第11話 夜の野営地で

 まるでキャンプファイヤーみたいな巨大な焚き火を囲むように、暁月の旅団はキャンプを設営する。

 様々な人々が使用する野営地ではあるが、使用者の中にも位というものが存在して、商人であれば規模の大きいところ、冒険者であれば階級がより高い方が良い場所を使うことが出来る。


 野営地は四角形の形をしており、旅団は入り口から近い隅の部分に陣取っていた。

 テントは四人一組の物が計8つ設営されているものの、団長である西王寺は特別大きなテントに一人で寝ていた。


 そして旅団は全員女性・・・・・・となれば、男である俺は肩身が狭い訳であるので、旅の初日である今夜、俺は不寝番を希望した。


「今日歩いている途中でさー、新しい術式の魔法を思いついて今さっき使ったんだけど、思いっきり失敗しちゃった!!」

「夕飯の片付けのときの大爆発の原因はお前か!!」


 夕食時に使用した焚き火を消さないように不寝番をやるのは俺を含めて五人、それぞれ戦士2人に斥候1人、魔法使いが1人といった感じだ。


 本来であれば、斥候役は2人必要なものの、今回は俺が入っているので2-1-1の配分となっている。


 不寝番は、旅団だけでなく野営地に居る他の冒険者チームも出している。ただ商隊のグループは不寝番を出さずに全員が眠っているが、戦闘経験の無い人間が不寝番をやっても効果が薄いので結果、商隊グループは不寝番を出さないようになっていた。


 周囲には不寝番をする冒険者たちの灯りがぼんやりと輝いていた。


「ん?どうしたのアレン」

「・・・・・・いや、もっと嫌われているもんだと思ったから、こうやって不寝番で会話に入れるのに驚いていた」


 俺が呟くように喋ると、焚き火を囲んでいたメンバーが一斉にあぁーと納得した様子の声を出した。


 正直、西王寺がやった行動は団員達の許可なく強引に決めたことだった。女性だけの冒険者チーム、そこに価値を見出している人間も居るかもしれないし、中には男嫌いで暁月の旅団へ参加した人間も居たかもしれない。


 そんな中で、当初俺はあまり歓迎されないものだと思っていた。30人以上もいるチームの中で1人だけ異性が混じっている・・・・・・俺の居心地の悪さを別にしても、避けられるぐらいはあるんじゃないかと思っていた。


 パチリと薪が弾ける音を聞きながら、団員達の意見を聞きたかった。評価を気にしたところで出来ることは少ないだろうが、無理に衝突するよりはマシだろうと思い、正直に聞いてみた。


「別にいいんじゃない?男だろうが女だろうが、旅団に貢献できる人材なら私は大歓迎だよ」

「そうですね、周囲の噂では男嫌いだの何だの言われていますが、暁月の旅団はそういう団ではありませんし」


 焚き火の向かい側に居る2人、濃い赤色の短髪が特徴的な、やたら豊かな装甲胸部を持つ女性、リュカと斥候役をやっている長い青髪が特徴的なスレンダーな体格の女性であるラズリがそう答えた。


 火と水、そんなイメージのある2人は同時期に旅団へ加入したメンバーだという。リュカは自分と同じ程の大きさの大剣を、ラズリは和弓のようなシンプルかつ細めの大きな弓を使う。


 どちらも優れた冒険者だ。この世界は優れた身体能力を持つ人間が多いものの地球と同じように、男女の性差によって身体能力は違ってくる。

 そんな中で冒険者として大成するのはもちろん男が多い・・・・・・と思いがちだが、魔力量で言えば女のほうが多かったりするので、役割の差はあれど意外と力量差は少ないと言える。


 そんな中で、態々不利な物理系の職に就くリュカとラズリは、戦士と斥候とモロに身体能力が必要となってくる職で優れた実績を持つ古参だという。


「副団長のラフィンはまだしも、古参のメンバーなら男嫌いって少ないんじゃないかな?最近加入したばっかりの子だとそういう考えもあったりするかもだけど」

「ラフィン・・・・・・ですか」


 リュカの言葉に、俺はラフィンと呼ばれる女性の姿を思い出す。


 暗闇に溶けるような美しい漆黒の髪を持つ団長の西王寺と違い、まるで月明かりのような白に近い銀髪が特徴的な女性・・・・・・だったはずだ。

 どちらも可愛いと言うよりは綺麗やかっこいい系の女性であり、同性にモテそうなタイプだと、最初彼女たちを見たときは下世話ながら俺は思った。


「まぁでもラフィンは男嫌いだからって無闇矢鱈に敵視しないし、基本的に彼女は団長にはべったりだから問題ないんじゃないかな?」

「他の子もそうだと思うね、どちらかというと嫌いと言うよりは異性に対して負けん気を発しているだけだろうけど」

「そうなんだ」


 そう聞けばひとまず安心、は出来るかな?


「ねぇねぇそれでさ、一番聞きたかったんだけど・・・・・・アレンってどうやって団長の心を射止めたの?」

「心を射止めたって・・・・・・大したことないよ、興味深そうな代物を手に入れたから見せただけって」

「なにそれ!みたいみたい!!」


 キャアキャア騒ぎ立てるのは、先程思いついた魔法を失敗させて、野営地のすく外側に大きなクレーターを空けた水色髪の少女の様な魔法使いのキャミルだ。

 見るだけで天真爛漫さを感じる彼女の瞳には、好奇心という言葉がデカデカと見て取れた。


 寡黙な性格なのか、メンバーの中で唯一沈黙を保っていた俺と同じぐらいの体格を持つ大柄な女性のエイダも、チラチラと俺の方に目線を配る辺り、この場に居る全員が気になるようだった。


(・・・・・・見せても大丈夫かな?)


 この場において見せて欲しいと願っているのは、身を乗り出して俺の肩を両手で揺らしてくるキャミルだけだが、他に焚き火を囲うメンバーも同じように気になっている様子だった。


(王都でも売り出そうと思っていたし、彼女たちの反応を見てみるか)


 今日の昼間に、西王寺から奪われたら戻ってこないよと忠告は受けていたものの、ゆめ恋を初めとした漫画や小説を王都で売り出そうとも考えていた為、現地人である彼女たちの反応を見ることにした。


「いいよ、ただしここだけの秘密にしておいてくれ」

「わかった!!」


 ただそれでも騒ぎが大きくなっても困るので、俺は他言無用と唇に指を当て、喋らないようにとジェスチャーを送る。

 コクリ、と一同が同意したところで俺の持っていた鞄からゆめ恋の単行本を取り出した。


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