第2話 現実は小説よりも奇なり3
冷静になった、というより落ち込んだ様子の彼女を見て、少しずつ怒りが落ち着いてくる。
つまり、つまりですよ。あの日の春雨の別れ話は、
「本気じゃなかったんだね。なにがあったか知らないけど一人で勝手に不安になって、別れ話を切り出しちゃった、ってこと?」
「うん」
店内のBGMにかき消されそうなほど小さな声だったけど、私の耳にはしっかり届いた。
嘘でしょ。信じられない。
私が今日までどんな気持ちで過ごしてきたか、どんな思いで貴女への愛情に蓋をしたのか、わかる?
わからないでしょうね。
ダメだ。またイライラしてきた。
眉間を押さえて皺を伸ばす。
「で、今日はそれをわざわざ伝えに来たの? あの別れ話は本気じゃなかったって」
「うん」
さっきから「うん」しか言わないじゃない。
ほんとにこの子は……。
「それはわかった。だけど、いくらなんでも日が経ちすぎだよ。次の日にでも本心を言ってくれていたら、私たちは――」
「立ち直れなかったの! 自分で言ったくせに、馬鹿みたいってわかってるけどさ。永遠に一緒にいると思ってたから」
あぁ、そうよね。貴女は他の人より何倍も繊細なんだった。
自分の言動を後悔して、どうすれば元通りになれるのかグルグル考えて動けなくなったんだよね。
わかってるよ。3年間ずっと一緒にいたんだから。
「でもね、先週漸く立ち直れたの。このままじゃいけないって思ったの。朝日にちゃんと謝って、恋人に戻ろうって考えてた。それなのに、緑雨が告白したって本人から聞かされて、頭が真っ白になった」
「本人から宣戦布告されちゃったわけか」
「うん」
多分、緑雨ちゃんには春雨が本心から別れを告げたわけじゃないって、お見通しだったんだろうな。
その隙間につけいられたというか、先手を打たれたというか。
段々春雨が可哀想になってきた。
「だから、」
「ん?」
聡明すぎる妹をもった元恋人を哀れに思っていたら、彼女はバンっとテーブルに手をついて、
「私もちゃんと告白する。朝日、もう一度私と付き合ってください!」
「……言うと思った」
話の流れからして想定済みではあったけれど、いや、うん。そうね。
よそのテーブルから無遠慮な視線を向けられているのを感じながら、
「ちょと返事を保留にしてもいいかな」
控えめに両手を上げて、降参のポーズ。
ごめん。美人姉妹から告白されたら、流石にキャパオーバーです。
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