第35話 新型ポーションの開発




「やっぱり常備用のポーションの維持費が高いよなぁ・・・・・・」


 某、窓OSの会社が開発している表計算ソフトを使い、カチカチとマウスをクリックしたりキーボードを叩いて数字を入力したりしながら、旅団の経理関係を調べてみると、表計算ソフトが出力した結果の中で濃い赤文字で表示されている欄が幾つか見つかった。


 今使っている表計算ソフトでは、旅団の支出関係の数値が表示され、各項目の中で赤文字で濃く表示されているものは、出費が著しく大きい物になる。


 元々、旅団に関係する事務関係の仕事は西王寺か補給係のアイナがやっていたものの、その仕事量は膨大であり、どちらも専門的な知識を持っているわけじゃない。


 どんぶり勘定・・・・・・というほど、西王寺もアイナもアバウトな管理はしていないが、文明の利器であるパソコンを使って計算してみれば、改善すべき問題が幾つも浮かび上がる。


 そして、今回俺の目についたのが、旅団で使われるポーション関係の欄だった。






「アスフィアルの世界で広く使われているポーションは、その薬液が細胞壁を越えて浸透し、核を異常なまでに活発化させて細胞の増殖を促します。他にも薬液には欠損した部位を一時的に補う様な役割を果たすので傷の治りが異常に早いのです」


 東京と千葉の境目付近に存在する西王寺グループの極秘の研究施設に俺は訪れていた。


 一見すると何の変哲もない工場のようにも見えるのだが、その周囲には厳重な警備と監視カメラが設置されている。


 某、ステルスゲームの伝説の傭兵であっても、おいそれと簡単には侵入できなさそうな西王寺グループの研究施設には、ほぼ住み込みに近い形でお抱えの研究員の方達が働いていた。


「吉田さん、簡単に纏めるならどんな感じですか?」

「ポーションの力で、人間本来が持つ自然治癒力を異常なまでに高めて傷を治す・・・・・・って感じですかね?」


 塵一つ無い清潔な研究施設には、俺が持ってきたアスフィアル世界の不思議物質を日夜研究する人達が集まっている。


 その研究施設で薬草類の研究を任されている主任研究員の吉田さんは、今回俺が持ち込んだポーションを調べて、その結果を教えてくれた。


 吉田さんは研究員らしく白衣を身にまとい、黒縁のメガネを掛けており、メガネで見え難いもののその瞼にはハッキリとクマが出来ていた。

 それでも今回俺が持ち込んだ話に対して、何やら電子顕微鏡で撮影された動画をタブレット片手にコマ送りに再生しながら、どの様な力でアスフィアル産のポーションが傷を治すのかを説明してくれる。


 ただ、俺には専門的な知識は無いので、捲し立てられる様に説明されてもその意味の半分も分からない。


「その力はやっぱり魔法ですか?」

「そうでしょうね、遺伝子情報を調べてみても、地球の植物と少し違いはあれど、人体に対して劇的に影響を与えるで程ではありません。そうなればやはり魔力、という未知のエネルギーが関係していると思われます」


 西王寺グループの極秘研究施設では、俺が持ち込んだ薬草や鉱石と言った不思議素材の研究も行われているのだが、一番力を入れて取り組んでいるのは魔力の観測だ。


 俺や西王寺は、視覚や触覚といった具合に魔力を感覚的に捉えることが出来るものの、吉田さんを含めて晶さんや龍幻会長といったこの地球で生活している人達には魔力を感じることが出来ないし、それらを観測する為の機械が無い。


 なので、俺が精密検査をしてもただの一般人、としか結果が出ない。


 勿論、俺が本気で走れば100メートル走や砲丸投げ、幅跳びといった種目ですら人の枠を外れた結果が出るものの、その理由は不明となっている。


 この不可思議な結果に対して、取り敢えず魔法の素である魔素が何かしらの働きを行っている。という前提の元で今現在は研究が行われている。


 そしてこの研究施設では、まず最初にこの未知なるエネルギーである魔力の観測をする為の機器の開発に一番力を入れているらしい。


「やっぱり、この世界で薬草を栽培しても異世界産の物と比べたら効果が低いですからね」

「それでもこの世界で公開すればノーベル賞ものですよ。大半は枯れてしまいますし、株分けも出来ませんので量産は無理ですが」


 アスフィアルの世界でも、薬草は基本的に魔素が濃いダンジョンや人里離れた場所にしか群生しない。


 その効果は、薬草が群生する環境の魔素が濃ければ濃いほど効果は上がる・・・・・・と言われているので、やはり薬草が持つ力は魔力が関係している物だと思われる。


「ただ長期保存、と言う部分では期待出来ると思いますよ。ポーションを過熱殺菌しても効果は落ちませんし、真空状態であれば魔素と呼ばれる物質の放出が抑えられるという結果が出ていますので」


 地球の方では、未だ魔力を観測する事は出来ないが、その性質を調べる方法は幾つも存在する。


「もし、薬草の内包する魔素量によって薬効が変化するといった因果関係があるのであれば、アスフィアル世界におけるポーションは約一週間で効果が半減し、そこからは緩やかに効果が減っていく様になります」

「では真空状態では?」

「密封する素材にもよりますが、従来の真空パックでも一ヶ月は持ちますよ、それに加えてサイズもコンパクトになりますし」


 アスフィアル世界のポーションは、ゲームの世界でよく見られる丸底フラスコの様なガラス容器で保管されていることが多い。

 これは、ガラス容器以外だと酸素が入ってしまったり、単純に容器がポーション液によって変形してしまったりするからだ。


 他にもポーションは薬効の強さによって色が変わる特性も持ち合わせているので、透明なガラス容器だと判別し易いというもの大きかった。


 ただその分、持ち運びには細心の注意が必要だし、ガラス容器だとは破損し易く重量も嵩むというデメリットも存在した。


「とりあえず。市販の真空包装機で効果が望めるのなら試してみようと思います」

「こちらでも魔素の放出量を抑えられる素材を調べて見ましょう。そうすればより高い効果を望めるかもしれませんし」


 吉田さんの提案もあり、俺はポーションの容器開発をすることにした。


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