page2.私と親友

「ゆめちゃん!」

「みーちゃん!」


 私には親友が居た。


 みーちゃん。


 ……本名はもう覚えてない。

 うんと昔だったから。


「ゆめちゃん、見てー」

「わぁ、これなに?」

「新しいネイルなのー」


 そしてハッキリ覚えてるのは、


「……ねぇ、みーちゃん」

「なぁに?」

「みーちゃん、死ぬの?」


 ……仲良くなった頃、みーちゃんの寿命はあと二年しか無くなっていた事だった。



****



「見て、新作のリップ」

「可愛いー」


 その頃私達の中で流行っていたのは、お化粧ごっこだった。


「ほんと? ありがとうー」


 みーちゃんは可愛いから、どんなお化粧も似合ってたのだけは覚えてる。


「……ねぇ、みーちゃん」

「ん、何?」

「どこか具合悪くないの?」

「……またそれー?」


 そんな可愛くて優しいみーちゃんが本当に二年で死んじゃうなんて到底信じられなくて、私は心配で、何度も何度も聞いた。


「車乗るの?……気をつけてね」

「海行くの?……天気見るんだよ」

「……付き合う?……暗いとこ行っちゃダメだよ」


 でも、あまりにしつこかったのか、ある日言われた。


「ゆめちゃん! 心配し過ぎだよー!」

「だって……」


 茶化す様に言っては居たけど、やっぱりさすがにうざがられてるんじゃないかって不安だった。


 だからある日、私は思い切って……正直に話してみる事にした。


 寿命が見える事。

 そして、みーちゃんの寿命。


 本当は話さないつもりだった。

 でも……こんなの初めてだったから。


 寿


「……ゆめちゃん」


 でも、信じて貰えなかった。


 みーちゃんは私を変な子だと思って、避けるようになった。


 ……それでも私は頑張った。

 信じて欲しかったから。


「……あのね」


 何度目か言った時、やっとみーちゃんは振り返ってくれた。


「! やっと信じて……」

「変だよ、ゆめちゃん」

「……。え……?」


 ……みーちゃんは、それから直ぐに引っ越して行ってしまって、私の前にその笑顔を見せてくれる事は無かった。



****



「みーちゃんは元々、寿命が何十年もあったんだよ?……なのに仲良くなった途端、あと二年だなんて」


 私はその時のやるせなさを言葉に乗せる様にして話し続ける。


 でも……本当にどうしてなんだろう。

 寿命が変わるって変だよ。


 だって、そんなに減るなら増えたっていいハズってなっちゃうじゃん。


 そうなったら、らいくんだってもっともっとたくさん自由に……。


「それに、結局私は助けられなくて、あと1年になった時に……」

「ゆめちゃーん?」

「!……はぁーい!」


 話している途中、そんな風に呼ばれて、私は話しかけるのを止めすぐさま立ち上がった。


「らいくん!」


『警察だ』


 ……あの後、警察の人にちょっと待ってくださいと言って、その間にベランダから二人で逃げて来ちゃった。


 バレない様に逃げるのは大変だったけど、幸いな事にこんな場合も考えて荷物は纏めてあったし、そもそもの持ち物も少なかったから比較的直ぐに出てこれた。


 だってバレたら、らいくんきっと家に帰らされちゃうもん。


「あっ、置いていっちゃダメだよ。ゆめちゃん、『みーちゃん』大切でしょ?」

「あはは、うっかり」


 らいくんは立ち上がった拍子に、私が床に置いていってしまったぬいぐるみを見て言った。


 このぬいぐるみは、『みーちゃん』。

 そう、あの子と同じ名前。


 私はみーちゃんに貰ったこのぬいぐるみを、みーちゃんの代わりに大切にしている。


 みーちゃんは……死んじゃったから。


「どこ行くの? ゆめちゃん」

「……どうしよ……っか」


 二人で途方に暮れる。


 とりあえず、うんと遠くに行かなくちゃ。

 らいくんが家に帰っちゃったら、次生きて会えるかさえ分からないんだもん。


 らいくんの死ぬ時、傍に居るのは私なんだから。


 私は『みーちゃん』を強く抱き締めた。

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