第28話 面会

「カスティアーノ侯爵家は代々、大鷲寮っていう学生寮に入寮するのが習わしって言われている。だからレイ・カスティアーノ様も大鷲寮に居るはずよ」

「大鷲寮・・・・・・、あともう少しだな」

「ねぇ、やっぱり帰らない?アレンはまだしも、私が魔法御三家の貴族様に面会したら不敬罪で捕まっちゃうよ」


 御三家って・・・・・・まるでポ◯モンみたいだな、と内心で思ってしまうが、キャミルのような一般魔法使いにとって、カスティアーノ侯爵家のような魔法貴族御三家と呼ばれる人達は畏怖の対象になるらしい。


「侯爵家の嫡子様なんて、普通はありえないでしょ・・・・・・そこは騎士とか没落寸前の男爵家程度の人が妥当じゃない?」


 ブツブツと、何やら俺に対してもこの国の貴族に対しても失礼な事を呟いているキャミルを横目に、その大鷲寮なる場所を目指して歩く。


 大鷲寮はエンファイブ魔法学園の正門からぐるりと回って、丁度反対側の裏門周辺にあるみたいだ。


 エンファイブ魔法学園では、獅子寮、水蛇寮、大鷲寮、砕熊寮の4つが存在し、それぞれに王家と魔法貴族御三家が分かれて入寮するのが習わしなのだという。







 大鷲寮は赤みがかった獅子寮と違い、深緑の建物となっており門の前には濃い緑に黄色の大鷲の絵が描かれている。

 学生寮を行き交う生徒たちを横目に、大鷲寮の門をくぐり抜けて寮の敷地へと入る。


 大鷲寮のロビーは、高級ホテル顔負けの内装をしていた。素人目でも分かる高級な調度品の数々に、玄関を入った正面受付には専属のコンシェルジュが待機している。


「すみません、この寮に所属しているレイ・カスティアーノ様に面会をしたいのですが」

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「アレン、といいます。隣は付き添いの人間です」


 一階ロビーに待機しているコンシェルジュに話を伺うと、名前を聞かれたので素直に答える。


「はい、レイ様からアレン様がお越しになられた場合、第二応接室へお連れするよう承っております。どうぞこちらへ」


 コンシェルジュの男性は受付窓口から出ると、どうぞこちらへと正面入口から見て左側の通路へと案内をしてくれた。


 通路には多くの使用人が清掃をしていたりするものの、この寮に住む学生たちは見当たらない。


「あと半刻もすれば、レイ様もこの寮へ戻られるかと思います。それまではこのお部屋でお待ちいただくようにお願いします」

「わかりました」


 今は授業も終わり、帰宅する時間帯なのだという。


 応接室に備え付けられた時計を見れば、丁度時間は16時をすぎる頃だった。


「・・・・・・大丈夫か?」

「・・・・・・・・・・・・心配してくれてありがとう、悲しいけど大丈夫じゃないわ」


 ガチャリとコンシェルジュが応接間を退室してドアが閉まった後、それまで無言のままのキャミルの様子を伺う。

 どうも彼女は緊張で顔の血の気が引いており、気分が悪そうだった。


 それでも何とか取り繕うとする彼女の姿を見て、少し申し訳ない気持ちになった。






 俺とキャミルの2人は、何処か息苦しい緊張感の中でカチリカチリと秒針が時を刻む音を聞きながら応接室でレイ・カスティアーノの帰宅を待っていた。


 既に周囲では、大鷲寮へ帰ってきた学生たちの声が部屋の外から聴こえてくるので、面会の時もそう遠くは無いのだろう・・・・・・そう考えた瞬間だった。


 ガチャリ


「やぁ、露店祭の時以来だね」


 最初に扉を開けたのは、レイ本人ではなく、彼の付き添いの人だった。


 そこ続くように部屋に堂々と入ってくるのは、淡い金色の髪が特徴的な少年、レイ・カスティアーノ本人だった。


「はい、今回はこの様な場にお呼びいただき、誠にありがとうございます」

「・・・・・・」


 座っていたソファーから腰を上げ、入室したレイに対して会釈する。

 その横で座っていたキャミルも無言ではあるものの、俺と同じようにタイミングを合わせて会釈をした。


「いいよいいよ、今回は僕から呼んだんだからさ」


 小さく手を振って、気にしなくて良いと答える。


 軽く挨拶をしている間にも、応接室には続々と人が入ってくる。最初は以前露店祭の時にも居た護衛の人達、そして後から入ってきたのはレイと同い年ぐらいの学生だった。


「・・・・・・この人達は?」

「僕の友達、かな?」


 疑問符を付けて、コテンと首を傾げるながら答えるレイに対して、俺はなんだそりゃと内心でツッコむものの、部屋に入ってきたもう一人の学生は何処か不機嫌な様子だった。


「この私を呼んだからには、それなりの理由があるのだろうな?」


 大貴族の嫡子であるレイに対して、対等に・・・・・・いや、第三者から見ればレイを下に見ながら話し出すのは、何処か鋭さを感じる少女。


 髪はキャミルと同じ水色ではあるものの、今レイと話している少女は氷の様な白っぽい色合いをしている。そんな氷のような髪色に切れ長の目や言動も相まって、何処か厳しそうな雰囲気を漂わせていた。


「そんなに怒らないでよクリス・・・・・・この人なら君の願いを叶えてくれるかもしれないんだよ?」

「・・・・・・何?」


 レイの意味深な発言で、クリスと呼ばれた少女の目はより一層鋭さを増す。下手すればその目だけで人を殺せるんじゃないかという迫力があり、決して15歳そこらの少女が放つオーラではなかった。



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