第17話 向こうの世界②
本当のところは俺と西王寺の関係は協力者という意味合いが強いが、実際は俺が西王寺がトップを務める冒険者チームの一団員として所属しているので、雇用主と従業員という関係で俺が西王寺雫の部下として働いていると説明した。
その言葉に対して龍幻会長はふむ、と顎に手をあてて考える素振りを見せる。
「娘はゲートの向こう側で何をしているのかね?」
「ゲートの向こう側には別世界が広がっています。いわゆる剣と魔法が存在するファンタジーな世界です。彼女はその世界で冒険者チームを結成し、活動しています」
俺の説明に、晶さんと黒服の大男は本当かよ?と言いたげな様子でこちらを見てくる。
「異世界か・・・・・・にわかには信じがたいが、このムーンゲートと呼ばれる不可思議現象が存在する今、信じるしかあるまいな」
「・・・・・・異世界の魔法やらで後部座席に流した催眠ガスが効かなかったのか」
「まぁそんなところ」
晶さんの言う俺の催眠ガスの耐性は異世界の魔法でもなんでも無く、ただ素のスペックなだけなんだけど、ここで細かく説明しても更に混乱を招くだけだったので曖昧に答えておいた。
「つまり、君はこの世界へは来れるが、戸籍が無いので仕事に就く事もできず。金銭を得られないから私に協力して欲しい、そういうわけだね?」
「はい、龍幻会長の娘さんとの契約では、私が日本の物品を融通する代わりに向こうの世界・・・・・・アスフィアルで支援して欲しいというものでした」
本来、西王寺に接触したのはアスフィアルの世界で確かな地位を持つ彼女の支援を貰い、向こうの世界で商いをすることだった。
しかし、細かい計画を詰めた際に、俺は地球に置いての調達能力に乏しい事が判明した。言ってしまえば俺は日本において戸籍の無い不法滞在者となっており、仕事に就くことが出来なかった。
赤根村でお手伝いをしながら、インターネットに精通している木田くんを通じてネット注文で商品を得る・・・・・・それぐらいしか出来ることが無かった。
しかし、それでは本一冊買うのに多くの時間が必要になる。それに加えて唯一の金銭を得る方法が村の爺さん婆さんの手伝いという不確実なものだ。
そこに危機感を抱いた俺と西王寺は、心配しているであろう両親に無事を伝えつつ、俺が地球で活動しやすいように手助けをする・・・・・・という内容を龍幻会長に説明した。
「ゲートを常時展開は出来ないのだろう?」
「はい、展開中のコストは非常に重たいので、常時展開しつつ有線ケーブルを繋げて言うのは難しいです」
俺が持つ〈異世界渡航〉というスキル、これはアスフィアルの世界において大魔法と呼べるほどコストがバカ重い魔法だ。
そりゃ、世界を超えるのであれば大魔法と呼べる代物なんだけど、試しにスマホと呼ばれる物を借りてアスフィアルの側から電話を繋げてみても、電波が通じなかった。
そして代わりに有線ケーブルを繋げようにも、ムーンゲートの常時展開は不可能に近い。わざわざ糸電話の様にケーブルを繋げて通話をするより、手紙のようなやり取りの方がずっとコストが軽いのだ。
「ふむ、君の能力については大体分かった。帰りに君専用のスマホを渡すからそれで娘の写真でも動画でも撮ってくれないか?」
「それぐらいなら大丈夫ですよ、娘さんも日本のことについて気になっていたようですし」
スマホと呼ばれる小さな板状の携帯電話は、俺の時代には無かった物だ。しかし操作方法を覚えてみると中々面白い。
これを使えば、従来の携帯電話のように電話だけでなく綺麗な写真や動画が撮影出来るという、これを使用して娘を撮影し証拠を取ってこいという事になった。
これが出来れば、龍幻会長及び西王寺グループは最大限の協力をしてくれるという。
「少し時間がかかりますがいいでしょうか?最近になって拠点を移転して少しごたついているので・・・・・・」
「そこまで急ぎでは無いよ、娘にも西王寺の人間としてトップに立つ者としての心構えを教えてある。ならば新天地で気をつけないといけない状況、焦って土台を疎かにする事はあるまい」
巷では、その様な心構えを帝王学というらしい。
その後は、ムーンゲートの向こう側で西王寺がどの様な生活をしているか、という父親らしい質問を受け答えしながら、俺はアスフィアルの世界へ戻った。
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