第18話 父からのメッセージ

 ムーンゲートを通って、アスフィアルの世界に戻ってきた場所は、つい今日到着したばかりの王都のにあるチームハウスの部屋だ。


 六畳一間の小さな部屋、男一人だと少々手狭な感じはするが、物価や家賃の高い王都においてチーム所属していれば家賃無料で使えると考えればかなり良い物件だろう。


 ベッドに簡易的な机と椅子が一つずつ、最低限の家具は揃っているものの、元々多くの物を持ち運んでこなかったので、俺の部屋は寂しいものになっている。


 そんな六畳一間の自分の部屋にデカデカと鎮座する白いモヤの掛かった扉は、殺風景な部屋には異質に映った。


「・・・・・・誰か入ってくるとは思わないけど、使うときは気をつけないとな」






 龍幻会長と会話をし、約束を取り付けたところでアスフィアルの世界へ帰ってきたわけなのだが、現在時刻は夕方を迎えており、チームハウスの一階ロビーには多くの団員達が集まっていた。


「団長何処に居るか分かるか?」

「おっ、アレンじゃん、団長は執務室にいると思うよ」


 一階のロビーに降りて、最初に目がついたのは小難しそうな本を読んでいるキャミルだった。魔法使いらしい、黒いローブを身にまとい、派手な水色の髪が目にとまる彼女は一階ロビーで一番目立つ格好をしているといえる。


 執務室、と考えれば、キャミルは言葉を切らさずに執務室のある場所に指を指す。


「ありがとう、助かったよ」

「いいよいいよ!感謝するならゆめ恋の続刊持ってきてよね―」


 軽く会話をしつつ、キャミルが指を差した部屋へ向かう。






「・・・・・・なるほど、父上と会うことが出来ましたか、まさか直接岐阜の田舎まで足を運ぶとは思いもしませんでしたが」


 ズズッと机に置かれた飲み物を飲みながら、先程まで執務室の机に積まれた膨大な書類を物凄い速さで処理をしていた西王寺が話し始めた。


 その話しぶりからして、やはり俺が西王寺グループの人達と接触することを予測していたのだろう。


「お世話になっている村を黒服の男たちが探しているんだぞ?やりすぎだ」

「まぁ仕方ありませんね、私には姉弟もいましたが現状で跡継ぎは私でしたから」


 ・・・・・・日本を牛耳る大企業を経営する人物の娘となれば搜索も大掛かりなものになるのか?


 日本であるはずなのに、何処か違う世界の話に思えるのは随分とアスフィアルの世界で過ごしていたからなのだろうか。


「・・・・・・まぁいい、龍幻会長から証拠を取ってこいとスマホ?っていう奴を渡された。これで西王寺と団員を撮影してほしいんだとさ」


 スマホの扱い方は、晶さんを通じて一通り教えてもらった。


 この世界では電気もなく充電が出来ないので、モバイルバッテリーなる予備電池の様な物を貰ってきた。これを充電コードを使ってスマホに繋げると、電気のないアスフィアルの世界でも充電が出来るそうだ。


「なるほど、それはいいじゃないかしら?少し貸して貰える」

「はいよ」


 今回貰ったのは、黒色の縦長いタイプのスマホだ。


 これは西王寺グループの系列で生産されているスマホの最新機種らしい、4Kで60FPS?で撮影が出来るそうだがよくわからん。


 簡潔に言えば、凄く綺麗な写真や動画が撮影出来るらしい。


『雫、もしこの動画を見ているということは、本当に君は生きているのだろう・・・・・・』


 西王寺の時代には、俺が使っていた様な携帯電話はガラケーと呼ばれ殆どが淘汰され、スマホに置き換わっているようだった。


 そして、スマホは今や小学生や中学生でも持つ様な時代がやってきているそうで、西王寺も俺が渡したスマホを慣れた手つきで操作する。


「ふふっ、父上らしいわ」

「メッセージか」


 西王寺がスマホを少し操作したところで、いきなり龍幻会長の声が聞こえてきたので何事かと思えば、龍幻会長は渡してきたスマホに娘に宛てたメッセージ動画を撮っていたらしい。


 その動画を開くと、西王寺は今まで見たことのない優しい目をしてスマホの画面を見る。その眼は何気なしに潤んでいる様な気もするが、そこを指摘するのは野暮というものだろう。


 数分間に及ぶメッセージを見た西王寺は、フゥと軽く息を吐くと、手に持っていたスマホを俺に返してくれる。


「いいのか?」

「元は貴方の物よ、父上と接触出来たのならその内、私用のスマホを取り寄せるからいいわ」

「そうか」

「えぇ、とりあえず団員の写真撮影だけ先にやっといて貰えない?集合写真を撮るまでには今ある仕事を終わらせておくわ」


 西王寺はそう言うと、先程と同じように机の端に積まれた書類を手にとって目を通していく。








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