第2話:材料は泥だけ。クレイパックを売ろう!👛

 危険な国の、危険で陰険な冷徹公子どのに頼らなければならない私、ユーリア四十……げふんげふん。六ちゃいです。


 こっちの世界に来た時、ユーリアちゃんの意識は消えちゃった。


 その際に階段から落ちて大きなたんこぶを作って、はわわ状態の修道院のシスターに粗末なベッドに寝かされておりました。


 ユーリアちゃんの知識や、言語能力は残っていたので生活には不自由しなかった。よかったよ~。


 ユーリアちゃん、感謝!


 でもな~。あの女神、自分の弟子にしたいとかで。

 ヘッド……ではない、ロリハンティング。き、危険だ!

 

 最初は

「ここは誰? 私はどこ?」

 状態だったから。


 しかし!


 パサパサなライ麦パンとか、ノミばかりの麦わらベッドとか、冬でも水で身体を洗うとか。

 21世紀レディには拷問ですよ。


 最初はびくびくしながら三カ月くらい耐えた。


 自分が死んだらしいことを受け入れるのに時間がかかったし、人生の反省なんかもしていたんですよね。


「あの時、ああすればよかったのになぁ」

 とか。


 誰でもそうじゃない?

 やり直すことができればなぁとか。


 ここで一生をひっそりと過ごすのかなぁ、などと、弱気になっていた私は珍しくしょんぼりしていた。


 が、そのうちこの国がヤヴァいことになっている事を耳に。


「二つの大国が関係悪くなるようね。若い人たちは徴兵されて訓練を始めたわ。税金も高くなるんですって」


 な、なんと!

 この世界でも産業革命が始まり、早めに普仏戦争が?


 このちっこい国はどうなっちゃうのよ?


 そんなこと聞いたもんだから

「増税はんた~い!」

「税収は減税すれば増やせます!」

「そのためには国債を発行、一時的に借金をして労働生産性を上げよう!」

「軍備はそれからです!」

 とか、シスターに迫ったら。


「なんということでしょう! ユーリアちゃんに悪魔がとりついたのかしら!」


 と、大騒ぎの末、この国の政務室、書斎並みのせまい部屋で、いそがしそうに書類と格闘している美クール公子と出会ったのです。


「悪魔か。では悪魔は何ができるのだ。証明して見せよ」


 いやぁ。

 悪魔の存在証明は、絶対に無理ですよ。

 それわかっていて言っているよね、この人。絶対。


 そっけない表情で挑発してくる美クール顔に、カチンときた。


 だから重機関銃のように、その銃身が焼けて折れ曲がるほどの熱を込めて、経済理論と国家運営について語ってしまった。


 でもこのクール顔は微動だにせず。


「論理的には矛盾はない。だが実際にできるかはわからないな」


 結構、この人。

 頭いい?


 この時代で、資本主義経済のリフレ派理論を受け止めることができるとか、天才かい。


 日本の国会議員の中でも正確に理解している人なんかほとんどいないのに。


「おまえが悪魔かどうかはさておき。有用らしいことは分かった。今、この国は有事に突入する。できることは何でもしたいと思っている。

 どうだ、取引しようではないか」


 あ、悪魔と取引とか、えげつない。


 シスター、この人です。

 悪い奴はここです。


「一度だけだ。チャンスを与えよう。この国の長老たちを説得してみせよ。その様子からお前のいう事に助力をしたいと思う」


 クール公子。

 恐ろしい子!


 国を悪魔に売ることも平気でしそうな冷徹さ。


 そこにしびれる、あこ……げふん。


 とういうことで、さっきの会議となったわけです。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「う~ん。予算は毎月金貨1枚。21世紀ならば10万円。だけどこっちでは生活水準がはるかに低いから、毎月100万円くらいの予算!

 結構、いろいろできるかな?」


 私は人手不足の会計事務所の手伝いをしていた時もあります。


 一応、大学時代にダブルスクールで経済学部も出ている。複式簿記や財務諸表も読めるんですよ。


 でもこちらの金融システムは違い過ぎると思う。

 だいたい民間銀行が、そろそろ株式や債券を大々的に取り扱い始める時期。


 その頃のことがわからない。

 しかし通信教育の大学院で、産業革命についての通史は軽く勉強したけどね。


 ほかにも心理学とか、外交史、地政学、農学などなど。


 資格も教員免許は幼小中高すべて揃えているんだ。


 ついでに一年間だけだけど、大学で『戦国時代における東国の食糧事情』という講義をしていた。

 エヘン! 人気なかったけど……


 認定心理士、危険物取扱者免状。甲種は取れなかったけど乙種のいくつか、栄養士、保護士、計量士。


 大型自動車免許だけでなく、大型特殊、つまりキャタピラ車まで運転できる。


 クレーン・フォークリフト、さらには玉掛作業員免許とか。


 自分ながらよく取りましたね~。


「由利ちゃんは、勉強家だねぇ」

「いえ、単なる遊びです。たった一つの趣味ですから」


 何度、そんな会話をしたか。



「ユーリアちゃ~ん。あ~そび~ましょ~♪」


 最近よく一緒に遊んでいる、アリアちゃんです。


 今の遊びは、この子とおこちゃまプレイ……ではない、子供の遊びです。


 茶色の短いツインテがかわいい同い年、同い年なんです私たち、だって私は四十……げふんげふん六歳です。


「はぁ~あ~い~。まっててね~」


 思考を子供モードに。

 教師は、その背の違いだけで子供に恐怖感を持たせちゃうので、ひざ立ちして同じ視点で物事を見ることがコツです。


 定年間際の吉田先生直伝のスタイル。


『そうだよ。由利先生。子供は同じ人間だが、同じレベルで思考しないとね』


 吉田先生、感謝!


 でも、ひざ立ちしなくてもいい現状に、ちょっとショックですが。


「きょうはなにしてあそぶ?」

「う~ん。おままごと~」

「そうだね~。じゃあドロでご飯をつくろうよ~。ゆきとけてきたし~」


 現在、私は思考回路を、このドロ遊びを楽しむ小さな子を「楽しませながら」働いてもらうアイデアを生み出すことで99%を使っていたり。

 しかもこの田舎で少ない資金でも立ち上げられること。


「どうしたの~? ユーリアちゃん。たのしくないの?」


 そんな私のしかめっ面を見て、気にしてくれたアリアちゃんが声をかけてくれる。


 なんと優しい!


 ホッペをすりすりすると、二人とも顔が泥だらけに……


 ぴこ~ん!


 あ!

 これだぁ!


 クレイパック。

 材料費タダのドロで商品が作れる?


 問題は、普通の泥じゃダメなんだよね。

 ミネラルが必要。


 そうとなれば調査開始だよ。


『動物が集まるところには、ミネラル分が多いんだよ。ウンチとかもあるけどね、ははは!』


 土地調査の派遣先で土壌調査の方法を教えてくれた、間宮のおに~さん。

 感謝!


 アリアちゃんと一緒に井戸水汲んで泥を落とし、ソッコー牧場の羊飼いさんの所へ、ダ~~ッシュ!


 こてん。

 思いっきり転んで、あごにすり傷。


 子供は体が軽いから、それほど衝撃がなくてよかったよ。


『お前さんは、ビッグファイブ理論では外向性がずば抜けているからな。突っ走りすぎるなよ』

 と教えてくれた心理学の高杉先生。


 気を付けます!


 リスク管理は多目に安全マージンをとり、ギャンブルはなるべくしません!



 ◇ ◇ ◇ ◇



「なんじゃと? 羊が泥をなめる場所は無いかじゃと?」


 野生の動物は健康のために、不足するミネラルをそれが豊富に含まれている泥を食べて補うんですね。


 その場所はないかな?


「ああ。あれじゃな。川向こうの崖の崩れた所。どうするんじゃ?」

「その泥を持ってこようかと思います」


 羊飼いのジョセップお爺さんは、あご髭を引っ張りながら答える。


「おお。ドロ遊びか? あの泥で何を作るか知らんがな。レオナルド坊ちゃんに手伝ってやれとも言われているが……、できるだけ自分でやらせよとの事じゃからな。

 あの川はお前のような子供では危ないのう。やめておけ」


 う~ん。美クール公子。

 厳しすぎるぞ!


 このお爺さんの顔をじっと見る。

 持ってきてくれないかな?


 ん? お爺さんの鼻が赤い。


 ぴこ~ん!


 そうだ。

 これだ。


「ジョゼップさん。お酒と交換で泥を取ってきていただけません? 今日の酒代は私が出します。

 蜂蜜酒を……1杯だけだけど」


 この田舎では蜂蜜酒は超ぜいたく品と言ってもいい。

 ちょっと高い。


 一つしかない酒場兼宿屋でたま~に飲む人がいるらしいけど、このお爺さんは大分好きらしいね。


 きっと自分で作ったチーズと交換で飲んでいるんかな。

 家族から何といわれているかは考えないでおこう。


「おおっ! そうか。いいともいいとも。どのくらいいるのじゃ?」

「できるだけいっぱいです!」


 私は両手を目一杯広げて、アピール。


 これで、クレイパックの生産は「孤児院の子供が遊んで」製造できる。


 問題はこれの試供品を、どうやって流通させて流行らせるかですね。


 八歳の私は大人の手伝いなくしては、この田舎から出られない。

 そうなると私にできることは……


 あれしかないですよね!




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