page6.私と君

「……どうして、分かってくれないの?」


 あの後、私達は軽く言い合いになっていた。


 ……最初は、なんて事ない話だった。

 なんて言ったかな、どんな生き物だって死んじゃうんだとか何だとか。


 でも、そんな時にらいくんがふと言ったんだ。


『寿命が分かれば、苦労しないのにね』


 ……って。


 一瞬、すごくびっくりした。

 らいくんには話してなかったのに。


『……ねぇ、らいくん』


 そんなんだから、私は言ってしまった。


『もし私が人の寿命を見えるんだとしたら、どう思う?……いや、それだけじゃない。もしそれで、らいくんの寿命が後ちょっとしかないって言ったら?』


 何度も何度も失敗して、もう言わない方が良いって分かってきたハズだったのに。


『それは……』


 らいくんは答えた。


『……ちょっと寂しいかなぁ』


 ……私の気持ちなんて分からないクセに。


 そう思ってしまって、事情を知らないらいくんにそんな事を考えてしまう自分が嫌になりながらも、それでも止められなかった。


『……ほんとだもん』

『……え?』

『ほんとに……ほんとに見えるんだもん!』


 大声を出すと共に、手に持っていた大切な大切な宝箱を、つい乱暴に床に投げつけてしまった。


『……どうして分かってくれないの?』



****



「ねぇ、らいくん」


 私はソファーに深く腰かけながら、さっき投げてしまって後悔した大切な宝箱を拾い上げたのを手元に、らいくんに話しかける。


「思えばね……らいくん。私の大切になった人は、みんなみんな寿命が短かったんだよ」


 にゃーちゃんから始まって、おじちゃん、みーちゃん、お母さん、そして……らいくん。


 みんなみんな大好きなのに、みんなみんな寿命が少なくて。


「どうしたら良いんだろうって、ずっと思ってた。……何回も何回も、私が死ねば皆幸せに長生き出来るんじゃないかって、私が疫病神なんじゃないかって思ってたの」


 自分で言ってて、ちょっと悲しくなってしまいそうなのを慌てて誤魔化して空元気な笑顔をつくる。


「でもね! 大丈夫。私……もうそんな風に考えて、逃げたりしないよ」


 そう。

 結局、私にそんな力は無いんだ。


 そんなの……ただの逃げだから。


「だからね、私、考えたの。私がみんなにできる事。……もうすぐ死んでしまう大切な人に、私が出来る事って何だろうって」


 私はそんな風に言って声を張る。


 こんな事、誰にも言った事無いし……らいくんが初めてなんだからね。


 ちょっと気恥ずかしいけど、私は続ける。


「ずっとずっと考えてたけど、みーちゃんと会って、私……思いついたんだ。……あ、みーちゃんってのはぬいぐるみじゃなくてお友達の方ね」


 らいくんには一応話してはあるけど、多分ぬいぐるみのみーちゃんの方が馴染み深いだろうからそんな風に付け加えつつ、話を戻す。


「そうしたら、私……みーちゃんとちゃんと、素直な気持ちでお別れ出来たんだ」


 そう。

 みーちゃんが引っ越して行く時、ちょっとギクシャクして終わってしまったけど、ちゃんと『最後』はスッキリした気持ちで、みーちゃんの最後を見送る事が出来たんだ。


「その後、お母さんとも同じ事をしたよ」


 お母さんも寿命が短かったから、やっぱり同じ風にしたら、それもちゃんとお別れ出来た。


「だからさ……らいくんともきっと、出会った時から決まってたんだね」


 私はそんな風に言いながら、目の前に居る私の彼氏……らいくんに向かって微笑む。


「……これが、私の救済なんだよ」


 そう言って、私の膝で眠るらいくんの頭を撫でていた時、すぐ後ろから声がした。


「警察だ! 抵抗しないで手を上げろ!」

「……」


 ……あーぁ。

 せっかくのらいくんとの二人きりなのに。




 ……邪魔、しないでよ。

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