調書.高野 優芽子(4)
「は、はぁ……えーっと?」
後輩が困惑しているけど、俺も口を開けば同じ反応をしていただろう。
彼女の口から語られるのは、てっきり真実か、それに近しいものだと思っていたのに。
……何だって、寿命が見える?
バカにしてるんじゃないのか。
そう言いたくなるのを、俺は何とか堪えた。
けど、
「だから、人の寿命が見えるの」
「……」
彼女は、さも当たり前の事を言う様な単調さでそう言ってのける。
これは……精神的なやつなんだろうか。
それにしては、彼女は聞き込みでは至って正常である情報しかないのが不審ではあるけれど……まぁ、そこらはどうとでもなるだろう。
「……そんな、」
「?」
それよりも……あいつの様子がおかしい。
「そんな事、本当に通じると思ってるんですか?」
異常に取り乱して……さっき信じると言ったのに、これじゃ彼女の信用を失ってしまう。
「……本当だよ」
「どうして!……どうしてそんなくだらない嘘をつくんですか?!」
「お、おい、落ち着……」
「先輩は黙っててください!」
これは……流石にダメだろ。
どこからどう見たって冷静さを失ってる。
「おい……お前は一旦下がれ!」
「っ……先輩、止めないでください! 僕はこいつを……」
……その時。
ガシャン…と、大きな音に、俺達の言い争いは制止される。
「……やっぱり」
彼女は机にあった古臭いライトを、思いっきり床に叩きつけていたんだ。
「私には本当に寿命が見えるのに、どうして分かってくれないの?」
そして、彼女はそんな風に言った。
……そうか。
彼女は真実を隠している訳じゃ無かったんだ。
「……ゆ……いや、高野」
「……」
俺は何をすればいいのか理解して、すぐさま彼女……高野に向かって歩みを進める。
そして、目の前まで行って、子供にやる様に目線を合わせんとしゃがみ込んだ。
「教えてくれ。……何があったんだ?」
そう。
彼女の求めていたのは、同情や譲歩じゃないんだ。
ただ……自分の話を否定せず、聞いてくれる人の存在。
ただそれだけで良かったんだ。
いや、きっと……ただそれだけさえも、彼女の傍には居なかったんだろう。
「……何が、って?」
彼女は俺の言葉に、ちょっと警戒しつつも答えた。
俺はもう間違えない様に、決して優しくも突き放したりもせずに言い放った。
「寿命が見えて、どうしたのか。……それがあったから、この道を選んだんだろ?」
****
「……そうだよ」
それから、彼女はゆっくりと語り出した。
「私の大好きな人は、皆寿命が短かったの。にゃーちゃんが動かなくなってから見える様になって、でもおじちゃんのは間違えちゃって、おじちゃんも死んじゃって……」
彼女はきっと、話し相手の俺の事なんて気にしていないだろう。
俺は合の手も入れずに、ただただ邪魔せずに聞いていた。
「……それで、私、今度こそ失敗しないって思って、ちゃんとどうすればいいか考えたの。だって、みーちゃ……大切なお友達も、お母さんも、皆寿命が短かったんだもん」
彼女は続ける。
「でもね、寿命見えて……良かったって思うんだ。だって、死んじゃうのが分かるってことは、どうにか出来る猶予があるって事でしょ?」
段々と早口になる。
「……それでね、ある日、らいくんと会ったの。初めてだった……ただすれ違っただけの人の寿命が、こんなにも短いなんて」
感情の混ざった声になる。
「だから私、この人も助けてあげようって思って……! 彼女になって、楽しい時間をあげたら、この人も楽しい気持ちで死ねるでしょ?」
声が昂る。
「でも、そのうち大切な人になっちゃったから、やっぱりらいくんも助けてあげたんだ!……だって、そうでしょ?」
張り上げる。
「そう、これは私の救い方なの! 救済なの!……何かも分からないものに、私の大切な人の命が取られちゃうくらいなら……」
高らかに。
「……私が、先に救ってあげるんだ」
彼女はまるで……救済者にでもなった様な面持ちで、そんな極悪を語った。
なんて事ない。彼女は……ただの残忍な、殺人鬼なのに。
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