第10話 王都に向けて

「手紙は送れた?」

「バッチリ、ただ送り主の住所とか書いて無いけど大丈夫なのか?」

「送れたのなら大丈夫」


 西王寺の両親宛てに手紙を送った次の日には、エラクトンの街から王都に向けて出発していた。

 縦長に並ぶ隊には、総勢30名程の団員達が馬車を囲みながら歩いている。


 俺はそんな隊の中央部分、団長である西王寺の横に並びながら歩いていた。


「しかしいいのか?俺は最後尾に居たほうがいいと思うが」

「雅人は戦闘経験ないんでしょ?なら私の隣が正解、新人の団員は防御の厚い隊の中央で護るのが基本」

「そうなのか」


 このアスフィアルというファンタジー世界へやって来てから20年が経つが、こうやって本格的な旅に出たのは今回が初めてだ。

 基本的に冒険者や行商人でもなければ、生まれた村や街から出ることは殆どなく、俺も一度だけ生まれ故郷の村からエラクトンへ来る際に外へ出たことあれど、その例外を除けば殆ど外に出たことは無かった。


 それに加えて、今、隊がいる場所はゴブリンやコボルトといったモンスター達が出没する危険地帯だ。

 危険地帯と呼ばれる場所は、基本的に魔素と呼ばれる大気中に漂う魔力の素が充満している場所の事を差し、モンスターの他にも魔素によって変異した動物とかも存在する。


 基本的にこの世界における村や街といった場所は、魔素が少なく安全な場所が多い、例外として戦略的観点から大気中に漂う魔素が多くても街や拠点が設置される場合もあるがこれらは本当の例外だ。


「まさか、ゆめ恋をこの世界で読めるなんて思いもしなかったわ」

「それは取り寄せた甲斐があったな」


 旅は基本的に徒歩だ。けが人や病人が居る場合は一緒に連れている馬車の荷台に乗せたりするものの、西王寺を始め全員が徒歩の移動となる。

 それでも地球と異なり、ここはファンタジーが蔓延る異世界なので体力や移動速度は地球と比べ物にならない。昼休憩の一回のみで一日数十キロと平気で移動するので、カインリーゼ王国の王都〈ラインブルク〉は大体一週間もあれば到着する見込みだ。


 それでも旅の道中は基本的に長閑だ。危険地帯ではあるものの、整備された道を歩いているのでモンスターと戦闘になるのは一日に数回程度、西王寺曰く、近くの森へ入らなければ戦うこと自体あまり無いのだという。


 なので、旅の間は他愛のない話をしながら暇を潰すことが多い。


「そんなに有名なのか?ゆめ恋って」

「連載が始まったのは5年前ぐらいかな、当時は色んな人が読んでいたよ、私の高校でもかなり流行ってた」

「西王寺の高校ってあのお嬢様学校だろ?そんなところでも漫画って読むんだな」

「私の居た高校を何だと思っているの・・・・・・」


 西王寺が在籍していた高校、東京にある桜花女学園は俺が生きていた時代から存在する名門校である。

 それこそ、元華族だの、名家の生まれだの冗談みたいな由緒正しい生まれのお嬢様達が通うエスカレーター制の中高一貫校だ。


「貴方も読めば分かるわよ、絵柄は少女漫画みたいだけど男性にも人気あったのよ?」


 そう言いながら、西王寺は手に持っていたゆめ恋の単行本を差し出してくる。


「分かった。じゃあ今日の夜にでも読もうかな」

「でも気をつけなさいよ、この世界は異世界人でも日本語読めるみたいだから、彼女達に見つかったら奪われるわよ」

「・・・・・・気をつける」


 何故かこの世界では日本語であろうが英語であろうが、言葉であっても文字であっても万人に通じるというのがあって、これは俺の様な転生者や、西王寺の様な転移者にとってありがたいんだけど、未だ解明されていない謎の一つである。


 なので、暇を持て余す団員達がゆめ恋の単行本を見つけてしまえばまず間違いなく騒ぎになるので、読む際には注意するように・・・・・・と西王寺から言われた。








 エラクトンから王都の道中では、途中にある村や街へは寄らずに基本的野宿になる。

 ただ野ざらしの場所にキャンプ地を建てるということはなくて、日本でいうところのサービスエリアやパーキングエリアのように、道中に野宿できる様な場所が存在し、旅をしている人達はそこに集まって野営の準備をする。


「随分と賑わっているんだな」


 野営の準備は団員全員で行われる。火起こしからテントの設営、近くに森があれば野生の動物を狩ってくる狩猟係など仕事は様々あった。

 夕焼け空に染まった時間帯には、既に暁月の旅団以外にも多くの商隊が集まっていた。


「ここの野営地が周辺では一番広くて安全だからね、中には護衛目的でここまで頑張って来た商隊もいるんじゃない?」


 俺も他の団員たちと同じように設営の準備をする。日本のキャンプで使われるような組み立て方ではあるものの、機材は結構重量がありちょっとした力仕事になる。

 それでも他の団員達は慣れた手つきで早々と設営をしていく。俺も運びながら作業をしていたら、丁度隣にいた黄色い髪が特徴的な同じ団員の女性―――ニケが話掛けてきた。


「護衛目的?」

「うん、行商人とか商隊の中には私達の様な冒険者を、護衛代わりにしているところもあるからね」

「・・・・・・ずるくない?」

「持ちつ持たれつだよ、その分、同じ野営地に居る商隊から食料を買うときは安くして貰ったりね」


 まるでタダ乗りや便乗するかのような考えに、思わず不快感を出しそうになってしまうが、ニケが言うには持ちつ持たれつの関係だという。

 まず第一に、商隊や冒険者チームが集まる野営地は比較的魔素の薄い安全な場所が多い、殆どは夜中であってもモンスターや凶暴化した動物達は襲ってこないから問題ないという。


 逆に、何かしらの不手際があった時には同じ野営地に泊まる商隊から割安で食料を譲ってもらう事もあるそうだ。中には拒否する商隊もあるみたいだけど、殆どは持ちつ持たれつの関係で協力しながら旅をするのだという。



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