第30話 王女の真実
(ロイヤルファミリーかよ!!)
レイの口から放たれた言葉に、俺は心のなかで叫んだ。
カインリーゼ、この国の名を背負う人物は両手の指で数えられるほど少ない。
それもそのはず。この名前を持つ人間はこの国の頂点に立つ一家の生まれであり、最も高貴な血であり、転生者や転移者を除けばこの国で最も魔法に富んだ一族でもある。
アスフィアルの世界において、転生者や転移者を除けば基本的に王族>貴族>騎士>平民といった順で魔法的素質があると言われている。
勿論、平民でもキャミルの様に魔力を持ち行使できる力を持つ人間も居るが、元を辿ればどこかで貴族の血が入っていたりするので、魔法の素質は基本的に遺伝すると言われている。
なのでこの世界で力を持つ人間たちは、第一に結婚相手を魔力量で選ぶと言われている。勿論、相手の顔立ちや立ちふるまい、知性の部分も重要な要素にはなるが、極論言えば膨大な魔力を持っていて、子作りが出来るのであればそれで充分らしい。
そうやって血を洗練させていった貴族たちは、才能ある平民が一代では覆せないほどの力を持つに至った。俺の隣で放心状態になっているキャミルが異常に畏まるのもこういう背景があるのだと思う。
カインリーゼ王国に所属する貴族は100以上存在しており、それに連なる騎士家は500を超える。
そしてその大半が男爵や子爵と言った下級貴族であり、貴族の間でも爵位の高さよって魔法的素質に明確な差があった。
「クリスの父はカスティアーノ家に連なる家の出身なんだ。そしてクリスの父はカスティアーノ家当主と同じぐらい魔力量が豊富でね、そのまま王族に召し上げられ王家の人と結婚したんだよ」
なので、クリスは立場上、本流からは外れる傍系王族の王女様になるらしい。
「でもね、クリスは長い歴史の中でも珍しい、王族出身者の覚醒者でもあるんだ。その魔力量は歴代の王達も凌駕しているんだ」
「覚醒者ですか・・・・・・」
「君たち平民にも居るでしょ?血筋に関係なく膨大な魔力を持つ人間が・・・・・・例えば――――君みたいに」
その言葉を皮切りに、俺を見る圧が一気に重たくなった。
その理由は、先程から睨んでいるクリスに加えて、もう片方のレイも警戒した様子でこちらを見たからだろう。
「ゼイン教の連中は覚醒者達の事を、創造神から選ばれた神子と言うけど、実際はどうなんだろうってね・・・・・・覚醒者と呼ばれる人間は等しく外れた感性を持つから、今回無理を言ってクリスと会わせたかったんだ」
(そりゃ元は地球人だから感性が外れているのも納得だけど・・・・・・)
今回、レイがクリスを連れてきたのは偶然ではなく必然だったと言う訳だ。血の影響を受けない覚醒者は全員が漏れなく変人や奇人が多いのだという。
それはそうだと、レイの話を聞いて思った。これまで集めた情報からしてこの世界へやって来た転生者や転移者は同じ地球人ではあるものの、全員が日本人だとは限らない。
もし、レイの言う覚醒者が転生者や転移者だった場合、この応接室に居るクリス・イレイサ・カインリーゼも元は地球人だということになる。
(・・・・・・覚醒者、ということは俺と同じ転生者か?)
クリスが事前に、レイから覚醒者の話を聞いていたとすれば、俺が元地球人だということを知っていたという事になる。
であれば、初めて顔を合わせた時から睨まれていた理由も腑に落ちた。
(・・・・・・どうするんだ王女様?)
今回、俺をこの場まで呼んだ理由はまず間違いなく、この覚醒者について聞きていのだろうと、話の端々から分かった。
だからといって、バカ正直に話すとなるのは難しい、これは俺だけの問題じゃなく、同じ部屋に居る王女様も関係してくるからだった。
そして俺は平民であり、相手は貴族様だ。この場において俺が黙秘するというのは難しく、同郷の人間だと思われるクリス王女に視線を合わせた。
「・・・・・・レイ、覚醒者だからといって特別な存在じゃないよ、ほら言われもない疑いを掛けられて困っているじゃないか」
「・・・・・・」
俺の救難信号をちゃんと理解したのか、王女は軽く息を吐くと宥めるようにレイを諭し始めた。
「だけど」
「だからといって、君に何が影響するんだ?覚醒者なんて数も少ないし、強くても精々子爵レベルだ」
まだ引き下がろうとしないレイに対して、クリス王女は毅然としてその言葉を切った。
その言葉は、これ以上問いただすことを禁ずるという上位者の言葉だ。
その光景を見た俺は、毅然とした態度で接するクリス王女が、正しくこの国の頂点に立つに相応しい人物だと感じた。
クリス王女の毅然とした態度で部屋の雰囲気がガラリと変わったところで、その後の話は無難に進んだ。
その内容は、俺が当初予想していた通りに露店祭や今回持参したようなお菓子を定期的に仕入れたい・・・・・・というもの。その見返りにレイ・カスティアーノは俺や旅団を支援するという話であり、この件に関してはリーダーである西王寺の採決待ちという形に落ち着いた。
その際に驚いたのはレイの雰囲気だろうか、自分が一番聞きたかった話を上の存在から押さえつけられるというのは、貴族としてプライドが許さない物だと思う。
しかもそれが12、13歳ぐらいの子供なら少しぐらい表情に出ていても仕方のない事だと思うが、本人はこれら表情をおくびにも出さない様子で綺麗に話題を変えて見せたのだ。
そんな形で、最大の危機を乗り越えた俺は無難に話を纏めて今回はお開きとなった。
(・・・・・・今後、レイとサシで会うと不味そうだな)
レイが先んじて退室すると、その連れの人達も一斉に退室した。
一方で使い物にならなかったキャミルは外で空気を吸ってくる。とか細い声で伝えると、そのままフラフラした様子で部屋を出ていった。
「・・・・・・すまない、少し良いかな?」
「はい、私も王女様と少し話してみたかったもので」
そうして出来上がったのは、俺とクリス王女の2人だけの空間だった。彼女はレイと違って護衛の人間が居ないようなので、本題へ入ることが出来た。
「・・・・・・その前に、君の前髪をこう、少し乱暴にかきあげてて貰って貰っていいかな?」
「?・・・・・・はい、いいですよ?」
西王寺以外で初めた出会った同郷の者、少し緊張しながら話始めようとすると、先んじて口を出したのはクリス王女の方だった。
その言葉は何処か震えた様子だった。しかも内容が前髪を乱暴にかきあげて欲しいという、なんとも不思議なお願いだった。
とりあえず断る理由もないので、俺は右手で前髪をかきあげて見せる。
そうすると・・・・・・
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ワ ン ス テ の 白 馬 ぐ ん だ゛ぁ゛か゛っ゛こ゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛」
クリス王女は一瞬の膠着を見せた後、その凛とした見た目から想像できないような大変汚らしい叫び声が、2人だけしか居ない応接室に響き渡った。
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