第13話 王都到着

 王都へ向かう道中は、不寝番を共にした団員達とも仲良くなったお陰でそれなりに楽しめる旅だった。

 本来であれば、モンスターが蔓延るこの世界で旅をするというのは、とても厳しく危険な行為だ。


 少なくとも外地というのは、戦闘経験のない一般市民が足を踏み入れる領域ではなく、もし何かしらの理由で遠い場所へ行かなければならない場合は、高い金を払って冒険者達に護衛をして貰うことが多い。


 そうやって万全を期していても、危険と隣り合わせという状況には変わりなく、何かしらの理由で通り道に強大なモンスターが住み着いていたり、野盗に襲撃されたり、または護衛と思っていた冒険者が裏稼業の人間だったりと完全に安心することは出来ない。


 そんな中で、俺は最高の条件下で外地へと出ることが出来たと思う。


 周囲には、近年王都を席巻するような凄腕の冒険者集団が居て、王都近辺に出没するモンスター程度であれば、鼻歌交じりで討伐出来る程の高ランクの冒険者達だ。


 少なくとも、暁月の旅団は大貴族が雇うクラスの冒険者チームであることから、一般市民である俺が彼女たちと共に王都へ行けたのは間違いなく幸運な事であった。






「これがゆめ恋の続き!!」

「・・・・・・一応、団長からの借り物だから注意してくれよ」


 男女という性差はあれど、設営出来るテントの数は限られているので男である俺であっても、女性団員と同じテントの下で眠る事になる。


 最初の頃こそは緊張で中々寝付けなかったものの、リサーチも兼ねて貸したゆめ恋の単行本を通じて、キャミルを初めとした一部の団員と仲良く慣れたので、今では異性だからといってそこまで気にならなくなっていた。


 今日は不寝番の係ではなく、普通に設営したテントの中に入って就寝するところだった。

 テントの天井の中心にはこの世界で広く使われている叩くと光る性質を持つ〈衝光石〉と呼ばれる鉱石を使ったランプでテントの中が照らされている。


 テントの中は口の字を描くように寝袋が敷かれ、中心には今朝にゆめ恋第二巻の持ち主である西王寺から借り受けた物が置いてあった。


 テントの中にいるメンバーは、エラクトンから出発した最初の夜で共に不寝番をした仲である魔法使いキャミルと、戦士系のリュカとエイダに俺を合わせた計四人だ。


 弓使いであるラズリは役割の関係から、別の班に居るのでこの場には居ない。


「わぁ!!」


 同志が増えるなら・・・・・・と、まさにファンの鑑の様な精神で現在の持ち主である西王寺は快くゆめ恋の第二巻を貸してくれた。

 メンバーの中で特に続きを読みたがっていたキャミルは、ゆめ恋の本を両手に取ると、衝光石が輝くランプに照らすように掲げて表紙の絵を見る。


(ここまで喜んでくれるなら共同用に揃えてもいいかもしれないな・・・・・・)


 団長である西王寺は個人で所有したいだろうから別として、未だ距離感を測りかねる他の団員の人達と仲良くなるために、暁月の旅団の共有物としてゆめ恋の本を卸してもいいかもしれないと思っていた。


 少なくともキャミルやリュカ、エイダの反応を見るにこの世界の価値観でも日本の漫画はお気に召す用で、サブカルチャーに詳しい西王寺やアルバイト店員の木田くんに相談して他のも購入してもいいかなと思い始めていた。


 まぁ、なんとも簡単に絆されるなぁと思いつつ、やはり男として女性が喜ぶ姿を見るのは嬉しい物だ。





 カインリーゼ王国の王都〈ラインブルク〉は、国内で最大規模の大都市となる。

 東西南北に分かれた各地区には、それぞれ特徴を持った街が形成されており、中心部には白で統一された巨城〈ハインリーゼ〉が王都を一望している。


 ラインブルクは北地区、南地区、東地区、西地区、中央区の5つで構成されており、俺たちがやって来た場所はこの中の一つの南地区だ。


「新しいチームハウスはもう準備出来ているから、各々割り振った部屋に入って確認して頂戴、実家に顔を出すメンバーには別途伝えることがあるから副団長のラフィンの元に集まるように・・・・・・以上」


 ハイ、と西王寺の言葉に団員達が一斉に返事したところで解散となった。

 冒険者達が集う王都の南地区でも、暁月の旅団が今回購入したチームハウスはかなり立地が良い場所に建てられており、30人ものメンバーが一同に過ごしても余裕があるほどの巨大な建物だ。


 旅団のチームハウスは、一階にコンビニやスーパーがあるような

 一体型マンションの様な形をしており、一階部分に共用ロビーがあり食堂や風呂場といった物が存在する。

 そして二階より上の階層はそれぞれ団員達の個人所有の部屋となり、急遽加入が決まった俺にも三階部分の階段から一番近い部屋が割り当てられた。


「流石王都だな、すげー建物物ばっかりだ」


 王都を見渡すように建っている巨大な城のハインリーゼもそうだが、この世界の科学技術は中世ヨーロッパの様な雰囲気であるのに、魔法や摩訶不思議な性質を持った物質が多く存在するので、規模の大きな都市だと目を見張る様な巨大建造物が幾つも存在する。


 流石に暁月の旅団のチームハウスのような巨大な建物は限られてくるが、それでも中世ヨーロッパの世界観には似つかわしくない程の背の高い建物が多い印象的だった。



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