第34話 コペン商会
商売というのは、ただ商品を仕入れて高く売るだけで出来る仕事ような簡単なものではない。
ただ客として少量を買うならまだしも、商いをする為に大量に仕入れるとなれば、そこには金銭だけではなく、生産者や卸売業者との信頼関係が必要となってくる。
王都で行われる商売の多くは、この信頼関係によって成り立っており、いきなり外部から来た人間に対して限られたリソースを譲ってくれたりはしない。
そのリソースの大半は、長年に渡って取引している商人や親しい個人に対して優先される。
だからこそ西王寺はこの王都において、一から関係を築くのではなく既に王都で商いをしている商会を取り込もうとしていた。
「・・・・・・すげーな、貴族と王族の影響力って」
「なんか言った?」
俺のつぶやきに、隣りに座っていたアイナが反応する
誰もいない応接室に俺と旅団において補給係の責任者であるアイナの二人は現在、王都で商いをやっている商会までやって来ていた。
目的は、旅団で消費する生活品に関するものだ。
将来的にはこれら関連も自分がやることになるだろうが、今はその伝手も無ければ人手も無い。
少なくとも今は外部の手を借りなければ旅団の運営すら難しい。
なので今回は旅団の長である西王寺と議論を重ねた結果、旅団にとって一番良いと思った商会へと訪れていた。
その商会の応接室は、この前のレイや榊原と面会した大鷲寮の応接室に比べたら少しグレードは下がるものの、それでも充分に豪華な場所だ。
流石王都の商人というべきか、エラクトンで商いをしている俺の知り合いとはレベルが違う。
今回の商談に用意された茶請けも、一般市民では手が届かないような類のものだ。
「いや、色々あってカスティアーノ家の嫡子とこの国の第二王女と知り合いになってさ」
「・・・・・・どうやったら魔法貴族の一家とこの国の王女様と関係が築けるのよ」
今回の商談は、日常的に消費する生活品の定期的な仕入れ枠の話を詰める為にやって来た訳なのだが、その大枠は旅団の長である西王寺が既に決めているので、後は細かな調整だけで終わるはず。
その為に、俺は事前に用意した暁月の旅団で必要な物資量を計算した表を持ってきてある。
この表に書かれている数字は表計算ソフトを使って算出したものなので、多分間違いは無いと思う。流石にコピー用紙を持ってくると不審がられるので、手書きで書き直しているのだが・・・・・・
その道のプロである晶さんや西王寺グループの経理関係の人にも手伝って貰ったので問題ないと思う。
「恐ろしく正確な計算ね、流石商人希望って感じ」
「俺が全部やったわけじゃないよ」
本当は日本の自宅にあるパソコンが勝手に計算してくれているのだが、西王寺はまだしも異世界人であるアイナにパソコンの概念を伝えるのが難しいので、自分と違う別人が計算してくれたことにしておく。
正直言えば、表計算ソフトの使い方や設定も晶さんに一から全部教えてもらったので、殆ど他人任せなんだけど・・・・・・
「は、はいっ!指定された品物はこのコペン商会が承りました!!」
「では、このようにお願いします」
ペコペコと、王都の商人にしてはやたら腰が低いコペン商会の会長、この世界では基本的に屋号を自分の名前にするので、会長の名前もコペンと言う。
商会の長であるコペンの格好は、王都に店を構える商人にしてはやたらと体つきがガッシリとしている。それこそ何かしらの力仕事を日常的にしていなければ出来ない様な体つきをしていたので、少し不思議に思った。
「コペン会長は冒険者でもやられているんですか?」
「えぇ、私は元々、冒険者の出身ですので・・・・・・妻の家が王都で古くから商人をしておりましたので、結婚と同時にこの店を開いたのです」
元冒険者であり、妻の両親は王都で商人をやっているという。
「奥様の両親は何の商売を?」
「私と同じ日用品関係です・・・・・・まぁ、向こうは王都住民向けなので種類は少し違いますが」
コペン商会は旅団のチームハウスからほど近い、南地区の大通りから少し離れた場所に存在する。
冒険者が集う南地区の一等地の殆どは、武器や防具の店だったり、ポーション類の店が多く立ち並ぶ中、日用品を扱うコペン商会は大通りの外れにあってもそれなりに店を訪れる客は多い。
しかし、コペン商会は南地区においては規模感的には中堅か少し下ぐらいの商会になる。
ただそれでも感じるのは、コペン会長自身の人の良さ、まだ二十歳前後の俺やまだ高校生ぐらいの年齢であるアイナに対しても腰が低く、その対応はとても良い。
元々、西王寺がバーン商会で不快な思いをしてから、店の格よりも評判や人柄を重視するように選んである。
幾つもある自薦や他薦の中から選んだ結果がコペン商会な訳なのだが、噂通りの気の良い人だと感じる。
まぁ、陰謀の渦巻く王都であれば表と裏の顔を使い分けている可能性もあるのだが・・・・・・
少なくとも、人を外見だけで判断せずにしっかりと対応できるのは貴重だと感じた。
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