第5話 不正解
カフェからの帰り道。
夜空に輝く光も、温かい家庭の温もりを感じさせる光も見たくなくて、ただひたすら俯いて歩く。
私の返事を聞いた二人は、
「そっかーそうだよね。元には戻れないよね」
「すみません、困らせてしまいましたよね」
申し訳なさそうに、悲しそうに微笑んで席を立った。
その後のことは正直覚えていない。
ただ泣いて、泣いて、泣いて。
あまりにも泣きまくるものだから、店員さんがおしぼりを持って来てくれたことは覚えてる。
結局日が沈むまでカフェにいた。
あまりにもあっさりした別れだったけど、これで良かったんだと信じたい。
どちらを選んでもどちらかが不幸になるんだから。
片方を捨てた罪悪感を抱えて生きていくことになるよりも、両方を選ばずに、一人寂しく生きていく方がいい。
彼女たちにはきっとこれから、新しい出会いがある。
私といるよりも幸せになれる。
身勝手だけど、心の底から貴女たちの幸せを願ってるよ。
そんな風に考え事をしていたから気がつかなかった。
人気のない通りで、私の後ろをついてきている人物に。
「朝日」
振り返って、存在に気づいたときには手遅れ。
「いっ」
痛い、という間もなく意識が吹き飛びそうになった。
自分の身になにが起こったのか、考えなくたって……ね。
なにか硬い物で頭を殴られたんだ。
体勢を崩して地面にぶつかりそうになったけど、誰かが支えてくれている。
あれ……さっきの声って。
おでこをなにかが伝い瞼を通っていくせいで、左目が開けられない。
ただ、心臓の音だけが強く聞こえる中、右目で必死に自分の状況を把握しようとする。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
誰がこんなことを。
支えてくれているのは誰。
視線を彷徨わせても、答えは見つからない。
でも、わかってしまった。感じてしまった。
3年も一緒にいたんだよ。
一緒に暮らしてたんだよ。
わかって当然だよね。
私を優しく支えてくれているのは、名前を呼んだのは、朝日だった。
そして、姿は見えないけれどもう一人誰かがいる。
多分緑雨ちゃんだよね。
春雨が一人でこんな行動に出るなんて思えないもん。
あーあ。
薄れていく意識の中で悟る。
私が選んだ選択肢は間違いだったのだ。
どちらかが傷つくとしても、罪悪感を抱えて生きていくことになるとしても、絶対にどちらかを選ばなきゃいけなかったんだ。
後悔したところでもう遅い。
私に残された道は、カラダを包み込む暗闇に身をゆだねることだけだった。
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