第16話:光陰矢の如し




 ある晴れた昼下がり。

 私とカリナン様の結婚披露宴が行われました。


 婚約期間は1年あり、自分自身でも砂を……いえ、砂糖を吐き出しそうな程の甘ったるい時間を過ごしました。

 デートから帰ると、紅茶や珈琲に砂糖を入れる気になれなかったのがその証拠です。

 カリナン様には内緒ですけどね。



「ペレーザ!おめでとう!」

 本当の、自称じゃない親友のグーラ・レンテリアがお祝いの言葉と共に、手作りのクッキーをこっそり渡してくれました。

 実は花嫁ってあまり物を食べる事が出来ないので、とても助かります。

 特にガーデンパーティー形式の披露宴では、花嫁は食べにくいものなのです。

 飲み物が無くても大丈夫な、しっとり系のクッキーです。

 私との共通の趣味が食べ歩きなだけありますね。

 さすがです!


 本日の披露宴の会場は、な、なんと!カリナン様と出会ったあの公園です。

 いつも通り屋台も出ていて、その全てが食べ放題飲み放題なのです。

 公園なので、当家と関わりの無い方も勿論来ます。

 結婚披露宴中だと知らずに、ただ単に遊びに来る方も当然いらっしゃるでしょう。

 しかしそういう方々も、もれなく無料です。


 会場が公園なのには理由がありまして、あの、私とカリナン様の出会いの日に一緒に宴会をした王様達が、屋台の料理を気に入ったそうなのです。

「またあの料理が食べれるなら、【人間の国】での披露宴に参加しても良いぞ」

 そう言ったのは、鬼人の王様だそうです。

 その一言で、会場が決まりました。



 余談ですが、既に【天人の国】での披露宴は行われており、色々な意味でのあまりの豪華さに、目が潰れるかと思いました。

 天人って、王様だけでなく皆様美形なのですね。

 会場は絵本に出てくるお城のようにキラキラで、指紋ひとつ無いのでは?という程磨かれてました。

 白を基調にした調度品には、差し色の金がとても上品に入っていて、天人の皆様との調和で幻想的でした。


 私が居ても大丈夫?と、気後れしたのは言うまでもありません。


 しかし、天人族はカリナン様を筆頭に、見た目と中身の伴わない種族のようです。

 口を開いたら残ね……いえ、とても親しみ易い方ばかりでした。




 ザワリ。

 会場の一部の空気が変わりました。

 あ、いらっしゃいましたね。

 魔人の王であるアレキサンダー様と、番のサファイア様です。

 実はサファイア様が【人間の国】の王なのだそうです。


 政治等は選挙で選ばれた大臣や官僚、統括者となる人が行っているそうですが、【人間の国】の創設者がサファイア様なので、彼女が王なのだそうです。

 女王ではなく王なのは、バレる可能性を少しでも減らす為だとか。

 そしてサファイア様は人間ですがアレキサンダー様の番であり、とても長生きなので、まだ代替わりしていないのだとか。


 それを知っているのは、【人間の国】の代表である統括者と各種族の王、そして王の伴侶だけなのだそうです。

 私もカリナン様の伴侶ですからね!

 教えてもらいました。



「御結婚おめでとうございます」

 軽やかに弾むように、サファイア様が私達の元へと歩いていらっしゃり、お祝いの言葉をくださいました。

 後ろに寄り添うアレキサンダー様も、笑顔で「おめでとう」とおっしゃってくださいました。

 笑顔、綺麗過ぎて怖いと思ったのは絶対に秘密です。


 アレキサンダー様の後ろには、誰かが付き従っているようで、チラリと肩が見えました。

 従者の方かな?とは思いましたが、アレキサンダー様のマントに隠れて殆ど見えないのですぐに視線を戻しました。


 カリナン様とアレキサンダー様が会話を交わし、私とサファイア様も挨拶をします。

 サファイア様に手に収まる可愛い紙袋を渡されました。

「明日の朝に開けてくださいね」

 そう言われたので、素直に頷いておきました。

 その後、すぐに他の王様達もいらっしゃり、アレキサンダー様とサファイア様へ挨拶をして前を辞しました。




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統括者=総理大臣みたいな感じでお考えください

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