第21話 初めての商売
アスフィアルの世界であっても、日本と同じように特別な日には昼間に催し物の開催を知らせる昼花火―――――いわゆる号砲や段雷と呼ばれる音花火を打ち上げる。
パパン!と空に破裂音が鳴り響き、白い煙が漂う。これによって朝早くから王都露店祭は開催され、多くの人達が各地から集められた珍品を探して各方面の大通りを訪れる。
「らっしゃい!ウチはイリオネから輸入した高品質な鉱物アクセサリーを売っているよ!!」
初めて俺が参加する王都露店祭は、快晴にも恵まれて早朝の時間帯から多くの人達が訪れている。
普段であれば、何処となく物静かな西地区であってもガヤガヤと喧騒としており、まさに祭りと呼ぶに相応しい盛況さを生み出していた。
(やっぱり、中央区寄りともなればやって来る顧客も上流階級の人達が多いな・・・・・・)
俺が出店した13番エリアは、やはり中央区から近いということもあって周囲に建ち並ぶ露店も相応に高品質な商品を置いているところが多かった。
それに合わせて13番エリアまで訪れるお客も相応の綺麗な身なりをしていた。流石に中央区に住む様な天上人ではないにしてもかなりの裕福層がやって来ているようだ。
ただ逆を言えば、露店であっても相応の格が無ければ見向きもされないということ、あと単純に1番エリアとかに比べて客数自体も少ないので、この場に置いて俺は数少ないチャンスを必ずモノにしなければならない。
(露店祭は夕方や夜が本番だと言っていたけど、この時間帯でも結構多いな、いや、これが王都の普通なのか?)
俺が出店した露店は、まるで縁日に出されるような露店と似たようなタイプであり、正面に目を引きそうな商品を並べ、細々とした物を両脇の壁から覆うように並べている。
といいつつも、今回持ってきたのは以前エラクトンの街で販売を断念したチョコレート菓子や駄菓子類といった消費物が多い、一応念のためにゆめ恋のような書籍系の商品も持ってきて入るが、これに関しては客を選ぼうと思っている。
(一応、TCGとかも持ってきたけど売れるかなこれ?)
書籍類は物が嵩張るのであまり売れて欲しくないというのが本音だ。
逆に今回興味本位で持ってきたのが、トレーディングカードゲームと呼ばれる対戦用のカードゲームである。
このアスフィアルの世界では、俺や西王寺の様に転生者・転移者が数多く存在するので、チェスやトランプといった様な物は既に存在する。
酒、ギャンブル、風俗といった芸術の欠片もない一般市民と違い、チェスの様なボードゲームやトランプと言ったカードゲームは上流階級の間では広く浸透しているようで、結構認知度は高いように感じた。
なので、今回俺はM◯Gというアメリカ人の数学者が開発したトレーディングカードゲームの元祖と呼べる物を持ってきた。
手間はかかったが、態々袋から開封してお年玉袋の様にパックを作成し、すぐに対戦出来るように解説書とスターターも用意してある。
何故M◯Gを選んだかと言えば、なんとなくこの世界に合いそうだったからだ。ぶっちゃけ言えば俺はこの類の遊びをしたことがないが、運搬も楽だし、もしも流行れば大儲け出来るだろうと思ったので興味本位で持ってきただけだ。購入者達からの反応が良ければ、遊◯王やデュ◯マといった日本でもお馴染みのトレーディングカードゲームも用意してみたいと思っている。
ちなみに、一パック3000ゴルドだ。スターターに至っては3万ゴルドもする価格設定になっている。我ながら結構ふっかけていると思うが、絵の価値からしてまだ安い部類なのでは?と考えていた。
「売れんなー」
王都露店祭が始まってから数時間、丁度お昼時になった時間帯だが、俺の店は閑古鳥が鳴く程閑散としていた。
一応、チョコレート系のお菓子は幾つか売れたものの、ここへ来る客はその場で食べるような人達ではないので反応が見られないのが少し残念。
売り出す商品があまりにも奇抜すぎたのか、物珍しさよりも不気味さが勝ってしまい、店へと近寄ってないように感じた。
(まぁ、露店祭は週一で開催されるし、次は中エリア辺りに出店してみようかな?)
一番活発になるのが夕方からとはいえ、昼までの間に両手で数えられる程の人数しか来ないのは少々マズい。
他の店を見ても大行列という程ではないが、常に人がチラホラと商品を物色しているレベルなので、どれだけ俺の露店に人が寄り付かないかが分かる。
(まぁ、素人がいきなり商売始めても上手くいかないわな・・・・・・)
商品の質や希少さだけでいえば、王都どころかアスフィアル世界でもトップクラスだと自負している。
世界に誇るメイド・イン・ジャパンともなれば幾らファンタジーな世界とは言え、中世ヨーロッパの文明レベルであれば勝負にすらならないだろう。
本音としてはもう店を畳んで他を見学したい気分ではあるが、夕方頃にはリュカ達が来る予定となっている。
(仕方ないか、とりあえず売れ残ったらリュカ達にプレゼントすればいいし)
俺はそう考えながら、午後の部に臨むことにした。
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