第1話 こんな展開あり?4

「で、どうなんですか。私と付き合ってくれるんですか」


「ちょっ……待って待って」


 危うくコーヒーを吹き出すところだった。


「展開が早すぎて頭がついていかない」


「頑張ってください」


「そんなことを言われても」


 ハンカチで口元を拭い、

「世間的に、姉と別れた後、その妹と付き合うっていうのはどうなんだろう。倫理的によろしくないんじゃないかな」


「言いたいヤツには言わせておけばいいんです」


 真っすぐ力強く見つめてくる視線から逃れるために、私はコーヒーカップに視線を落とした。


「朝日さんは、私のことが嫌いですか」


 あぁもう、わかってるくせに。


「嫌いなわけないじゃない」


「そうですよね」


 断言できるくらいに、私の気持ちをわかっているくせに。


「でもね、貴女の好きと私の好きは違うよ」


 正直なところ、緑雨ちゃんに恋心を抱いたことはない。私は春雨一筋だったから。


「わかってます。それでも、付き合っているうちに同じレベルの好きになるんじゃないですか」


「うーん」


 反論できない。


「だから、付き合いましょう」


 段々彼女の口調が強くなっているのは気のせいだろうか。


「私は絶対に朝日さんを泣かせません」


 世の中に絶対なんてないのに、彼女が言うと、春雨とは叶わなかった『永遠に一緒にいる』ことができるような気がする。


 不思議と。


 でも、

「ごめん、やっぱりこの場で即答はできない。ちゃんと考えさせて」

 世界で一番大切だった人と別れたばかりの私は、すぐに他の人に乗り換えるようなマネはできない。


 そういう性格なんだからしょうがない。


「……わかりました。待つのは得意ですから、待ちます」


「その間に他の人を好きになったら――」

「有り得ません。朝日さんが姉さん一筋だったように、私は朝日さん一筋ですから」


 そう言って彼女はグイっとコーヒーを一気飲みして、立ち上がった。


「永遠には待てませんけど、待ってます。いい返事が聞けることを祈って」


 バッグを肩にかけ、止める間もなく伝票を持って立ち去ってしまった。


 カッコいいなあ……いやいやいや、後輩に奢らせちゃったよ。今度は私が払うとしよう。

 って、今度会うときは多分返事をするときだよね。


 はあ……どうしてこうなったんだろう。


 思わずため息をつきながら天井を見上げた。


 あのさ、どうでもいいことだけど、コーヒーを一気飲みする人を初めて見たよ。

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