第26話 王都学区
王都ラインブルクの北地区は、将来有望な若者たちが集う学区となっている。大学の様な巨大な学び舎が幾つも集まり、これら教育機関の他にもカインリーゼが誇る天才たちが集まる国営の研究施設も多数存在する。
都市の一地区ではあるが、その大きさや経済規模はエラクトンの街を軽く凌駕しており、周囲は巨大な用水路に囲まれている事もあって、王都の中にありながら一つの街を形成していた。
「・・・・・・すげーな、ファンタジー世界」
「ん?なんか言った?」
俺は晶さんお勧めのフルーツタルトを予約していた店で受け取った俺は、そのままムーンゲートが置いてある家に帰り、世界を渡って王都ラインブルクの北地区までやってきていた。
同行者はこの北地区の敷地内にある学園の卒業者でもあるキャミルとの2人で来ている。
「王都だと北地区が一番面積が広いからねー、それでも敷地が足りないから研究用の薬草とかは王都の外で栽培してるんだよ」
「これだけデカいのに足りないのか」
王都北地区は、隣合わせの東地区と西地区との間に巨大な用水路が存在し自由に行き来が出来ないように隔てられている。
用水路を通る小舟は多いが、北地区側は高い石壁で阻まれており登ることは出来ない、外から様子は見ることは出来ても用水路を渡って対岸へと向かうのは至難の業だ。
そんな北地区へ入るための場所は計4つ、一つは中央区から伸びている大通りに設置されている巨大な関所が一つ、そして東地区と西地区から繋げられている2つの橋に設置されている関所の2つ。
そして王都の外から入るための門を加えて計4つなる。
「大通り側の関所は学園に物資を搬送する商人とかが使うから、一般の人は東西のどちらかの関所を使うんだよ」
東西の関所に架けられている橋は、昔テレビで見たことのあるヨーロッパの名所の一つであるリアルト橋のように、美しい景観も兼ね備えた物となっていた。
俺とキャミルが居る場所は西地区側の関所であり、数十分待った後に手荷物検査を受けていた。
「エンファイブとライオサールのプロミカメダルだね・・・・・・うん、通っていいよ」
俺もキャミルも手に持っている荷物は少ないので、検査自体はそれほど時間が掛からなかった。
最初は手に持っていたフルーツタルトの菓子折りを不審がられたものの、エンファイブの銀のプロミカメダルに加えて、カスティアーノ家の刻印が入った中央区のプロミカメダルを見せたら一発で納得してもらえた。
流石、貴族の権力といったところか。
橋を渡り、北地区へ入ってみれば、そこは緑あふれる空間だった。
すし詰め状態の様に建造物が乱立する他の地区と違い、北地区には等間隔に丁寧に手入れされた街路樹が設置され、道脇の地面には芝生も生えており、学生と思われる人が寝転がって眠っていた。
本当にここは王都の中なのか?と一瞬思ってしまったが、自然が上手く調和された街の景色を見て、俺の隣を歩いていたキャミルが懐かしいなー、と言葉を呟いていたことから間違いなく、今俺が居る場所は学区と呼ばれる場所らしい。
綺麗に整備された道を歩きながら、この学区についてよく知っているキャミルの話を聞く。
「あれはサンドリーク大聖堂だね、王都では唯一の宗教系の学校だよ」
「宗教の学校って何を学ぶんだ?」
西地区側から北地区へ入り、少し歩いたところでキャミルが指を差した場所にはサンドリーク大聖堂と呼ばれる巨大な建造物が姿を現した。
大聖堂、というだけあって、まるで城のような建物はゴシック様式の彫の細かい見るだけで絵になるような、壮観な巨大建造物となっている。
立地も周囲を見渡せるような標高が高い場所に存在するので、その迫力は遠目から見てもはっきりとわかる。
「目的は人それぞれだけど、教義については当たり前として、医術とか神聖魔法とかかな?治癒魔法とかも適正はあっても修行しないと使えないしね」
「へぇ」
「中には医術や神聖魔法を覚えたいからって入学する人も居るね、その場合は高い入学費用が必要なんだけど、卒業出来れば就職先には困らないし」
前者であれば入学に必要な費用は無い物の、卒業後はサンドリーク学校の母体である
ハマ多神教の神官として働かなければならないらしい。
逆に後者であれば、一般的な魔法学校よりも割高な入学金と授業料を支払って医術や神聖魔法を学ぶことが出来るそうだ。
「神聖魔法使いならウチの旅団にもいるよ?ナナとかはここじゃないけど、宗教学校の出身だったはずだし」
「ナナって、紫髪の人か」
「そう、神聖魔法と治癒魔法を覚えた冒険者なんてすっごい希少なの、他の冒険者チームや貴族からの誘いは沢山あるから油断ならないんだよー」
そりゃ、希少なヒーラーとなれば何処も欲しがるだろうな……俺の記憶ではナナという女性は何処かおっとりとした雰囲気を漂わせる大人な女性、というイメージではあるが中々に有名な冒険者らしい。
「それで、キャミルが卒業した学校ってどんな感じだったんだ?」
「ライオサール魔法学校のこと?別に特徴のない低級魔法学校だよ?」
「低級?魔法学校には上級とか低級とかあるのか?」
「うん、私が卒業したライオサール魔法学校は市民向けの魔法学校で、主に冒険者や地方都市の魔法兵として就職先があるような学校、逆にアレンが持っているエンファイブ魔法学園は上級魔法の学校だね」
キャミルがいうに、低級魔法学校は一般市民向けに用意された魔法学校だという、入学金や授業料も一市民が払える程度には安く、15歳から3年間程学ぶそうだ。
そして就職先は主に冒険者や地方都市の魔法兵として就職することが多いという、実際にキャミルはこのライオサール魔法学校を卒業した後は冒険者になっている。
「エンファイブ魔法学園は、一部の超天才や貴族の子供たちが学ぶ場所だね、上級魔法学校は基本的に小さいころから魔法を学ぶんだよ」
逆に、エンファイブ魔法学園ような上級魔法学校は、将来は軍のエリートだったり貴族に雇われたりとかが多いそうだ。あとは貴族の子供たちがいっぱい集まるので社交場としての役目もあるらしい。
「国のエリート達の為の学校、というわけか……」
「一言で言えばそうだね~」
俺が今、手に持っているエンファイブのプロミカメダルも元の持ち主はこの国の侯爵家の嫡子であれば、キャミルの説明にも納得がいく。
「ライオサールのプロミカは王都でも持っている人は結構多いけど、エンファイブのプロミカはかなり少ないんだよ?どうやって入手したの、本当にさ」
「そりゃあ・・・・・・」
店に侯爵家の跡取りがやって来た・・・・・・なんて説明してもキャミルは信じてくれるのだろうか?
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