第2話 現実は小説よりも奇なり2/3

 なんて話を切り出そう。いや、呼び出したのは彼女の方なんだから、話し出すのを待とう。


 いろいろ考えた末に無言でウインナーコーヒーを飲んでいたら、ふと春雨の手が少し震えていることに気がついた。


 ん、緊張してる? どうして。


「あのさ」


 不思議に思っていたら、漸く春雨が口を開いた。


「先週、緑雨から告白されたって……本当?」


 あぁ、それが聞きたかったのね。


「うん。告白された。『付き合ってください』って」


 別に隠すことじゃないし、春雨にはもう無関係なことだし、包み隠さず先週の出来事を話した。


 どんどん眉間に皺が寄っていく彼女をよそに。


「ほーん」


 全てを聞き終えた春雨の言葉は簡潔。

 なにそれ。

 もっと他に言うことないの。妹の行動がヤバイことについてなにも思わないの。


 元カノが実の妹に告白されたんだよ。

 嫉妬してよ、なんて。

 我が儘かな。


「朝日はさ、緑雨と付き合うつもりなの」


「うーん」


 すっかりホイップがとけてしまったコーヒーを見つめながら、

「迷ってる。嫌いじゃないけど、貴女と別れてからあまりにも日が経ってなさすぎるから」

 正直な答えを聞いた春雨は、何故だか泣きそうな顔をしていた。


「ちょっと、どうしたの。なにかあったの」


「『なにかあった』じゃないよ!」


 久しぶりに人から怒鳴られてしまったせいか、思わず肩がビクッと反応してしまった。

 怖かったわけじゃない。驚いただけ。


「なんで、なんで、朝日は私と別れちゃったの!」


「はい?」


 待った。待った待った待った待った。


「別れを切り出してきたのは貴女じゃない」


 冷静に話をしようと頑張っている私と、前のめりになって怒りをカラダ中から『怒ってます』アピールをしてくる春雨。


「止めてくれると思ったの! たしかに私たちの将来について不安を抱いていたけど、朝日なら……私の不安を吹き飛ばしてくれるって信じてた。なのに、あっさり受け入れちゃうんだもん」


 ちょいちょいちょいちょい。なんで私が責められなきゃいけないの?


 こみ上げてきた怒りをそのままぶつけようと思ったけど、周りのお客さんからの視線を感じて、堪えた。


 悪目立ちしたくないし。


 春雨はといえば、風船がしぼむように小さくなって、椅子の背もたれにカラダを預けていた。


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