page?.私の救済記

「……?」


 何が起こったんだろう。

 あぁ……刺された?


 えーっと、誰にだっけ。


「おい! 落ち着け!」

「あははは! ざまぁみろ!! お前も死んでしまえば良いんだ!!」


 あぁ……あの後輩って人か。


『やっぱりお前が……お前がミライを殺したんだな……っ!!』


 そういえば、私を刺す前……あの人はそんな風に叫んでたっけ。


 みーちゃんのお友達なのかな、分からないけど。


 でも……酷い言い方するなぁ。


 みーちゃんは私が救ってあげたのに、きっとそれを知らないからこんな言い方するんだ。


 ……この人の寿命は沢山あるけど、もし減っちゃっても、救ってなんかあげないから。


「おい!……とりあえず応急処置! 急げ! こいつは拘束しておけ!!」

「ははははっ! 復讐した! 復讐してやったぞ! ミライ!!」

「っ馬鹿……殺してしまったら意味が無いだろ!! 法で裁くのがお前の仕事だってのに……畜生!!」


 辺りが騒がしくなってくる。


 痛みは確かすぎるくらい感じるけど、あんまりパッとしないから騒ぐ気にもならない。


 私……死ぬのかな。


 大切な人、助けて来たけど……私一人残されちゃったもんね。

 私を助けてくれる人が居ないなら、誰の手でも皆んなが居る所に行った方がいいか。


 そんな事考えもしてなかったな。

 まぁ……結果的にはこれで良かったんだから、いっか。


 このまま死んでも、いっか。


「高野!……おい、聞こえるか?!」


 先輩の方の人が私を抱きかかえて呼んでるのが聞こえる。


 大声っぽいけど、微妙に掠れて聞き取りづらい。


 これが死ぬって事なんだね。


 ……うん、良かった。

 全然怖くないや。


 きっと、にゃーちゃんもおじちゃんもみーちゃんもお母さんもらいくんも、大切な人はぜんぶぜんぶここには居ないからだよね。


 うん、そう……逆に幸せだよ?


 だって、皆と一緒に死んじゃうかもなんて考えなくてもいい世界に行けるんだもん。


 この痛さを我慢すれば、もう痛くないから……。


「助けないでね」

「……は?」

「私もみんなのとこに行くんだもん。……だから、放っておいてよ」

「……」


 先輩って人が何とかしようとしてるの……どうにかして止めなくちゃ。


「駄目だ」

「何で?! 死ぬのは勝手でしょ!」

「……生きる自由を奪ったお前に、そんな事を言える権利があると思ってるのか?」

「奪ってない! 私は……」

「奪ったんだ!」


 っ……うるさい、私は……!!


「私は助けただけで……」

「子供みたいな言い訳をするな!」

「っ……!」


 それでも、私は……殺してなんかない、もん……。


 皆助けて欲しいって、そうでしょ……?


 皆を助ける時、泣きそうだったり怖がった顔をしてたのも、痛いのが怖いだけで、私の事が怖かったなんて、そんなの絶対絶対……。


「!」


 もうだいぶ力が入らなくなった目で私を抱える先輩って人を見たら……


 奥にいる後輩って人も、他の人にも、みんなみんな……無い!


「……ぁはっ」


 そっか、そっかそっか……!!


「あはははははっ!!!」


 まだこんな力が残ってたんだってくらい、私は大きな声で笑った。


 だって、面白かったんだもん。


 だってだって、私の勝ちだから!


「皆寿命見えない! みんなみんな死んでるんだ! 死んじゃったんだ! あははははははっ!!!」

「っ……死ね……っ!!!」


 何とか抑えられるのを振りほどいて、後輩って人がこっちへ走ってきて、狂った様に私をめちゃくちゃに刺し続ける。


 でも、私はそんなのどうでも良かった。


 だって……この世界に居る人、今きっと、皆死んだんだから!


 死んだら寿命も要らないからさ、皆で天国で死なないで生きてけば良いんだ!


 それでも喧嘩が起きて、殺しちゃう人が現れるなら、その時はその時。


 だから、死んでからまた喧嘩しよーよ?


「あはははははっ!!!」


 私は最後まで、声が出なくなるまで笑い続けながら、それをこの残念な世界の思い出の最後にした。


 すぐ行くからね。

 だから皆……待ってて。




 こんな世界……きっと私だけじゃない、みんなみんな大嫌いなんだしさ。

































私の救済記【完】

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私の救済記 センセイ @rei-000

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