第20話 王都露店祭

「よし、準備完了っと」


 龍幻会長から様々な支援を受けることになった俺は、当初の目的である大金持ちになるというのを半ば達成したことになる。


 都心の一等地に住居があり、月に数百万と自由に使えるお金があるというのは、一般家庭で生まれてきた俺の価値観からすれば立派な金持ちだと言える。


 しかし、このお金は他者から与えられたお金なので楽観視は出来ない、俺の目的はお金持ちになることだが、そこにはしっかりと自らの力で稼げるような土台が必要となってくる。


 出来ることならば自分で店を持って自らの力で大金を稼ぎ、老後はお手伝いの人を雇って楽隠居出来ればそれが最上だと思っている。


 だからこそ、日本で安定した環境を得たからと言ってアスフィアルの世界を疎かにするということは出来ない、西王寺の依頼をこなしているだけでは前には進めないのだ。


「アレンー?、この前言っていた露店の許可書届いてるよー」


 一階のロビーから、リュカの声が聞こえてきた。


「はいコレ」

「ありがとう」


 王都へ来てから一週間が経過した。エラクトンの街と違い、カインリーゼ王国の王都ラインブルクは毎日のように外から人が訪れて来るので、常に人で溢れており夜間であってもそれなりの人々が大通りを出歩いている。


 引っ越し作業が終わった今では、昼時になれば多くの団員達がチームハウスを出て各々が自由に活動をしている。

 しかし、まだ冒険者としての活動は先になるだろう、というのがチームの長である西王寺の言葉だ。


 ただそれでも王都周辺で狩りを行ったり、訓練をやったりする団員は多い。


 なので、王都へやって来た頃は多くの団員達が屯していたチームハウスの一階ロビーも、今では閑散としているのでとても静かだ。


 その殆どの団員がチームハウスを離れて外出しているものの、だからといって全員が居なくなる訳ではなく、チームハウスには常に数人が駐在している。これは単純に警備の為であり、王都へ向かう際に一緒に不寝番をしていたリュカが今日の警備係としてロビー受付で暇そうにしていた。


「西大通りの13-2番って、ほぼほぼ貴族街の隣じゃん、逆にやりにくくない?」

「いや、ここで良いんだよ、今回露店に持っていく商品も貴族向けに集めたものが多いしね」


 王都では週に一度、日本で言えば日曜日にあたる休日に、王都に広がる東西南北に一直線に伸びた大通りを使った大規模な露店祭が行われる。


 馬車を含めた多くの人々が行き交うので、王都の大通りは道幅がかなり広く、普段であれば店を構える商会が商いをしているものの、この露店祭の時に限っては、他からやって来た行商人達が大通りを使って露店を開く事が可能となっており、この露店祭を目的として古今東西、遠路遥々やって来た行商人達が珍しい品を持ってくるのだ。


 普通の街であれば、この露店祭は年に数回規模の大きいなイベントではあるものの、人口の多い王都では毎週行われるというから王都の繁栄が伺い知れる。


「私も王都の露店祭は初めてだから、明日みんなとアレンの露店に寄ってみるよ」

「ありがとう、その際にはリュカ達がずっと楽しみにしていたゆめ恋の続刊も用意しておこう」

「本当!?絶対行くからね!!」


 そして俺はこの王都露店祭に店を出すために、事前に申請書を提出していたので、ちゃんと申請が通った事にホッと胸をなでおろした。






 王都には大きく分けて、5つの区画が存在し、その区画ごとに大きな特徴が存在する。

 例えば、暁月の旅団のチームハウスがある南地区は、冒険者達が集まる地区となっており、他に比べて工房や宿屋が多く常に活気にあふれている場所だ。


 南地区はその特性から、外部からも多くの人間が常にやってくるので治安も一番悪い・・・・・・が、ある意味一番活発的な場所だとも言える。


 そして俺が今回、露店を出せる場所は西大通りの13-2という場所、ここは西地区の大通りの13番エリアということになる。


 南地区と違い、西地区は古くから王都に商いをしている商会が多く存在する地区になる。


 その他の特徴として、王都の中心から一番遠い外側を1番地とし、中央区に近いほど数字が大きくなるというものがある。数としては1~15まで存在しており、俺の今回充てがわれた13番エリアはかなり中央区から近い場所になる。


 そしてこの王都ラインブルクでは、東西南北の各地区に加えて王都の中心に聳える白亜の巨城〈ハインリーゼ〉の周辺一帯を特別区としており、現代日本でいうところの永田町のような王国の中枢である官僚や貴族達が住む場所になっている。


 この中央区は、他の地区と違って外壁でしっかりと区切られており、正しい意味で世界が違う場所だ。貴族だけでなく、高名な学者や大商会の主人といった王都でも指折りの有力者達も住まう場所なので、基本的に豪邸と呼べる程の大きな建物が間隔を開けて建っている。


 まさに異世界の高級住宅街といえるだろう


 そういう特殊な区割りが王都には存在するので、東西南北の各地区でも中央区に近ければ近いほど社会的地位の高い、影響力のある商会が店を構えている事が多いそうだ。これは露店祭でも変わらず。中央区に近ければ近いほど高価で希少な品物が売られていることが多いと言う。


 なので1~7番エリアまでは大衆向けの露店が並び、7番以降のエリアは王都の富裕層向けの高級品を扱った露店が並ぶという棲み分けが出来ていた。


(・・・・・・一部物好きな貴族は中央区寄りの露店祭にもお忍びで顔を出すと言う、ならそこでお得意様として呼び込めれば大成功だが・・・・・・)


 他の地区の特徴として、東地区は歓楽街が多く存在しており、賭場や娼館といったエラクトンの街でも見たような場所が多い、そして北地区は学生区と呼ばれ、国の研究機関や軍学校、魔法学校といった特殊な施設が存在するので、今の俺とはあまり関わりがない。


 そう言った観点から見れば、幾ら露店祭とは言えど各地区の特色が少なからず出る事を考えれば、古くから王都に根付く商会が多い西地区大通りで中央区寄りの13番エリアを確保出来たというのは、ほぼほぼ希望通りだということだ。







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