第23話 トレカの魅力

 はむっ、と小さな口でチョコレートを頬張った貴族の子供であるレイは、もぐもぐと口の中を動かすと、チョコレートの甘味と香りを堪能している様子だった。


 レイの様子を見守る周囲の護衛役の人達は、心配そうに見守っているものの、とりあえず問題が無いことに少しホッとした様子だった。


「凄いねコレ!」

「お気に召されたのなら幸いです」


 未だ口の中に残っているチョコレートが溶け切っていないのか、少し聞き取りづらいながらもチョコレートの感想を述べてくるレイ少年。


「レイ様、食べ物を口に入れたまま喋るののはお行儀が悪いですよ」


 よほど気に入ったのか、何処か興奮気味のレイに対して少し小言を喋る護衛役の人達、その一部始終を見て13番エリアに居た他の人達が何事だと周囲に集まってきた。


(うん、やっぱりこの世界でも通用するよな、地球産のお菓子は)


 お菓子といっても、洋菓子から和菓子といったように千差万別、津々浦々に存在するので、時間があれば全国各地を回って集めて良いかもしれない。


「君、これ一箱幾らかな?」

「チョコレートが8個入りで一箱3万ゴルドで販売しております」


 軽く頭を下げて、試食に出したチョコレートの料金を伝える。日本であれば5000円ぐらいの高級な部類のチョコレートだ。


 本当であればもっと高いやつもあるのだが、今回は様子見と言う形で店でも一番人気な商品を取り寄せてある。


「これで3万ゴルドか、随分と安いね」

「今回はチョコレートという菓子の名を広めるために特別価格、という形にさせて貰っています」

「そうなの?じゃあ全部買いたい、父上や母上、姉さまや他にも知り合いにも渡したいしね」


 レイはそう言うと、そばに控えていた護衛役の男を見て支払うように促す。


「・・・・・・随分と支払ったお金が多いようですが大丈夫ですか?」

「いいよ気にしないで、これは驚かせてもらった分だからね」


 護衛役の男から渡された小袋には、合計で50万ゴルドほど入っていた。


 今回用意したチョコレートが全部で10箱なので、総額でも30万ゴルドで充分なのだが、レイは即金で50万ゴルドも出すという。


(すげー金銭感覚だな、流石お貴族様というべきか?)


 どうも最初に食べたチョコレートで他の商品にも興味を示したようで、露店に飾られている様々な商品を見ては説明を求めてくる。


 その姿はまさに子供らしい、純粋な好奇心だ。そして彼は将来の太客となる可能性もあるので俺は一つ一つ丁寧に商品の説明をしていった。





「それで、この紙袋は?」


 流石貴族パワーというべきか、一つ一つ説明していった商品を片っ端から購入しており、支払ったお金は既に100万を超えている。


 このアスフィアルの世界でも、共通通貨であるゴルドは日本の通貨である円と同じぐらいの紙幣価値を持つ。


 例えば、一番エリアで売られている豚串は一串700ゴルド、縁日といったお祭りの特別価格としては日本と同じぐらいの値段であり、元日本人としては大変わかりやすい価値観だ。


 なので日本人の感覚で言えば、まだ中学生ぐらいの少年がイベントで出店していた少し高級な店で100万円をポンと使ったイメージに近い。


「これはトレカという商品です。この紙袋にはランダムで五枚のカードが封入されております。こちらのトレカはカードを40枚以上を用意して対戦するカードゲームになります。ルールの詳細はこちらの本に・・・・・・」

「うん、それも全部買おう」

「・・・・・・そうですか、ご購入ありがとうございます」


 カードゲームといえば、この世界にもトランプがあるのは既に把握している。


 トランプはこの世界に飛ばされた地球人の誰かが流行らせたと思うが、そのおかげもあってカードゲームに対する概念の下地が存在しているのでM◯Gについて伝えやすくて助かった。


 といいつつも、俺はトレカ自体にそこまで詳しくないので、カードパックとは別に公式のルールブックを置いてある。


 幾ら下地があるとはいえ、トレーディングカードゲームというのは結構複雑なシステムをしている。


 M◯Gでいえば、様々な特徴を持つ各色のマジックに加えてマナコストの概念やカードそれぞれに存在する能力に世界観や設定に合わせた豊富なテキスト。


 同種のカードであっても、イラスト違いやレア度の違いなど沢山ある。


 正直に言えば、俺も販売者としてある程度ルールに目を通したとは言えど、全てを覚えることは出来なかった。だからこそのルールブックを販売している訳なんだけど、こうも疑われずに即決で購入されるのも複雑な気分だ。


「へぇ、美しい絵柄だね」


 ランダムに封入されている5つのカード、早速購入したカードパックを開封して中に入っていたカードを流し見る。


「・・・・・・コレほどの絵が描かれたカードが五枚で3000ゴルドとは」

「これも特別価格というやつか?これなら記念に一袋買っても良いかもしれないな」


 取り出されたカードを見て、レイの他にも周囲を囲んでいる護衛役の男たちも感嘆とした様子で見ていた。


(まぁそうだよね、元の世界なら絶対売れないけど)


 1パック3000円、絶版でもなんでもない普通に市販されているやつであれば高すぎて逆に話題になるレベルだ。しかし、この世界では物の価値が根本的に違ってくる。


 比較的、食べ物系は日本と同じぐらいの価値ではある。むしろ食品関係に至ってはアスフィアルの世界のほうが安いまであった。


 他にも金や銀といった貴金属もこちらの世界の方が安かったりするものの、一方で本や絵画といった物は天井知らずに高騰する場合が多い。


 そうと考えれば、美しい絵が描かれているトレカはこの世界に価値観に照らし合わせてみれば格安なのかもしれない・・・・・・


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