第15話:婚約へ
天人……いえ、天人の王であるカリナン様を伴って帰った私を見て、お母様は静かに倒れました。
人が意識を失って倒れていく様を初めて見ました。
外ではなく、それなりの厚さのある絨毯が敷きつめてある建物内で良かったです。
ちょっとだけ裕福な家庭で育った自覚はあります。
なぜなら、うちには執事がおりますから。
「奥様!大丈夫ですか!?奥様!!」
茫然と倒れていく母を見つめていた私は、執事のセバスの声で我に返りました。
現実逃避している場合じゃありません。
「お母様!」
急いで駆け寄ると、お母様は床……と言うか絨毯にも触れておらず、地上から10センチくらいの高さに浮いてました。
「驚かせてしまったようだね。ごめん」
私の横にゆっくりと歩いて来たカリナン様が、本当に申し訳なさそうな声を出しました。
セバスと私に支えられて……いえ、これはおそらくカリナン様の魔法ですね。
意識の無いお母様を支えて立たせているのに、ほとんど負担が無いのです。
それを自慢するでも、押し付けがましくするでもなく、こっそりと手伝ってくださっているのです。
直ぐにバレてしまうのにね。
とにかく、お母様をお部屋のソファへと移動させました。
しばらく……10分程セバスに様子を見てもらいましたがお母様が意識を取り戻さないようなので、急いでお父様を呼びに行くよう指示を出しました。
今なら商工会事務所に居るでしょう。
お仕事中ですが、天人の王様の対応の為ならば早退してくださいますよね?ね?
余談ですが、お母様を自室まで運ぶのに、心配だからとカリナン様が部屋の前まで着いていらっしゃいました。
さすがに入室許可は出せませんので廊下でお待ちいただきました。
扉が閉まり、カリナン様の視界から外れた途端、お母様の本来の重さが私とセバスに掛かりました。
意識を失った人間って、これほどまでに重いのですね!
応接室でセバスのいれたお茶を飲みながら、カリナン様とお父様を待ちます。
メイドは、買い物から帰って来た瞬間にセバスに要点だけを説明され、商工会事務所にお父様を呼びに行きました。
殆ど理解出来ていないようでしたが、言われた通りの言葉を復唱していたので大丈夫でしょう。
……大丈夫ですよね?
お一人で待たせるのも失礼かと、私は外出着のままカリナン様の応対をしております。
目の前には、伏せ目がちにお茶を飲むカリナン様。
目の毒ですわ!
お茶を飲んでいるだけなのに、何でしょうこの漂う色気は。
天人の王様には、サキュバスの血でも入っているのでしょうか?
あら?インキュバスだったでしょうか。
まぁ、この際どちらでも良いですね。
「ペレーザ?」
カリナン様の伏せていた睫毛が持ち上がり、私と視線が合った途端に名前を呼ばれました。
微かに目元が笑っています。
ずっと見つめていた事に気付かれていたのでしょうか。
思わず恥ずかしくなり、緩く首を振りながら、俯いてしまいました。
きっと私の顔は真っ赤です。
その後、焦りに焦ったお父様が帰宅され、赤くなったり青くなったりしながらも、無事にカリナン様との婚約の話をまとめていました。
普通の婚約と違い、天人の王であるカリナン様との婚約となれば、国が関わってくるので大変そうです。
他人事のようで申し訳ないのですが、実際に実感が湧かないので仕方がありませんよね。
でも、前の婚約者である番というクズより、カリナン様の方がずっと好感度が高いです。
その為、私はこの婚約に不安も不満もありません。
────────────────
前回の話で完結にしようかと思ったのですが、もう少しだけ続きます。
更新が止まってしまい、申し訳ございませんでした(¯―¯;)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます