第33話 卸売業者と小売業者

 榊原とレイの実家である王家とカスティアーノ侯爵家が暁月の旅団を支援するという内容を正式に発表して以降、連日のように王都で商いを営む人達が旅団のチームハウスへ訪れてきていた。


 それまで旅団の長である西王寺が直接相手方に出向いていたことを考えれば、今回の契約によって起きた影響は計り知れないものがあり、西王寺曰く、以前支援者になることを断った商会が態々アポイントを取りに来る程らしい。


「彼らからすれば、あのクリス王女との接点が凄く気になるらしいわね」

「王位継承権第三位だもんな」


 榊原は、元々の非常に高い素質に加えて覚醒者としての能力ブーストがあり、この世界の身体的及び魔法的なスペックでは、高い実力を持つ西王寺すら軽く凌駕している。


 その実力は傍系王族の第二王女でありながら高い王位継承権を持っている事から伺い知れる。どうもこの世界・・・・・・というよりカインリーゼ王国では、血筋も重要だがそれ以上に当人の実力や魔力量の方が重視される傾向にあるみたいだ。


 ただ悲しいことに、彼女は変人や奇人として王都中に知られており、王族でありながら彼女の派閥は思っていた以上に小さい。


 それでも歴代の王達を凌駕する才能に加え、高い王位継承権もあれば、彼女の派閥に属していなくても気になる人間は多いのだろう。


「第二王女はかなり人付き合いが悪いと噂されているのに、よく気に入られたわね?」

「まぁ、俺は日本から菓子とか色々取り寄せられるからな」

「それもそうね」


 俺の言葉に納得した様子で、西王寺はこの前より何倍も凌駕多くなった書類の山から紙を一枚取り出して、目を通す。


 作業量は以前よりも増えているはずだが、その表情は何処か軽やかだ。


「で、この前言っていた商会はどうだった?」


 この前言っていた商会とは、先日、ウチの団長と副団長を怒らせたバーン商会のことである。


「別に、あれ以降連絡も取ってないし、取り合う気も無いわ」


 俺の問いに対して、西王寺はキッパリとそう断言した。


 そりゃ、自分も含めて仲間を売れなんて言われたら、西王寺が怒るのも無理はない。


 寧ろ、冒険者チームとしては単独でも活動していけるレベルの力を持っている・・・・・・これは、俺も旅団の会計事務の仕事も一部やっているので財務状況はそれなりに把握しているからだ。


「この旅団にお金は要らないの、必要なのは鍛冶師の確保と安定した物資の補給と社会的信用――――――信用が無ければ商談すら出来ないからね」

「今回の件もあって、アイナが随分と商談を進めやすくなったって言ってたな」


 旅団の物資状況を管理するアイナ曰く、今回の件があった以前と以降では商談の進み具合が全然違うのだという。

 それこそ、定期的に仕入れなければいけない薬草類や食料等に対して、向こうから仕入れ枠を用意してくれるという特別待遇すらある。


「正直に言えば、卸売業者すら間に挟みたくないのだけど、そうしたら貴方やアイナの仕事量が尋常じゃない事になってしまうから、とりあえずは現状維持ね、出来れば来週には冒険者稼業も再開させたいわ」


 卸売業者といえば、生産業者と小売業者の間に存在する業者のことだ。彼らは王都やその周辺の村に住む生産者である農家と契約を結んでおり、常日頃から大量の物資を王都に運び込んでは小売業者に卸している。


 冒険者を統括するギルドも、モンスターの素材や薬草類を扱う卸売業者のような事もやっている。


 そして冒険者はギルドに素材を納品する生産者のような存在になる。


 冒険者ギルドの良いところは、冒険者として職業に就いていれば無条件で素材の売買といった取引に応じてくれるところである。


 しかし、その手数料はかなり高い。


 その為に一部冒険者チームの中には、ギルドの高い手数料を嫌って専属の商人を雇い、直接取り引き出来る様にしている所もあるらしい。


 基本的に商売は売るにしても買うにしても、それまでの過程に多くの商人が介していると利益が減ってしまうからだ。


 そして俺の役割は、旅団の専属商人となってギルドを介さずに素材の売却や必要な物資の仕入れを行ったりすること。


「しかし、これ以上規模を大きくするなら人手が足りないぞ?」


 所属する暁月の旅団は、俺以外、ほぼ全員が根っからの冒険者だ。


 冒険者の中には、一般人が行けない様な場所で希少な鉱石の採掘やダンジョンや魔素が充満している場所にしか群生しない薬草といった物を採取をしたりする冒険者も存在するが、旅団のメンバーは全員モンスター討伐を専門とするチームになる。


 モンスターの素材は物にもよるが、非常に高値で売ることが出来る。それこそファンタジー世界お馴染みのドラゴン種の素材であれば一攫千金だって夢じゃない。


 つまりは、一度の働きによって莫大な金額が動くのだ。


 しかしその分、発生する手数料は膨大な物になってしまうのだが・・・・・・


「人手が揃うまではギルドを通すしか無いでしょうね、アイナだって元は冒険者志望の子だし、人手が少ないからと言って裏方へ無理に回したくないわ」


 西王寺の理想は、冒険によって得た素材を手数料の高いギルドへ通さずに、俺を介して王都の小売業者に売ることだ。

 それに加え旅団で消費する物資をなるべく業者を介さずに安く仕入れる事。


 勿論、これらの行為に対してギルドはいい顔をしないが、西王寺曰く、規模の大きいチームは普通にやっていることらしい。


 ただし、そのレベルをやるには専属の商人(予定)である俺の経験は勿論、人手も足りていない。


 なので、今は人手を集めつつ、俺が商人としての経験を積むこと・・・・・・と結論が出て俺は執務室を後にした。

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