第11話:友達
ある日の昼時、ネルカたち三人は敷物の上で飯を食べていた。
今いる場所は人がいることがほぼ無いに等しく、良い穴場スポットを見つけたと三人で喜び合った。そして、見つけて以降は昼食の時間になると毎日ここに来ているのだが、随分とご機嫌なマリアンネが全員分のを作ると言って持ってきたのである。
「この箱いいわね。私は他家のように侍女を寮に連れなかったし…挑戦してみようかしら。」
「うんうん、シンプルだかこそ良いよねぇ。こういう形式って意外とないんだよね。」
「えへへ~、そんな褒めないでくださいよぅ。」
エレナは潰したジャガイモのサラダを、ネルカはあまじょっぱいソースが添えられたハンバーグを気に入っていた。マリアンネの料理が上手というのもあるが、食べなれている料理もソースが変わればここまで違うのかと感嘆していた。
デヘデヘ笑うマリアンネをじっと見ていたエレナだったが、何を思ったのかその頭を撫でる。
「うんうん、マリちゃんは将来いいお嫁さんになれるねぇ。」
「いやぁそれほどでもぉ。」
アヘアヘ笑うマリアンネをじっと見ていたネルカだったが、何を思ったのかその顎を撫でる。
「よ~しよし、アナタは素晴らしい人よ。師匠として嬉しいわ。」
「もう、しょうがないですねぇ。」
そのまま二人は彼女に体を寄せてできる限りの可愛がりをする。当のマリアンネも満更ではないのか好きにさせていたが、ふと我に返ると顔を赤くして振り払う。
「って! 二人して何するんですか!」
「だってねぇネルカちゃん、ダーデキシュ様とねぇ。へへッ。」
「私の耳にも入ってるわエレナ、二人カフェでねぇ。フフッ。」
ダーデキシュとの相談の出来事は数人の生徒に見られていたのだが、運が良いのかそれをネタにいびるような性格の者には知られてはいなかった。しかしながら、ネルカの友人と義兄という関係ということもあって、気を利かせてネルカに報告する者はいた。
ネルカからしてみれば微笑ましいだけなのだが――まさか自分を甘やかしたいなどという相談を受けているとは知らない。
「で、どんな話をしていたのよ。」
「も~ネルカちゃん、そんなの決まってるじゃないか。」
「「そんな優しいダーデキシュ様が好きだから~!」」
どうやら寮近くでのやり取りについても目撃されているらしく、特に大きな声を出していたマリアンネの言葉は充分に知られているのであった。ネルカとエレナはそのことにキャイキャイとはしゃいでいるが、当の本人であるマリアンネは拗ねて頬を膨らましている。
「まぁまぁ、揶揄ったけど応援はしてるのよ? わざわざ領家に手紙送ってまでして、お義兄様の情報手に入れたのよ? 聞きたくないの?」
「…………うん…聞きたい。」
「まず、一つ目として勝手にしゃべってくれる人がいいみたいね。話すのは苦手だけど、聞くのは好きなのね…だからこそ私には苦手意識らしいけども。」
「ネルカちゃんは仲良くなると饒舌になるけど、それまでは基本的には引きの姿勢だもんねぇ。確かにそれだと噛み合わないかもね…。」
その言葉にマリアンネは相談の内容を思い出したが、きっとダーデキシュからすれば本人には知られたくないことだろう。言いたいけど言えないモヤモヤを抱えながら、続くネルカの言葉を持つ。
「あとね、これは最近になってお義父様も知ったことらしいんだけど…将来は王宮の魔道具研究室に入りたいから、仮爵貴族になりたいって思っているらしいわ。」
「仮爵貴族…? ボクには聞きなれない言葉だけど何なのそれ?」
実際に真面目に職務を果たしている者などごく一部ではあるが、一応の貴族の仕事というのは『管理者』『代表者』『施政者』のいずれかである。しかしながら、好みや才によっては本来貴族がすることではない職務に就く者だっている。
その時に融通を利かせるために使われるのが【仮爵制度】であり、仮爵貴族となった者は貴族と市民の中間地点という立場になるのである。簡潔に言えば『指示権限がなくなるが、利用権限は残る』という状態で、ダーデキシュの場合を例にすると『同研究員に命令することはできないが、王宮管理文献などの利用は滞りなく使える』といった具合である。
「ふ~ん、そんな制度あったんだねぇ。」
「それがね、この制度ができた背景が面白いのよ。」
この制度ができたのは遥か昔の話ではあるのだが、そこにはある侯爵子息が平民の娘に恋をしてしまったというものが関係している。本来ならばそんなことは叶わぬ夢ではあるが、彼の親友であった王太子がどうにかしてやりたいと思っていた。
当時としてはその恋を叶えるには貴族縁切りという手しかなかったが、そこに良い噂など絶対に生まれないし、なにより王太子が親友の関係だけは続けていたかったのもあった。
それならば新しい地位を作ってしまえばいいじゃないか。
こうして仮爵制度というものが作られたのであった。
「えっ…そうなんですか!?」
そのことに驚いたのは誰よりもマリアンネだった。
聖女として覚醒せずに貴族入りができなかったため、ダーデキシュとの関係をど
こか諦めていたのだ。ダーデキシュは自分は将来は独身なら平民になるとは言っていたが、伯爵家の…しかも力のある家が放っておくはずがない。
しかし、彼が仮爵になるのであれば――諦めなくてもいいかもしれない。
侯爵家でも平民と結婚できるのであれば、まだチャンスは残っている。
気が付けば彼女はポロポロと涙を流しており、ただ茫然と遠くを見つめているだけであった。友二人はそんな彼女を抱きしめ、ただ喜びを分かち合うのであった。
「そうよ。だから、私にとって…あなたは未来の義姉なのよ?」
「それは…まだ早いよぅ! まだちょっとしか会ってないし!」
「ず~る~い~、ボクだって義姉妹なりたかった!」
「ふふふ、私にとってエレナも大事な人よ。」
仮にそんな制度が無かったとしても、やりようなどいくらでもあるし、ネルカはそれを躊躇うことなく実行する気持ちがあった。彼女にとってマリアンネという存在――いや、エレナも含めた存在は大きなものとなっていた。
(ここが物語だとか、話が逸れてるとか…どうでもいいことだわ。)
大事な者が泣くことがないように――
ハッピーエンドで終わらせるために――
今ある幸せをただ守り抜くために――
この先なにが起きようとも自分が解決する――ネルカはそう誓った。
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