第22話 カスティアーノ侯爵家

『もしかして、あの方は・・・・・・』


 太陽も随分と傾き、そろそろリュカ達がやって来る頃だろうと考えていた所、昼間よりも賑わっていた西大通り13番エリアの会場が静寂に包まれた。


 その代わり、ヒソヒソと隣同士でしか聞こえないような小声でこの13番エリアへやってきた一団に目を向けて話し合っている。


 何処となく、露店を構えている商人たちも緊張の面持ちでその一団を見ており、中には態々露店から離れて出迎えようとする商人も居るぐらいだ。


(・・・・・・あれはただの一般市民じゃないな)


 モーゼが敵軍から民を逃がすために海を割ったように、多くの人が訪れていた混雑していた大通りにも人の波が割れて一本の道が出来ている。

 何事かと思い店から乗り出すように見てみれば、周囲には武装した男たちが集まっており、その中心には淡い金髪の小さな子供が周囲を興味深そうに眺めながら悠々と歩いていた。


『あの方はカスティアーノ侯爵の嫡子じゃないか?何故こんな場所に・・・・・・』

『お忍びで見学に来たってところだろう、丁度この時間帯は北地区の露店祭も終わる頃だからな』


 俺の隣に店を構える商人が、知り合いと思われる人と話し合う声が丁度聞こえてきた。


 カスティアーノ侯爵、その名は知らないが侯爵ともなれば大貴族と呼べる程、位が高い家格だ。

 お忍びというには、少々警護が多すぎやしないかとも思うが、貴族の嫡男が一般向けの露店通りにやって来ると考えれば妥当かな?


『おい、周りの店を見始めたぞ!!』


 ザワザワと周囲も騒がしくなりながらも、その嫡子は気にも留めずに13番エリアの先頭にある店から順番に見学をし始めた。


 その光景は、中心人物であるカスティアーノ侯爵家の嫡子が露店の正面に立って気になる品物を見ながら、周囲の完全武装した護衛達が囲むといったものだ。


 はたから見れば、まるで恫喝現場にも見えなくは無いが商人たちは一生懸命に今回持ってきた商品を説明していた。






「うん、ここはどんな露店かな?」


 西大通りの13番エリアは、一直線に伸びる大通りが北地区と南地区へ向かう事が出来る十字路になっており、中央には大きな噴水が設置されて周囲が円形になっている。


 なので13番エリアの露店は、中央の噴水を囲うように円状に露店が並んでおり、カスティアーノ侯爵の一団はぐるりと一周する形で露店を見学していた。


「この露店では、この世で最も珍しい品々を集め持ってきました。菓子から遊戯などを中心に扱っております」


 カスティアーノ侯爵家の嫡子は、淡い金髪に乳白色の肌を持った美少年だった。

 その顔立ちは非常に整っており、男の子とも女の子とも見て取れる中性的な顔立ちをしている。


 服装は、貴族の子供らしく普段では見かけることのない上等な衣装を身に纏っている。ただ成金で成り上がった人間のように貴金属や宝石を散りばめた様な下品な類のものではない。


 年齢は12、3歳ほどだろうか?日本であれば中学生ぐらいだと思うが、その佇まいはどこか大人びた落ち着きがある。


「へぇ、菓子を扱っているのか」

「はい、チョコレートという香りの強い甘い菓子でございます。ご試食なされますか?」


 やはり貴族ということもあってか、最初に反応したのはお菓子の類だった。


「レイ様、庶民の店で食すのは当主様が・・・・・・」

「今更でしょ?お父上から何か言われたら僕が説明するから大丈夫だよ」


 俺が試食するか聞いてみたところ、カスティアーノ侯爵家の嫡子であレイは強い興味を惹いたようだ。


 一方で護衛役の人達は難色を示していた。なんなら試食をするかと聞いた俺に対して、なんてことをしてくれたんだと言わんばかりに睨んでいる者もいる。


「これは何ていう菓子かな?」

「これはチョコレートと言います。カカオという豆を砕き、砂糖やバニラを混ぜて固めたお菓子になっております」


 俺が今回試食として出したのは、この前売りに出そうと思っていた安価なやつではなく、銀座で買った高級なチョコレートだ。


 以前と比べて随分とお金にも余裕があるし、用意できるのなら最高な物をと持ってきたんだけど、早速使い道が来るとは思いもしなかった。


「包み紙を持って―――はい、そうやって食べます」


 まずは毒見役として、チョコレートが入った箱から適当に選んで俺が先に試食用に出すチョコレートを食べる。


 ・・・・・・うん、やはり美味い。一箱数千円もするブランド物の高級品なだけあって普段では味わえない様な甘さがある。

 一応、アルコールの入っていないタイプなんだけど、随分と香りが強いが大丈夫かな?


「じゃあいただくね?」


 そう言うと、レイはチョコレートが包まれた包装紙を掴みながら頬張った。





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