第3話:商売の交渉は六歳では難しそうです🎩
「なんだと? 出入り商人をあと二名呼んでほしいと? そんなに輸出品などないではないか。
ましてや三人の業者から買えるような金など、この国にはない」
今度はゲンドウポーズではなく、ひじ掛けに肘をついて
だけどにらまれている事には変わりのない、強烈な圧迫感。
21世紀でそんな圧迫感のある管理職は、パワハラで訴えられるよ?
「はい。そこで加工貿易をします。とある商品の材料を売っていただき、それを加工して輸出。その差額を収入とします」
「この国ですべて作れないのか?」
「いいえ。あえて作りません。ワークシェアリング。サプライチェーンを作り出します。
材料を他で作ってもらい、ここで加工。それを輸出するためにはいくつか工夫が必要です。
商売相手の商人が一名ですと足元を見られます。いつでも他の商人に乗り換えられるぞと、無言の圧迫を行います。
ついでに主導権を握らせないように随意契約ではなく入札制度にして、経費を極限まで押さえさせます」
美クール顔がピクッと動いた。
何か今、ニヤリとしそうになった?
「それで? 何を作るのだ?」
「はい。美顔薬です。単なる泥ですが、使い方を知っているのは私だけ。その方法を売るのです!」
材料がわからなければ、いくらその方法で泥パックをしても効果はないですね。プラセボ効果はあると思いますが、それは単なる気のせい。
製品とマニュアル。
未知の製品は、これが合わさってこその商品となるよね。
ついでに……
「まだ何か言いたそうだな」
「はい……、できればラインシュタイン大公の紋章を使用する許可を……」
「却下だ。もし何かがあったら大公家の名に傷がつく。大公家の顔にも泥を塗るつもりか」
ですよね~。
なにか別の方法を使って
『ブランド力』
を、つけていきましょうか。
私は商人誘致と、とある人を呼んでいただけるように頼みこんだ。
これだけで金貨がほとんど飛んでいきました。でもこれが重要なのですよ。
何かを手放さなければ、新しいものはつかめない。
目指せ、わらしべ長者!
さあ~て、うまく行くかなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇
「私が今回、大公国の新たなる産業を興す役目を仰せつかったシュピーゲルと申します」
カイゼル髭をしごきながら、左目につけたモノクルを光らせた商人さん。
交渉人として雇っていただいた、ローゼンフルト帝国で手広く商売を繰り広げているフッガール商会の若手社員さん。
今から三人の商人さんと交渉が始まるよ。
質素なソファにちょこんと座っている私の横で、名乗りを上げるシュピーゲルさん。
私が直接交渉したくても、六歳の幼女じゃ怪しまれるどころか、相手にされないし足元を見てくる。
私は英才教育を受けている商人見習いと名乗ってる。
『交渉を有利に進めるためには、わざと能力を隠すのも一つの手だよ。由利ちゃん』
営業部に派遣された時に交渉術のイロハを教えてくれた副島さん。
感謝!
「この度はお呼びいただいて感謝いたします。フッガール商会のシュピーゲルさま。とても敏腕との噂、耳にしております」
「わたくしフラマン王国で商いをさせていただいております、バロネーズ商会のカメリアと申します」
「わたしは海をへだてた西国、イングレッド連合王国のロスチャールズ商会のアムシールと申します」
いや~。
なんだかヨーロッパの歴史を見ているみたいな名前が沢山。
でも歴史が入り乱れているのは、やっぱり異世界。
「この度の交渉は陶器製の小瓶の輸入と、その製品の輸出搬送。
それからその製品の販売委託です」
さすがやり手の商人さん達。
顔色一つ変えません。
何をするのかこれから説明があるのを聞き洩らさないように、そして直感を働かせて商売の可能性を判断するのでしょう。
そ、総合商社まではハケンで入れませんでした。
残念!
「新製品ですか」
「それはどのようなものでしょう? 楽しみですわ」
「それを一手に引き受けることができるのでしょうか?」
「製品は、今まであったどのようなものとも違います。
女性の肌荒れを取り去ってくれる化粧品です。ニーズは調査済み。現在の化粧品では、肌が荒れて吹き出物ができることは検証済みです。
原因は化粧品を確実に落とすことができないからです。
その毛穴を洗浄するための洗顔手段を売ります」
皆さんの顔がピクッと動いた。
やつぱり聞き落としませんねぇ。この世界のトップ商社マン達!
「美容方法、を売るのですね」
「いかにも」
皆さんの頭が高速回転している音が聞こえる。
「ですが、そのようなものは広まればすぐに真似されて収益が上がらなくなるのでは?」
当然ですね。
この時代に知的財産権はおろか、登録商標すらない。
「そこで皆さんに集まっていただいたのです。こちらの商品を各国で受け入れられるか判断していただき、知的財産権を買い取っていただきたい。そして……」
「生産は大公国でおこなうと?」
さすが鋭い。
すぐに商売の構造を理解する、スーパーエリート。
「左様。どれだけその秘密を保護、その基礎的技術を元にして商売を展開するかは、お互いに競いあっていただきたい。
より良い商品を、ご婦人方にお届けいたしましょうぞ」
すかさず、私は付け足す。
「おねえさん。そのニキビも毛穴がつまっているのが原因よ」
カメリアさんが頬に手をやり、一瞬ムッとした表情になったけど流石一流の商人。
「そうね。化粧を落とすのも大変なのよ、お嬢ちゃん。強い石鹸を使うと肌がぱさぱさになるし」
「ですからそのマニュアルで必要量を調節をして……」
ありゃ。
言い過ぎたか。
皆さん、私に好奇の視線を集中させてくる。
こ、ここは幼い演技を。
下を向いて足が床につかないことを強調、ソファの下でぶらぶら。
どうだ。
幼いんだぞ!
でも、フラマン王国も宮廷料理が有名だけど、裕福な人は結構脂っぽいもの食べてるのかな? そうだとすると脂分で毛穴がつまっている富裕層が多そう。
イングレッド王国もフィッシュアンドチップスとか食べていたら、油まみれだと思う。
ローゼンフルト帝国は質素倹約、質実剛健で鳴る国。
ジャガイモもゆでて食べるか、ふかして食べるかぁ。
おお!
大公国のフライドポテトを流行らせれば、これまたひと商売。
さらにはお肌を荒れさせ……
いけない、いけない。ユーリア!
そのような人の健康をわざと悪くさせて商品を売りつける商売は、地球でやりつくされている。
私はそんなこと、絶対いたしません!
『謀略を考えれば考える程、人は卑しくなり周りから敬遠されるからね。気を付けるんだよ』
ああ。
陰謀論を教えてくれた清川先生。
感謝!
まだまだ物語は、ユーリアは加速していきます!
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