションを常備しているし、扱いにも繊細になる。


 そんな中で、よく知らない人間が新型のポーションを開発しました。今度からはこれを使ってくださいと言って、直ぐに切り替えるのは心情的には難しい。


 なので西王寺は、少し無駄は増えるものの、従来のポーションと新型のポーションを併用するように・・・・・・と指示を出した。


 それによって各リーダーたちの反発は最小限に抑えられ、俺が提案した新型ポーションは部分的に採用されることになった。




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