第32話 支援者
「・・・・・・貴方、一体何をしたの?王家とカスティアーノ侯爵家から私達を支援をしたい、という申込みがギルドの方から報告が来たのだけど・・・・・・」
レイ・カスティアーノとクリス・イレイサ・カインリーゼという王国でもトップに位置する二人と面会する特大イベントを終えた後、比較的平和な日常が戻ってきていた中、突如として団長である西王寺に呼ばれた。
なんだ?と思いながら、西王寺が居るチームハウスの執務室に出向いてみれば、執務室の奥に居た西王寺は若干疲れた表情を浮かべながら、手に持っていた書類を机に広げた。
西王寺が机に広げた書類は、この世界で重要な契約を行う際に使われる誓約の魔法が込められたもので、重要な契約を結ぶ際に使われる特殊な紙であり、少なくとも、一般人がおいそれと使うことが出来ないような大変高価な物からして、まず間違いなく旅団にとって重要な案件なのだろう。
西王寺と話をする前に、その書類に書かれていた内容を軽く流し見た。
「・・・・・・まぁ、色々とあってな」
西王寺から渡された紙には、この王国の第二王女であるクリス・イレイサ・カインリーゼ・・・・・・もとい、榊原の直筆サインが書かれた紙とカスティアーノ侯爵家の嫡子、レイ・カスティアーノの直筆サインが書かれた紙の二枚だった。
その書類の内容は、暁月の旅団の王都活動において様々な便宜を図るというもの。
簡単に言えば、旅団のスポンサーになりたいという要望書だった。
「今までと違ってこの王都で活動するには、少なからず何処かの陣営の影響下に入らないと行けないわ、だから今まで冒険者家業を休止していた訳なんだけど・・・・・・貴方のお陰でこれまでの計画が全てパーになったわ」
「・・・・・・邪魔したか?」
西王寺は広げた書類とは別の、机の横に置かれていた大量の紙の束を数枚掴んで放り投げる。
そこには西王寺の文字と思われる文章がびっしりと書かれており、彼女がどれだけ苦労してきたのかが分かる。
そんな西王寺の表情は、様々と複雑な感情が入り混じっており、何とも形容しがたいが一言で言うならば、取り越し苦労をしたと言った感じだろうか?
「いいえ、寧ろこれは正直に言えば大変ありがたいわ、幾ら他の場所で名を上げても、王都に来れば女ってだけで下に見られる事だってあるからね、実際に様々な商会や貴族に接触したけど、碌でもない人間しか居なかったわ」
「そんなものか」
「所詮、男なんてそんなものよ」
西王寺の愚痴からして、内心ではかなりストレスを溜めているのを感じた。
西王寺が言うには、旅団のような冒険者チームがこの王都で仕事をする為に相応の実力に加えて王都の有力者の支援を受けなければ満足に活動が出来ないという。
それは物資の調達や、装備類を修理する王都の鍛冶屋を確保したりとその幅は多岐にわたる。
地方の都市であれば、その都市を治める領主に話を通しておけば後はどうにでもなったそうだが、魑魅魍魎が跋扈する王都においてはそうも行かないらしい。
だからこそ西王寺は王都の有力者達に接触して、旅団のスポンサーとなる人物を探していたそうだ。
「まるで一昔前の日本みたいだな」
「男尊女卑、という観点ではコチラのほうが酷いわよ、特に平民で権力を持った王都の豪商とかはね」
西王寺が言うに、アスフィアルの世界では男が外に出て女は家を守るという思想が今も尚、そこら中に蔓延っているそうだ。
その傾向は、貴族よりも平民の方が強く、王都に到着してからこれまでの間に出会った人間の中には、女の冒険者チームというだけで軽んじられていたらしい。
「支援を受けたければ、私や団員を寄越せ・・・・・・容姿には自信があったけど、こんな直接的なお誘いは初めてだわ」
「・・・・・・随分とまぁ、恐れ知らずだな」
「本当よね、この私をここまでナメた真似をしたのはアイツが初めてよ?」
西王寺は、基本的にイケメンや美女が多いこの世界においても突出した容姿を誇っている。
漆の様な艶やかな黒髪は、茶や赤茶色の髪をした人間が多いアスフィアルの世界では大変目に映え、エラクトンの街で黒姫と言われていたように、彼女は大変美しい女性だ。
俺は西王寺のことを、赤の他人よりはずっと知っているため、俺の女になれ・・・・・・なんぞは口が裂けても言えないが、随分とまぁ恐れ知らずな商人が居たようだ。
あまりの失礼な対応に、その場に居合わせていた副団長であるラフィンが激昂してしまい、商談は無くなったという。
ラフィンは男嫌い、と聞いているけどこれは男嫌いじゃなくても怒って当然だろう。
「ちなみに、その人の名前は?」
「バーン商会の会長よ、アレックス・バーン、中年太りの気持ち悪い男だわ」
「アレックス・バーン・・・・・・貴族か?」
「いいえ、どうも金で困窮している騎士家を取り入って成り上がったらしいわね、本来は王都と地方都市を結ぶ輸送業をしているみたいよ」
名前に加えて家名もあるとすれば、もしや貴族かもしれないと思ったが、西王寺曰く、それは違うという。
バーン商会・・・・・・俺はその名前を深く心に刻み込み、今後王都で活動する際に注意する商会として覚えた。
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